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帰還と侵入
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私、リリアナは愛しい夫グラントの帰還を心待ちにしていた。戦地へ赴いてからというもの、手紙も途絶えがちで無事なのかどうかさえわからなかった。長い間、祈るように過ごしていた日々。ただただ無事を願って日々をやり過ごしてきた。
そして、その日――。村外れにある広場で戦地から戻る兵士たちが馬車から降りてくると聞いて、朝からそわそわしていた。二度と会えないのではないかという恐怖に心を蝕まれながら、いや、きっと彼は生きて帰ってくると信じて待ち続けていた。その姿を目にするまで安心なんてできない。私の心は千切れそうなほどに張り詰めていた。
朝早く、家の周りをぐるっと掃除して気を紛らわそうとする。それでも落ち着かず、家を出たり入ったりを繰り返す。ふいに空を見上げると、少し灰色がかった白い雲が流れていた。「今日は晴れるかしら……」と何気なくつぶやくと、胸の奥がちくりとする。そんな天気のことよりも夫が帰る事実のほうが私の心を支配していた。
腕時計など持ってはいないけれど、自分の心臓を鼓動の代わりにして何度も時刻を確かめた。早くあの場所へ行かなくては――そう思いながらも、もし現地で違う知らせを受けたらどうしよう、という恐怖に足がすくんだ。
けれど、いつまでもこうしてはいられない。思い切って家を出て村の広場へ向かう。途中、夫の友人たちと思しき人々ともすれ違った。なかには負傷した兵士も車椅子で移送されている。こんなに多くの人が戦地から戻ってきたのだ。それは同時に多くの命が消えたことを意味しているともいえる。その事実に思わず意気消沈する。
広場に着くと、多くの人がごった返していた。家族や恋人を待つ人々、無事戻ってきた兵士に白い布を巻いて感謝を伝える人々……。どこを見渡しても泣き声や笑い声が混ざり合っている。私は人混みのあいだを縫うように進みながら、必死にグラントの姿を探した。
「グラント……どこにいるの?」
その名前を口に出してみても周囲は雑踏に包まれ聞こえはしない。焦りが募って息がうまくできないほど胸が苦しくなった。もし、彼が負傷しているとしたら? あるいは名簿には“帰還”と書かれていても、戦地で心を病んでしまっていたら?――さまざまな不安が頭をよぎる。
「グラント……!」
そのとき、人波の向こうでふと、見覚えのある顔を見つけた。彫りの深い顔立ちで強さと優しさを兼ね備えたまなざし。そう、それは間違いなく私の夫……グラントだ。思わず大きく息を吸い込み、両頬が熱くなるのを感じながら人波をかき分けて走り寄る。
「グラント! 無事なのね!」
私が名を呼ぶと彼はゆっくりとこちらを振り向いた。少し痩せたかなと思うものの、確かにそこにいる。感激のあまり、こみ上げる涙をこらえきれず、そのまま彼の胸に飛び込んだ。
「リリアナ……ただいま」
ひどく疲れた声だったけれど、その声を聞いてようやく安心できた気がした。何度も何度も彼の肩を抱きしめ、しっかりとその存在を確かめる。
「よかった……本当に……よかった……」
数ヶ月ぶりに感じる彼の体温はささくれ立った私の心を穏やかに溶かしていくようだった。けれど、すぐに妙な違和感を覚える。私の背後に視線を向けるグラントのまなざしがどこか落ち着かない。何か言いたげに口を開いては塞いでいるように見えた。
「グラント? どうしたの?」
問いかけるとグラントは呼吸を少し整えてから、気まずそうに視線を横へ逸らす。その先に女性がいた。細身で淡い金色の髪を肩のあたりで束ねている。目鼻立ちはとても整っていて、少し怯えたようにも見える。年齢は20前後だろうか。華奢な身体を少し丸め、グラントの後ろに隠れるように立っていた。
「リリアナ、あの……彼女はヴィーネって言うんだ」
