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69.新しい後継ぎ
俺は馬車に揺られ、見慣れた故郷の景色の中を進んでいた。
車窓から見える田畑は豊かに実り、市場には活気があふれている。
すれ違う領民たちの表情も明るい。
母がどれほどの情熱を注いで、この領地を立て直してきたかが、
この風景そのものから伝わってくるようだった。
門をくぐると、館の広間まで荷物を抱えたまま歩いていく。
執事や侍女たちが変わらぬ笑顔で迎えてくれるのを見て、
思わずホッと肩の力が抜けた。帰ってくると安心するのは、
やっぱり俺にとってここが“家”だからなんだろう。
「お帰りなさいませ、アレック様」
最古参の老執事が丁寧に出迎えてくれる。
俺も自然に微笑み返しながら、奥へと案内された。
エレノア母さんは応接室のソファに腰掛けて待っていた。
部屋いっぱいに差し込む窓の光に包まれ、
いつも通りの気品に満ちた佇まいだ。
俺を見るとすぐに立ち上がって、そっと抱きしめてくれた。
「アレック、帰ってきてくれてありがとう。
大学はどう? 体は大丈夫?」
「もちろん大丈夫だよ、母さん。
いろいろ忙しいけど元気にやってる。
母さんこそ、疲れてない?」
そう言うと、母さんはかすかに笑みをこぼした。
しばらくは大学の話で盛り上がった。
母にしてみれば、俺がどんな友人に囲まれ、
何を学んでいるかは気になるところ。
特に経営学の授業に関しては、
領地経営に繋がる知識が豊富だからとても興味を示してくれる。
一通り話し終えた頃、
母さんはふいに真摯な表情になって言った。
「アレック、あなたもまもなく二十歳。
ここからは“シェフィールド家”をどう率いていくか、
もう他人事ではなく、あなた自身が当事者となるの」
胸の奥に緊張感が走った。
もしかすると、これまで漠然と感じていた“後継ぎ”としての話が
具体的に動き出すのかもしれない。心の準備はしていたけれど、
いざ母から切り出されるとやはり身が引き締まる。
「成人の節目に、わたくしはあなたを正式に
シェフィールド家の後継者として迎えたいのです。
……もちろん拒否することもできます。
あなたが自分の人生を自由に生きてほしい気持ちに変わりはありません。
けれどこの家を、領地を守るためには、
いつかは誰かが当主の座を継がなければなりません。
わたくしはあなたを信じています」
母さんの声は静かでありながら、強い決意がにじみ出ている。
言葉を聞きながら、俺は無意識に姿勢を正す。
母さんがこれまで一人で抱えてきたものの
重さを想像するだけで、胸にくるものがある。
「俺、母さんの後を継ぎたい。
もしそれが母さんや、みんなの力になれるなら、喜んで引き受けたい。
ただ、大学の勉強はちゃんと続けたいし、両立しながらになるけど――
それでもシェフィールド家の当主としてやっていきたいって本気で思ってる。
だから、母さんが“いい”って言ってくれるなら……俺、やるよ」
そう言った瞬間、母さんは長年の荷を下ろしたかのように、
ほっと笑みを浮かべてくれた。それを見て、
やっぱり俺はこの人の役に立ちたいんだと改めて実感したんだ。
「ありがとう、アレック。
あなたならきっと……いえ、もう立派に成長していらっしゃるわ。
家督の継承式はあなたの誕生日に催す予定です。
それまで準備や手続きを万全に整えておきましょう。
これからはあなたとわたくしが手を携え、
シェフィールド家を支えるのです。
それがわたしたちの家族としての在り方です」
そう言って母さんは手を差し出してくれた。
俺はその手をしっかりと握り返し、固く誓う。
「はい。俺はあなたの息子です。
どんな壁が出てきても、精一杯やってみます。
そしていつか俺がちゃんと当主として
領民をしっかり守れるようになって、
母さんに心から安心してほしい」
俺は深く頭を下げた。
すべての思いを込めて、母に敬意を示したかったし、
本当の覚悟を示そうと思ったから。
この人が長い年月背負ってきた重圧を、
