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再生と希望
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次の日、私たちは神父に連絡を取り、紹介状や必要書類を手に町へ向かった。グラントはカウンセリングを受ける手はずをとり、ヴィーネもシェルターの担当者に面談してもらうことになった。
道中、ヴィーネはいつになく落ち着かない様子だったが、私も同じように不安の渦にのまれそうだった。例えば、本当に彼女が一時的に家を出たら、グラントと私はどんなふうに日常を取り戻せるのか、あるいは取り戻したあとで再び彼女と向き合う日は来るのか――考え出すときりがない。
町の施設は質素な建物で、担当の女性は親身に対応してくれた。戦争孤児やDV被害者など事情を抱えた人たちが一時的に身を寄せるための場所だと説明されると、ヴィーネは恥ずかしさや後ろめたさからか目を伏せていた。
話を聞くうちに次第に表情がほぐれていく。少なくとも帰る場所もなく路頭に迷うことはない。そこに一縷(いちる)の望みがあるのだと感じたのだろう。
「ここで暮らすことになったら、グラントさんやリリアナさんとしばらく会えなくなりますか?」
ヴィーネが恐る恐る尋ねると、担当者は柔らかい笑顔で答えた。
「面会に関してはカウンセラーとの相談で決めることになるわ。まずはあなた自身の心を整えることが大事だからね。親しい人と会うことで安心できるなら、その機会を検討することもあるし、逆に不安定になるようなら少し先送りにすることもあるの」
それを聞いたヴィーネはほっとしたような、でもやはりまだ迷いのある表情を浮かべていた。この家だけが彼女の帰る場所だと思い込んでいたから、今さら離れるのは想像以上の恐怖があるのかもしれない。
一方、グラントは別の場所で専門のカウンセラーに面談を行っていた。私は施設の待合室のようなスペースでじっと座っていたが、胸の奥がそわそわして落ち着かない。夫はいま、自分の心の奥底に潜む罪や恐怖、戦場の記憶を語っているのだろうか。かれこれ数時間にも及ぶ面談がようやく終わるころ、彼は疲弊した顔で戻ってきた。
「どうだった?」
私が声をかけると、グラントは小さく息を吐き出し「正直、しんどかった。ただ、これで少し前に進めるかも」と答えてくれた。彼は紹介された専門医のもとへ通うことになった。戦場体験――特に家族を奪ってしまった当事者としての自責、負傷した仲間を救えなかったという虚無感、夜ごとの悪夢に苛まれる日々。それらを少しずつ言葉にしてカウンセリングを受けることで、心の安定をはかるという。
「リリアナ、オレ……もっと早くにこうするべきだったかもしれない。おまえやヴィーネを苦しめる前に……」
「いいの。気づいたときがスタートよ。これから変わっていけばいいじゃない?」
そう言うと、グラントはかすかに笑みを浮かべた。その笑顔はどこかぎこちないけれど、前を向こうとしている意志が感じられた。
◇◇◇
数日後、ヴィーネはシェルターへと入ることになった。社会的にも支援の手が届きにくい戦争被害者や孤児たちが集まる場所で、同じ境遇の人々との関わりやスタッフのサポートにより社会復帰を目指すという。
彼女が家を出る日、玄関先で何度も忘れ物がないか確認していた。
「ヴィーネ、気をつけて。何かあれば神父さま経由でもいいから連絡をちょうだい」
そう声をかけると、ヴィーネはこくんとうなずき、私と向き合いました。
「リリアナさん……いろいろと、すみませんでした。でも、ありがとうございます」
最後のほうはうまく声になっていなかったが、胸に深くしみ込んだ。喉が詰まって私も返事ができなくなり、代わりに小さく微笑むだけで精一杯でした。
そしてグラントはヴィーネを見つめながら何度も頭を下げた。
「オレも……本当にごめん、おまえにこんな思いをさせて。今度はオレが治療を受けて、もっとしっかり立てるようになりたい」