その瞬間、胸の奥にざわりとした感情が生まれた。ヴィーネ――聞いたことのない名前。戦地から戻ってきたということは……兵士の仲間? でも彼女は女性だし、まさか看護師か何かだろうか。その姿はまるで庇護を求めるようにグラントの背に隠れている。どうして戦場からこんな女性を連れて帰ってきたのだろう。不安とも嫉妬ともつかない感情が入り混じる。
そして、その日――。村外れにある広場で戦地から戻る兵士たちが馬車から降りてくると聞いて、朝からそわそわしていた。二度と会えないのではないかという恐怖に心を蝕まれながら、いや、きっと彼は生きて帰ってくると信じて待ち続けていた。その姿を目にするまで安心なんてできない。私の心は千切れそうなほどに張り詰めていた。
朝早く、家の周りをぐるっと掃除して気を紛らわそうとする。それでも落ち着かず、家を出たり入ったりを繰り返す。ふいに空を見上げると、少し灰色がかった白い雲が流れていた。「今日は晴れるかしら……」と何気なくつぶやくと、胸の奥がちくりとする。そんな天気のことよりも夫が帰る事実のほうが私の心を支配していた。
腕時計など持ってはいないけれど、自分の心臓を鼓動の代わりにして何度も時刻を確かめた。早くあの場所へ行かなくては――そう思いながらも、もし現地で違う知らせを受けたらどうしよう、という恐怖に足がすくんだ。
けれど、いつまでもこうしてはいられない。思い切って家を出て村の広場へ向かう。途中、夫の友人たちと思しき人々ともすれ違った。なかには負傷した兵士も車椅子で移送されている。こんなに多くの人が戦地から戻ってきたのだ。それは同時に多くの命が消えたことを意味しているともいえる。その事実に思わず意気消沈する。
広場に着くと、多くの人がごった返していた。家族や恋人を待つ人々、無事戻ってきた兵士に白い布を巻いて感謝を伝える人々……。どこを見渡しても泣き声や笑い声が混ざり合っている。私は人混みのあいだを縫うように進みながら、必死にグラントの姿を探した。
「グラント……どこにいるの?」
その名前を口に出してみても周囲は雑踏に包まれ聞こえはしない。焦りが募って息がうまくできないほど胸が苦しくなった。もし、彼が負傷しているとしたら? あるいは名簿には“帰還”と書かれていても、戦地で心を病んでしまっていたら?――さまざまな不安が頭をよぎる。
「グラント……!」
そのとき、人波の向こうでふと、見覚えのある顔を見つけた。彫りの深い顔立ちで強さと優しさを兼ね備えたまなざし。そう、それは間違いなく私の夫……グラントだ。思わず大きく息を吸い込み、両頬が熱くなるのを感じながら人波をかき分けて走り寄る。
「グラント! 無事なのね!」
私が名を呼ぶと彼はゆっくりとこちらを振り向いた。少し痩せたかなと思うものの、確かにそこにいる。感激のあまり、こみ上げる涙をこらえきれず、そのまま彼の胸に飛び込んだ。
「リリアナ……ただいま」
ひどく疲れた声だったけれど、その声を聞いてようやく安心できた気がした。何度も何度も彼の肩を抱きしめ、しっかりとその存在を確かめる。
「よかった……本当に……よかった……」
数ヶ月ぶりに感じる彼の体温はささくれ立った私の心を穏やかに溶かしていくようだった。けれど、すぐに妙な違和感を覚える。私の背後に視線を向けるグラントのまなざしがどこか落ち着かない。何か言いたげに口を開いては塞いでいるように見えた。
「グラント? どうしたの?」
問いかけるとグラントは呼吸を少し整えてから、気まずそうに視線を横へ逸らす。その先に女性がいた。細身で淡い金色の髪を肩のあたりで束ねている。目鼻立ちはとても整っていて、少し怯えたようにも見える。年齢は20前後だろうか。華奢な身体を少し丸め、グラントの後ろに隠れるように立っていた。
「リリアナ、あの……彼女はヴィーネって言うんだ」
その瞬間、胸の奥にざわりとした感情が生まれた。ヴィーネ――聞いたことのない名前。戦地から戻ってきたということは……兵士の仲間? でも彼女は女性だし、まさか看護師か何かだろうか。その姿はまるで庇護を求めるようにグラントの背に隠れている。どうして戦場からこんな女性を連れて帰ってきたのだろう。不安とも嫉妬ともつかない感情が入り混じる。
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