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55.神判の塔
それから幾日か後、わたしは神判の塔へ移送された。
神判の塔は領地の中央にそびえ立つ巨大な白亜の裁判所で、
その荘厳な姿は周囲の風景から一際目を引く存在となっている。
塔の頂上付近には、巨大な天秤を構えた女神像が設置されており、
その姿はまさに「神判」の名にふさわしい。
兵士たちに囲まれたまま扉をくぐり、廊下を進むと、
どこからか裁判所独特の厳粛な空気が流れてきた。
足音が壁に反響し、遠くで書類を捲る音や話し声が聞こえる。
一つの控え室らしき場所へ入室する。
兵士から弁護士を選任するように命じられるも、わたしは拒否した。
「自分の権利を理解しているのか?
弁護士の助けなしに、この裁判を乗り切るのは難しいぞ」
「わたしはどのような判決が出ても受け入れる覚悟があります」
「…そうか。ならばここで待て。じきに呼ばれる」
そう言うと、兵士の一人がわたしを中へ残し、扉を閉める。
外には複数の兵士が待機しており、逃げ場などない。
「これが……最後の猶予なのね」
椅子に座り、両手についた枷の重みを改めて感じる。
裁判が始まれば、多くの傍聴人、そして法官や検事らの前で、
わたしは罪状を読み上げられ問い詰められることになる。
(願わくば、罪を認める代わりに
あの子をそっとしておいてほしいとそれだけ言いたい)
ロイド卿にしてもエレノア様にしても、
わたしの処遇は厳しく求めるだろう。
ただ、アレックを傷つけるようなことはしないに違いない。
それがせめてもの救いだった。
――あと少しで、裁判が始まる。
心の奥底で微かな祈りを捧げていた。
(アレックが温かな家庭ですくすく成長しますように。
たとえ母として会えなくても、それだけがわたしの最後の願い。
…エレノア様、どうか、あの子をよろしくお願いします)
外から階下へ人々の足音やざわめきが広がってきた。そろそろ開廷だろう。
この場へ足を踏み入れたら、もう後戻りできない。
全員の視線を一身に浴びながら裁かれる。
扉の向こうで、兵士の声が響く。
「準備はいいか。そろそろ出廷だ」
不思議と動揺はない。
このときが来たという静かな覚悟が呼吸を落ち着かせている。
椅子から立ち上がり、枷の重みを感じながら扉へと歩み寄る。
扉が開けられ、兵士たちが控えている。
その向こうに伸びる回廊が、まっすぐに法廷へと通じている。
瞼をそっと閉じ、最後にアレックの笑顔を思い浮かべる。
わたしを「メアリー」と呼び、愛らしく微笑んでくれたあの子の姿。
夜の闇を抜けて、わたしの腕に抱かれ、眠りにおちた小さな呼吸。
朝の町を見て「すごいね!」とはしゃいでいたときの輝く瞳。
――わたしのすべてはそこにある。
「さあ、行くぞ」
兵士の声にうなずく。
足枷の鎖が床を引きずる音が響き、一歩、また一歩と歩み出す。
あの子の安寧を願いながら、わたしの人生を終わらせるための舞台へ向かう。
そう、これがわたし自身の“最後の務め”だ。
いま開かれようとする扉の向こうで、法廷は始まろうとしている。
(裁かれるのはわたしの身。それでいい。もう悔いはない)
扉がゆっくり開くその瞬間、最後の祈りを胸に秘めていた。
――どうか、あの子がいつまでも健やかでありますように。
あの子と過ごした短い時間がわたしの人生の光だと思えば恐怖は感じない。
それだけを残して、わたしは高く厳粛な天井の下へ足を踏み入れる。
神判の塔は領地の中央にそびえ立つ巨大な白亜の裁判所で、
その荘厳な姿は周囲の風景から一際目を引く存在となっている。
塔の頂上付近には、巨大な天秤を構えた女神像が設置されており、
その姿はまさに「神判」の名にふさわしい。
兵士たちに囲まれたまま扉をくぐり、廊下を進むと、
どこからか裁判所独特の厳粛な空気が流れてきた。
足音が壁に反響し、遠くで書類を捲る音や話し声が聞こえる。
一つの控え室らしき場所へ入室する。
兵士から弁護士を選任するように命じられるも、わたしは拒否した。
「自分の権利を理解しているのか?
弁護士の助けなしに、この裁判を乗り切るのは難しいぞ」
「わたしはどのような判決が出ても受け入れる覚悟があります」
「…そうか。ならばここで待て。じきに呼ばれる」
そう言うと、兵士の一人がわたしを中へ残し、扉を閉める。
外には複数の兵士が待機しており、逃げ場などない。
「これが……最後の猶予なのね」
椅子に座り、両手についた枷の重みを改めて感じる。
裁判が始まれば、多くの傍聴人、そして法官や検事らの前で、
わたしは罪状を読み上げられ問い詰められることになる。
(願わくば、罪を認める代わりに
あの子をそっとしておいてほしいとそれだけ言いたい)
ロイド卿にしてもエレノア様にしても、
わたしの処遇は厳しく求めるだろう。
ただ、アレックを傷つけるようなことはしないに違いない。
それがせめてもの救いだった。
――あと少しで、裁判が始まる。
心の奥底で微かな祈りを捧げていた。
(アレックが温かな家庭ですくすく成長しますように。
たとえ母として会えなくても、それだけがわたしの最後の願い。
…エレノア様、どうか、あの子をよろしくお願いします)
外から階下へ人々の足音やざわめきが広がってきた。そろそろ開廷だろう。
この場へ足を踏み入れたら、もう後戻りできない。
全員の視線を一身に浴びながら裁かれる。
扉の向こうで、兵士の声が響く。
「準備はいいか。そろそろ出廷だ」
不思議と動揺はない。
このときが来たという静かな覚悟が呼吸を落ち着かせている。
椅子から立ち上がり、枷の重みを感じながら扉へと歩み寄る。
扉が開けられ、兵士たちが控えている。
その向こうに伸びる回廊が、まっすぐに法廷へと通じている。
瞼をそっと閉じ、最後にアレックの笑顔を思い浮かべる。
わたしを「メアリー」と呼び、愛らしく微笑んでくれたあの子の姿。
夜の闇を抜けて、わたしの腕に抱かれ、眠りにおちた小さな呼吸。
朝の町を見て「すごいね!」とはしゃいでいたときの輝く瞳。
――わたしのすべてはそこにある。
「さあ、行くぞ」
兵士の声にうなずく。
足枷の鎖が床を引きずる音が響き、一歩、また一歩と歩み出す。
あの子の安寧を願いながら、わたしの人生を終わらせるための舞台へ向かう。
そう、これがわたし自身の“最後の務め”だ。
いま開かれようとする扉の向こうで、法廷は始まろうとしている。
(裁かれるのはわたしの身。それでいい。もう悔いはない)
扉がゆっくり開くその瞬間、最後の祈りを胸に秘めていた。
――どうか、あの子がいつまでも健やかでありますように。
あの子と過ごした短い時間がわたしの人生の光だと思えば恐怖は感じない。
それだけを残して、わたしは高く厳粛な天井の下へ足を踏み入れる。
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