【完結】廃墟送りの悪役令嬢、大陸一の都市を爆誕させる~冷酷伯爵の溺愛も限界突破しています~

遠野エン

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5.初仕事は掃除

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私の宣言に職員たちはきょとんとした表情を見せた。予想外の言葉にホールは再び沈黙に包まれる。

「光もろくに届かない場所で、どうして人の心が明るくなるでしょう。淀んだ空気の中で、どうして新しい発想が生まれるでしょう。環境は人の心を作ります。この市庁舎は今の皆さんの心そのものです。だからこそ、まずここから変えるのです。自分たちの手で働く場所を快適にすること。それが再生への第一歩です」

そう言うと、ためらうことなく羽織っていた上着を脱ぎ、袖をたくし上げた。そして近くにあった埃まみれのバケツと雑巾を手に取る。

「さあ、皆さん、始めましょう!」

私の行動に職員たちはもちろん、オドネルさえもが目を剥いた。

「お、お嬢様! そのような汚れ仕事は我々が!」
「市長も職員も関係ありません」

慌てて駆け寄ろうとするオドネルを手で制し、私はその場に膝をついた。
黒ずんだ床板。そこに雑巾を押し当て、体重を乗せて磨き始める。爪の間に汚れが入るのも厭わず、ただひたすらに手を動かした。

「この街を良くしたいと願う仲間でしょう?」

私の問いかけに答える者はいない。床を擦るシュッ、シュッという音だけが彼らの無気力にノックし続ける。

その沈黙を破ったのは古株と思われる白髪の職員。彼は立ち上がり、無言で箒を手にした。それを皮切りに、一人、また一人とおずおずと掃除道具を手に取り始めた。

最初は緩慢だった彼らの動きが次第に変わり始める。

「そこの窓、開かないか?」「手を貸してくれ、この棚を動かすぞ」

誰からともなく声が上がり始めた。何年も閉ざされていた鎧戸が押し開けられた途端、真新しい風がホールへと吹き抜けていく――――。

皆、熱を帯びていく。次々と窓が開け放たれ、新鮮な光と風が流れ込む。埃が舞い、床が磨かれ、蜘蛛の巣が払われていく。体を動かし汗を流すうちに、彼らの顔にこびりついていた無気力の仮面が剥がれ落ちていった。

数時間後、市庁舎は見違えるように明るくなっていた。差し込む西日が磨かれた床に反射して輝いている。掃除を終えた職員たちの額には汗が光り、その表情には疲労と共に、久しぶりに感じたであろう心地よい達成感が浮かんでいた。職員たちは肩で息をしながら、互いの顔を見合わせている。服は埃まみれ。誰かが小さく笑うと、それは伝播し、やがて控えめな笑い声がホールに満ちた。

オドネルが思わず感服の声を上げる。

「いやはや、環境整備と意識改革をいっぺんにやられてしまうとは。お見事というほかありません」

私は彼らに向かって笑顔で告げた。

「皆さん、ご苦労様でした。見てください。ここはもうただの古びた建物ではありません。私たちの未来を創るための拠点です」

私の言葉に今度はもう誰も笑わなかった。職員たちの瞳に忘れかけていた光が宿り始めている。アトランシア再生プロジェクトの歯車が、今、静かに回り始めた瞬間だった。
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