【完結】夫ではない旦那様の子を身ごもりました

遠野エン

文字の大きさ
67 / 74

67.決意表明

わたくしはアレックの手をしっかりと握り、
館の大広間へと毅然とした足取りで向かいました。
そこにはシェフィールド家に仕える者たちが勢揃いしておりました。
長年仕える白髪の執事、いつもは快活な侍女たち、
屈強なはずの兵士たち、そして厨房を預かる料理長まで。
誰もが不安と疑念を滲ませた面持ちで、
わたくしたちの登場を待っていました。

この度の忌まわしい事件――突然の追放劇は、
彼らの忠誠心と日常を根底から揺るがしたに違いありません。
どこへ向かえば良いのか、誰を信じれば良いのか、
その戸惑いが伝わってまいりました。

人々の視線はアレックへと注がれました。
あの「誘拐事件」、それに付随して暴かれた出生の秘密――
――アレックはロイドとわたくしの間に生まれた子ではない、
という事実が館の隅々にまで知れ渡っていました。
この幼子がこれからどのような運命を辿るのか、
皆が固唾を飲んで見守っているのです。


重苦しい沈黙が充満する中、
わたくしは背筋を伸ばし、深く息を吸い込みました。
「皆さん、今日はわたくしから、
 どうしてもお伝えしなければならない大切なお話がございます」

心の奥底でくすぶる、人には到底語れぬほどの激情と屈辱。
ときには理性を見失いかけました。しかし今わたくしが守るべきは、
個人的な感情ではありません。この小さな命――アレック、
そして、多くの人々の生活がかかるこのシェフィールド家そのものなのです。


「わたくしは――アレックをこの家の正統なる後継ぎとして育ててまいります」


わたくしは決して退かぬという意志を抱き、続けて宣言いたしました。
「ロイド卿は領主様の厳正なる裁可を経て正式に追放処分となりました。
 わたくしはもう“彼の妻”としてではなく、
 シェフィールド家当主として立つことを決意いたしました。
 アレックはいまだ幼く、多くを学ばねばなりません。
 これから先、わたくしが母として、そして当主として彼を全力で支え、
 次代の当主へと相応しい人物に育て上げてみせます。
 どうか、皆さんの力をお貸しください。
 このシェフィールド家を共に守り立ててはいただけませんか」


皆の視線が交錯し、ざわめきが広間を走ります。
どんな反発や懸念の声が上がるかと身構えました。
けれど、次の瞬間――思いがけず、
白髪の執事が皺の刻まれた手で、
ゆっくりと力強い拍手を始めたのです。
それに続くように年長の侍女たちが、そして他の使用人たちも、
一人また一人と暖かな拍手を送ってくれました。
歓声ではありません。むしろ、一つ一つの音に重みがあり、
この家に対する敬意が込められているような拍手でした。

「エレノア様、我々はあなた様をお支えいたします。
 アレック坊ちゃまが健やかにご成長あそばされるよう、
 力の限りお仕えいたしますとも」

執事の言葉は老齢ながらも力強く響きました。
それに呼応するように、侍女や庭師、兵士、
料理長までもが次々に忠誠の言葉を口にしてくれたのです。
込み上げる熱いものをわたくしは必死に堪えました。


アレックは突然の拍手と声に驚いたのか、
わたくしの腕の中で小さく身をすくめました。
彼を優しく抱き寄せ、耳元で囁きました。
「大丈夫よ、アレック。あなたはわたくしたちの
 大切な、大切な宝物なのですから。皆、あなたの味方ですよ」
アレックの大きな瞳には、まだ戸惑いの色が残っていましたが、
それでも、わたくしの言葉に
僅かな安堵の光が揺らめいたのが分かりました。
その小さな光を決して消させはしないと改めて心に誓いました。


──


館ではわたくしが主導する形でさまざまな改革が進むこととなりました。
大きく傷ついた当家の評判を取り戻さねばなりませんでした。
ロイドの悪行が知れ渡ったことで、領内外からの信用が揺らいでいたのです。
日々、山積する問題と格闘し、
心身ともに疲弊しきってしまうこともありました。
そんな時、わたくしを癒やしてくれたのは他ならぬアレックの存在でした。
彼が満面の笑みを浮かべて言葉を投げかけてくれるだけで、
荒れた心が穏やかな凪を取り戻していくのを感じました。

館の面々はわたくしが"彼ら"を追放した事実について
厳しく問う者はおりません。
皆それなりにこの件のことを感じとり、
口にこそ出さねど察しているのでしょう。
──「エレノア様はもう後ろを振り返らない」と。


──


館の再建は皆の力を合わせたことで“見事に復活を果たした”
とまで呼ばれるようになりました。
領地内の農作物や職人の品が活気を帯び、流通も円滑に進む。
外部からの来客も増え、宿屋や市場では往来の商人たちで賑わいをみせます。

苦悩に打ちひしがれていた日々が、
まるで遠い昔の悪夢であったかのように、
シェフィールドの日常は鮮やかな色彩と活気を取り戻していました。
わたくし一人の力ではなく、アレックの存在に支えられ、
そして何より、あの日の決意を信じ、
共に歩んでくれた館の者たちが一丸となった結果なのです。


そして時が経ち、アレックは間もなく二十歳を迎えます──。
感想 16

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

【完結】好きでもない私とは婚約解消してください

里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。 そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。 婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。

夫が運命の番と出会いました

重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。 だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。 しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?

【完結】今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~

コトミ
恋愛
 結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。  そしてその飛び出した先で出会った人とは? (できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~

水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」 夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。 王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。 「左様でございますか」 彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。

【完結】愛してました、たぶん   

たろ
恋愛
「愛してる」 「わたしも貴方を愛しているわ」 ・・・・・ 「もう少し我慢してくれ。シャノンとは別れるつもりだ」 「いつまで待っていればいいの?」 二人は、人影の少ない庭園のベンチで抱き合いながら、激しいキスをしていた。 木陰から隠れて覗いていたのは男の妻であるシャノン。  抱き合っていた女性アイリスは、シャノンの幼馴染で幼少期からお互いの家を行き来するぐらい仲の良い親友だった。 夫のラウルとシャノンは、政略結婚ではあったが、穏やかに新婚生活を過ごしていたつもりだった。 そんな二人が夜会の最中に、人気の少ない庭園で抱き合っていたのだ。 大切な二人を失って邸を出て行くことにしたシャノンはみんなに支えられてなんとか頑張って生きていく予定。 「愛してる」 「わたしも貴方を愛しているわ」 ・・・・・ 「もう少し我慢してくれ。シャノンとは別れるつもりだ」 「いつまで待っていればいいの?」 二人は、人影の少ない庭園のベンチで抱き合いながら、激しいキスをしていた。 木陰から隠れて覗いていたのは男の妻であるシャノン。  抱き合っていた女性アイリスは、シャノンの幼馴染で幼少期からお互いの家を行き来するぐらい仲の良い親友だった。 夫のラウルとシャノンは、政略結婚ではあったが、穏やかに新婚生活を過ごしていたつもりだった。 そんな二人が夜会の最中に、人気の少ない庭園で抱き合っていたのだ。 大切な二人を失って邸を出て行くことにしたシャノンはみんなに支えられてなんとか頑張って生きていく予定。