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52.離ればなれ
午後――。
わたしはアレックを連れ、宿の裏手にある細い路地を歩いていた。
町外れへ出ようと思い立った。
ここに長く滞在すればいずれ人目につき、
その噂が館にも伝わるかもしれない。今すぐ移動を…と焦燥に駆られていた。
裏通りを折れ、暗がりへと差しかかったとき、
突然、漆黒のマントを纏った男たちがわたしを囲んだ。
「動くな!」
鋭い声が響いたかと思うと、わたしの腕をつかむ力強い手、
アレックを奪い取ろうとするごつごつとした指。
まさか、もう手配が回っている?
わたしは遮二無二アレックを庇おうと抱き寄せるが、
その子の腕を掴む男の手は容赦がない。
「離してっ……!」
思わず叫んだが、その声はかき消され、
アレックもまた恐怖に泣き声を上げた。
相手はその幼い声に微塵も動じない。
手甲には領地内の兵であることを示す紋章が刻まれている。
つまりは館付きの兵士たちだ…!
「騎士団長の命により身柄を確保する。連行するぞ!」
「離して…アレックに手を出さないで…!」
夢の中で叫んでいるかのように、声は震え、発せられるや否やかすれていく。
兵士は無言のまま、冷たい目でわたしを押さえ込み、
一人がアレックを乱暴につかんで引き離した。
アレックの泣き声を背に、わたしは両腕を後ろ手に縛られ、
それでも抵抗しようともがいた。
けれど兵士たちは慣れた手つきで動きを封じる。
わたしは地面に膝をつき、埃まみれになりながら、
振り返ってアレックの姿を追う。
幼子は怯えながらも必死に「メアリー!」と叫んで手を伸ばしている――。
わたしの心臓がこなごなに砕けた。
「どうか、アレックだけは……」
願いにも似た叫びが空しくこだまする。兵士たちは聞く耳を持たないまま、
わたしの頭上に黒い布を被せた。視界が闇に閉ざされ、たちまち意識が遠のく。
――
どれくらいの時間が経ったのか、感覚すら曖昧になっていた。
護送馬車を思わせる頑丈な木の檻に押し込められ、憔悴しきっていた。
馬車の不規則な揺れに同調するかのように、
頭はがんがんと痛み、手足の先は痺れを引きずっている。
重い鎖の冷たさだけがかろうじて意識を繋ぎとめる碇のよう。
室内に閉じ込められた空気は淀み、汗と埃の匂いが鼻をつく。
布を被せられているせいで外の景色が見えず、
どこに連れて行かれるのかさえ分からなかった。
「…アレックは?」
声を何度あげても応答はない。
外から聞こえてくるのは無機質な馬の蹄の響きだけ。
やがて馬車は大きく揺れ、ぬかるんだ土の道から舗装された道路へ入ったようだ。
鈍い振動が絶えず身体を打つ。
意識がくぐもるなか、声にならない声で祈り続けた。
(アレック、どうか無事でいて…)
わたしはアレックを連れ、宿の裏手にある細い路地を歩いていた。
町外れへ出ようと思い立った。
ここに長く滞在すればいずれ人目につき、
その噂が館にも伝わるかもしれない。今すぐ移動を…と焦燥に駆られていた。
裏通りを折れ、暗がりへと差しかかったとき、
突然、漆黒のマントを纏った男たちがわたしを囲んだ。
「動くな!」
鋭い声が響いたかと思うと、わたしの腕をつかむ力強い手、
アレックを奪い取ろうとするごつごつとした指。
まさか、もう手配が回っている?
わたしは遮二無二アレックを庇おうと抱き寄せるが、
その子の腕を掴む男の手は容赦がない。
「離してっ……!」
思わず叫んだが、その声はかき消され、
アレックもまた恐怖に泣き声を上げた。
相手はその幼い声に微塵も動じない。
手甲には領地内の兵であることを示す紋章が刻まれている。
つまりは館付きの兵士たちだ…!
「騎士団長の命により身柄を確保する。連行するぞ!」
「離して…アレックに手を出さないで…!」
夢の中で叫んでいるかのように、声は震え、発せられるや否やかすれていく。
兵士は無言のまま、冷たい目でわたしを押さえ込み、
一人がアレックを乱暴につかんで引き離した。
アレックの泣き声を背に、わたしは両腕を後ろ手に縛られ、
それでも抵抗しようともがいた。
けれど兵士たちは慣れた手つきで動きを封じる。
わたしは地面に膝をつき、埃まみれになりながら、
振り返ってアレックの姿を追う。
幼子は怯えながらも必死に「メアリー!」と叫んで手を伸ばしている――。
わたしの心臓がこなごなに砕けた。
「どうか、アレックだけは……」
願いにも似た叫びが空しくこだまする。兵士たちは聞く耳を持たないまま、
わたしの頭上に黒い布を被せた。視界が闇に閉ざされ、たちまち意識が遠のく。
――
どれくらいの時間が経ったのか、感覚すら曖昧になっていた。
護送馬車を思わせる頑丈な木の檻に押し込められ、憔悴しきっていた。
馬車の不規則な揺れに同調するかのように、
頭はがんがんと痛み、手足の先は痺れを引きずっている。
重い鎖の冷たさだけがかろうじて意識を繋ぎとめる碇のよう。
室内に閉じ込められた空気は淀み、汗と埃の匂いが鼻をつく。
布を被せられているせいで外の景色が見えず、
どこに連れて行かれるのかさえ分からなかった。
「…アレックは?」
声を何度あげても応答はない。
外から聞こえてくるのは無機質な馬の蹄の響きだけ。
やがて馬車は大きく揺れ、ぬかるんだ土の道から舗装された道路へ入ったようだ。
鈍い振動が絶えず身体を打つ。
意識がくぐもるなか、声にならない声で祈り続けた。
(アレック、どうか無事でいて…)
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