ヴィーネは唇を噛み、最後に「はい……」と深くお辞儀をして、シェルターの担当の方と一緒に家から出て行った。ドアが閉まったあと、私たち二人はしばらく無言のまま立ち尽くした。長かった嵐が一時的に収まったかのような静寂――その静けさがどこか物悲しく思えた。
道中、ヴィーネはいつになく落ち着かない様子だったが、私も同じように不安の渦にのまれそうだった。例えば、本当に彼女が一時的に家を出たら、グラントと私はどんなふうに日常を取り戻せるのか、あるいは取り戻したあとで再び彼女と向き合う日は来るのか――考え出すときりがない。
町の施設は質素な建物で、担当の女性は親身に対応してくれた。戦争孤児やDV被害者など事情を抱えた人たちが一時的に身を寄せるための場所だと説明されると、ヴィーネは恥ずかしさや後ろめたさからか目を伏せていた。
話を聞くうちに次第に表情がほぐれていく。少なくとも帰る場所もなく路頭に迷うことはない。そこに一縷(いちる)の望みがあるのだと感じたのだろう。
「ここで暮らすことになったら、グラントさんやリリアナさんとしばらく会えなくなりますか?」
ヴィーネが恐る恐る尋ねると、担当者は柔らかい笑顔で答えた。
「面会に関してはカウンセラーとの相談で決めることになるわ。まずはあなた自身の心を整えることが大事だからね。親しい人と会うことで安心できるなら、その機会を検討することもあるし、逆に不安定になるようなら少し先送りにすることもあるの」
それを聞いたヴィーネはほっとしたような、でもやはりまだ迷いのある表情を浮かべていた。この家だけが彼女の帰る場所だと思い込んでいたから、今さら離れるのは想像以上の恐怖があるのかもしれない。
一方、グラントは別の場所で専門のカウンセラーに面談を行っていた。私は施設の待合室のようなスペースでじっと座っていたが、胸の奥がそわそわして落ち着かない。夫はいま、自分の心の奥底に潜む罪や恐怖、戦場の記憶を語っているのだろうか。かれこれ数時間にも及ぶ面談がようやく終わるころ、彼は疲弊した顔で戻ってきた。
「どうだった?」
私が声をかけると、グラントは小さく息を吐き出し「正直、しんどかった。ただ、これで少し前に進めるかも」と答えてくれた。彼は紹介された専門医のもとへ通うことになった。戦場体験――特に家族を奪ってしまった当事者としての自責、負傷した仲間を救えなかったという虚無感、夜ごとの悪夢に苛まれる日々。それらを少しずつ言葉にしてカウンセリングを受けることで、心の安定をはかるという。
「リリアナ、オレ……もっと早くにこうするべきだったかもしれない。おまえやヴィーネを苦しめる前に……」
「いいの。気づいたときがスタートよ。これから変わっていけばいいじゃない?」
そう言うと、グラントはかすかに笑みを浮かべた。その笑顔はどこかぎこちないけれど、前を向こうとしている意志が感じられた。
◇◇◇
数日後、ヴィーネはシェルターへと入ることになった。社会的にも支援の手が届きにくい戦争被害者や孤児たちが集まる場所で、同じ境遇の人々との関わりやスタッフのサポートにより社会復帰を目指すという。
彼女が家を出る日、玄関先で何度も忘れ物がないか確認していた。
「ヴィーネ、気をつけて。何かあれば神父さま経由でもいいから連絡をちょうだい」
そう声をかけると、ヴィーネはこくんとうなずき、私と向き合いました。
「リリアナさん……いろいろと、すみませんでした。でも、ありがとうございます」
最後のほうはうまく声になっていなかったが、胸に深くしみ込んだ。喉が詰まって私も返事ができなくなり、代わりに小さく微笑むだけで精一杯でした。
そしてグラントはヴィーネを見つめながら何度も頭を下げた。
「オレも……本当にごめん、おまえにこんな思いをさせて。今度はオレが治療を受けて、もっとしっかり立てるようになりたい」
ヴィーネは唇を噛み、最後に「はい……」と深くお辞儀をして、シェルターの担当の方と一緒に家から出て行った。ドアが閉まったあと、私たち二人はしばらく無言のまま立ち尽くした。長かった嵐が一時的に収まったかのような静寂――その静けさがどこか物悲しく思えた。
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