今度は俺が少しでも引き受ける番だと。
車窓から見える田畑は豊かに実り、市場には活気があふれている。
すれ違う領民たちの表情も明るい。
母がどれほどの情熱を注いで、この領地を立て直してきたかが、
この風景そのものから伝わってくるようだった。
門をくぐると、館の広間まで荷物を抱えたまま歩いていく。
執事や侍女たちが変わらぬ笑顔で迎えてくれるのを見て、
思わずホッと肩の力が抜けた。帰ってくると安心するのは、
やっぱり俺にとってここが“家”だからなんだろう。
「お帰りなさいませ、アレック様」
最古参の老執事が丁寧に出迎えてくれる。
俺も自然に微笑み返しながら、奥へと案内された。
エレノア母さんは応接室のソファに腰掛けて待っていた。
部屋いっぱいに差し込む窓の光に包まれ、
いつも通りの気品に満ちた佇まいだ。
俺を見るとすぐに立ち上がって、そっと抱きしめてくれた。
「アレック、帰ってきてくれてありがとう。
大学はどう? 体は大丈夫?」
「もちろん大丈夫だよ、母さん。
いろいろ忙しいけど元気にやってる。
母さんこそ、疲れてない?」
そう言うと、母さんはかすかに笑みをこぼした。
しばらくは大学の話で盛り上がった。
母にしてみれば、俺がどんな友人に囲まれ、
何を学んでいるかは気になるところ。
特に経営学の授業に関しては、
領地経営に繋がる知識が豊富だからとても興味を示してくれる。
一通り話し終えた頃、
母さんはふいに真摯な表情になって言った。
「アレック、あなたもまもなく二十歳。
ここからは“シェフィールド家”をどう率いていくか、
もう他人事ではなく、あなた自身が当事者となるの」
胸の奥に緊張感が走った。
もしかすると、これまで漠然と感じていた“後継ぎ”としての話が
具体的に動き出すのかもしれない。心の準備はしていたけれど、
いざ母から切り出されるとやはり身が引き締まる。
「成人の節目に、わたくしはあなたを正式に
シェフィールド家の後継者として迎えたいのです。
……もちろん拒否することもできます。
あなたが自分の人生を自由に生きてほしい気持ちに変わりはありません。
けれどこの家を、領地を守るためには、
いつかは誰かが当主の座を継がなければなりません。
わたくしはあなたを信じています」
母さんの声は静かでありながら、強い決意がにじみ出ている。
言葉を聞きながら、俺は無意識に姿勢を正す。
母さんがこれまで一人で抱えてきたものの
重さを想像するだけで、胸にくるものがある。
「俺、母さんの後を継ぎたい。
もしそれが母さんや、みんなの力になれるなら、喜んで引き受けたい。
ただ、大学の勉強はちゃんと続けたいし、両立しながらになるけど――
それでもシェフィールド家の当主としてやっていきたいって本気で思ってる。
だから、母さんが“いい”って言ってくれるなら……俺、やるよ」
そう言った瞬間、母さんは長年の荷を下ろしたかのように、
ほっと笑みを浮かべてくれた。それを見て、
やっぱり俺はこの人の役に立ちたいんだと改めて実感したんだ。
「ありがとう、アレック。
あなたならきっと……いえ、もう立派に成長していらっしゃるわ。
家督の継承式はあなたの誕生日に催す予定です。
それまで準備や手続きを万全に整えておきましょう。
これからはあなたとわたくしが手を携え、
シェフィールド家を支えるのです。
それがわたしたちの家族としての在り方です」
そう言って母さんは手を差し出してくれた。
俺はその手をしっかりと握り返し、固く誓う。
「はい。俺はあなたの息子です。
どんな壁が出てきても、精一杯やってみます。
そしていつか俺がちゃんと当主として
領民をしっかり守れるようになって、
母さんに心から安心してほしい」
俺は深く頭を下げた。
すべての思いを込めて、母に敬意を示したかったし、
本当の覚悟を示そうと思ったから。
この人が長い年月背負ってきた重圧を、
今度は俺が少しでも引き受ける番だと。
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