【完結】夫ではない旦那様の子を身ごもりました

遠野エン

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66.僕がママを守る

アレックは小さな手でぎゅっと握りしめながら、
じっとわたくしの顔を見上げております。
泣き出すでもなく、かといって素直に頷くでもなく、
ただ深い湖の底を覗き込むかのように、何かを懸命に考えている様子。
その沈黙がわずか五歳の子どもが抱えるにはあまりにも
重すぎるものであると痛切に感じます。


やがて、アレックはぽつりと尋ねました。
「じゃあ……お父様は? ロイドお父様はどこにいるの?」
……やはり、この問いも避けては通れませぬ。
不安がらないよう平静を保ちながら、
先ほどのメアリーの件よりも、
少しだけ踏み込んで真実を告げることにいたしました。
ロイド卿の裏切りは、もはや隠しようのない事実であり、
そしてアレックが知るべきことでもあるのですから。

「あなたのお父様、ロイド卿は……
 ママにとても酷いことをなさったのです。
 ですから、もうこのお家にはいらっしゃらないの。
 ……悪いことが皆に知られて、ここから出ていくことになったの。
 あなたはまだ小さいから、すぐには分からないでしょう。
 けれど、いつか……あなたがもっとお大きくなった時には、
 きっとお分かりになりますから」

アレックはわたくしの言葉を静かに聞いておりましたが、
やがて、その小さな顔にはっきりとした怒りの色を浮かべ、
強い口調で言い放ちました。
「お父様がママにひどいことをしたの? 
 ……ぼく、お父様のこと、許さない!」
その言葉には単なる子どもの癇癪ではない、
確かな意志が感じられました。
戸惑いと怒り、そして幼いながらも
目の前の現実を受け止めようとする真剣さが、
彼の瞳の奥に宿っております。


「僕が、ママを守る!」


幼子の気遣いというにはあまりにも強い響き。
それはまるで小さな騎士が誓いを立てるかのような、
悲壮なまでの決意に満ちておりました。

わたくしは込み上げる熱いものを抑えながら、
アレックの柔らかな髪をそっと撫でました。
この子に父親の不在という重荷まで背負わせてしまうとは……。


「……メアリーのこともお父様のことも、
 無理に忘れる必要はないのよ。
 もし思い出してしまって……それで寂しくなったり、
 お胸が苦しくなったりしたら、いつでもママにお話しになって。
 あなたは何も悪くないのだから。きっと大丈夫ですからね」

アレックを再び強く抱きしめ、続けました。
「神様があなたをわたくしのもとへ贈ってくださったのです。
 初めて赤ちゃんのあなたをこの腕に抱いた時、
 わたくしは本当に、言葉にできないほど嬉しかった。
 ママはあなたのことを……心の底から愛しておりますのよ」


この言葉に嘘はございません。この子を育む中で芽生え、
育ててきた愛情は紛れもなく真実。
たとえその始まりがいかなるものであったとしても。

誰もこの子をわたくしから奪うことなどできはしない。
わたくしがこの手で守り抜くのです。
アレックはわたくしの腕の中で、こくりと小さく頷きました。
その温もりと重みが決意をより一層固くするのでした。


真実を隠し続けることの罪悪感、メアリーとロイドへの消えぬ怒り、
そしてアレックへの深い愛……そのすべてを抱えて、
わたくしは生きていかねばなりません。
たとえこの道が、いばらの道であったとしても。
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