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72.世界でただ一人
混乱する頭の中で一つの確信が急速に形を成していく。
今、すぐ隣で、この状況を耐え忍んでいるエレノア母さんを見た後、
俺はメアリーさんの肩にそっと手を置き、断固とした力で彼女の体を離した。
メアリーさんは動きを止め、俺の顔を驚きに満ちた目で直視する。
その目には拒絶の意味を理解できずにいるような悲しみが宿っていた。
涙にもならず、ただ静かに光を失っていた。
「……すみません」
冷静に、はっきりとした口調で言った。
「お気持ちは分かりました。でも……」
「俺の母はここにいるエレノア母さん、ただ一人です」
メアリーさんの顔がみるみるうちに蒼白になっていく。
まるで最後の希望を打ち砕かれたかのように。
「あなたが俺を産んでくれたこと、
それは事実として受け止めます。
でも、俺を育て、守り、愛し、今日まで導いてくれたのは、
エレノイア母さんです。
俺にとっての母親は世界でこの人だけなんです」
言葉は自分でも驚くほどすらすらと出てきた。
感情的になるつもりはなかった。
揺るぎない事実を俺自身の意志として伝える必要があった。
メアリーさんはよろめきそうになるのを必死に堪えているようだった。
言葉を失い、ただ俺と母さんを交互に見やる。
それでも同情が俺の決意を鈍らせることはなかった。
さらに続けた。
今度はシェフィールド家の次期当主として、けじめをつけるために。
「メアリーさん。今日の継承式ですが……
申し訳ありませんが、ご参加はご遠慮いただけますでしょうか。
この式典は領民、そして長年この家に
仕えてくれた関係者のためのものです。
いわば、内々の祝いの場です。
部外者の方の立ち入りはご遠慮いただいているのです」
これは、母さんが以前、領地の運営について
話してくれた際に決めた方針でもあった。
公私の別、家の中と外の区別を明確にすること。
それがロイド卿のような人間が
二度と現れないようにするための一つの知恵だと。
今の状況で、この言葉を口にするのは酷かもしれない。
けれど、ここで曖昧な態度をとることは、
母さんを、そしてこれからのシェフィールド家を守ることには繋がらない。
俺は次期当主としてその線引きをしなければならない。
「アレック……」メアリーさんは力なく呟いた。
その声には深い絶望が滲んでいた。
彼女はもう一度、俺の顔を見た。
何かを言いたげに唇を動かしたが、結局、言葉にはならなかった。
やがて彼女はふらりと背を向けた。
その背中はあまりにも小さく、頼りなく見えた。
メアリーさんは音もなく部屋を出ていった。扉が静かに閉まる。
後に残されたのは張り詰めた空気と静けさだけだった。
母さんの目は感情をこらえるように涙で霞んでいた。
その表情には苦痛だけではない、どこか胸をなでおろすような、
そして俺への深愛のようなものも見て取れた。
「……アレック」母さんが俺の名を呼んだ。
「大丈夫だよ、母さん」俺は力強く頷いた。
「俺がいるから」
母さんの手を引き、部屋の扉へと向かった。
大広間ではシェフィールド家の未来を託された俺を皆が待っている。
背筋を伸ばし、前を向く。
俺はエレノア・シェフィールドの息子として、
そしてシェフィールド家の次期当主として、
今日、新たな一歩を踏み出す。
今、すぐ隣で、この状況を耐え忍んでいるエレノア母さんを見た後、
俺はメアリーさんの肩にそっと手を置き、断固とした力で彼女の体を離した。
メアリーさんは動きを止め、俺の顔を驚きに満ちた目で直視する。
その目には拒絶の意味を理解できずにいるような悲しみが宿っていた。
涙にもならず、ただ静かに光を失っていた。
「……すみません」
冷静に、はっきりとした口調で言った。
「お気持ちは分かりました。でも……」
「俺の母はここにいるエレノア母さん、ただ一人です」
メアリーさんの顔がみるみるうちに蒼白になっていく。
まるで最後の希望を打ち砕かれたかのように。
「あなたが俺を産んでくれたこと、
それは事実として受け止めます。
でも、俺を育て、守り、愛し、今日まで導いてくれたのは、
エレノイア母さんです。
俺にとっての母親は世界でこの人だけなんです」
言葉は自分でも驚くほどすらすらと出てきた。
感情的になるつもりはなかった。
揺るぎない事実を俺自身の意志として伝える必要があった。
メアリーさんはよろめきそうになるのを必死に堪えているようだった。
言葉を失い、ただ俺と母さんを交互に見やる。
それでも同情が俺の決意を鈍らせることはなかった。
さらに続けた。
今度はシェフィールド家の次期当主として、けじめをつけるために。
「メアリーさん。今日の継承式ですが……
申し訳ありませんが、ご参加はご遠慮いただけますでしょうか。
この式典は領民、そして長年この家に
仕えてくれた関係者のためのものです。
いわば、内々の祝いの場です。
部外者の方の立ち入りはご遠慮いただいているのです」
これは、母さんが以前、領地の運営について
話してくれた際に決めた方針でもあった。
公私の別、家の中と外の区別を明確にすること。
それがロイド卿のような人間が
二度と現れないようにするための一つの知恵だと。
今の状況で、この言葉を口にするのは酷かもしれない。
けれど、ここで曖昧な態度をとることは、
母さんを、そしてこれからのシェフィールド家を守ることには繋がらない。
俺は次期当主としてその線引きをしなければならない。
「アレック……」メアリーさんは力なく呟いた。
その声には深い絶望が滲んでいた。
彼女はもう一度、俺の顔を見た。
何かを言いたげに唇を動かしたが、結局、言葉にはならなかった。
やがて彼女はふらりと背を向けた。
その背中はあまりにも小さく、頼りなく見えた。
メアリーさんは音もなく部屋を出ていった。扉が静かに閉まる。
後に残されたのは張り詰めた空気と静けさだけだった。
母さんの目は感情をこらえるように涙で霞んでいた。
その表情には苦痛だけではない、どこか胸をなでおろすような、
そして俺への深愛のようなものも見て取れた。
「……アレック」母さんが俺の名を呼んだ。
「大丈夫だよ、母さん」俺は力強く頷いた。
「俺がいるから」
母さんの手を引き、部屋の扉へと向かった。
大広間ではシェフィールド家の未来を託された俺を皆が待っている。
背筋を伸ばし、前を向く。
俺はエレノア・シェフィールドの息子として、
そしてシェフィールド家の次期当主として、
今日、新たな一歩を踏み出す。
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