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プロローグと第一章
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プロローグ
白王という名の馬に乗ってるのがマッチョで短パンにTシャツ、元魔法少女の師匠にもらった魔女の帽子の賞金稼ぎ、リボンの竜。そうね、格好はなかやまって芸人さんみたい。
隣の馬、赤王に乗っているのが私、田中さくら。格好は、、、恥ずかしすぎる。高校の制服の上に、世紀末漫画のような、防弾胸甲と防弾防刃肩パットを着けてるなんて。でも、以前撃たれたとき、しっかり銃弾から守ってくれたの。
この魔女の森までやってきたのは、竜の師匠に会って、どうすればこの異世界から東京に戻れるのかを聞くためよ。
竜が馬を降りながら、
「やっとたどり着いたぜ」
「四日もかかったわね」
「さくら、手綱はこの木に括り付けるんだ」
馬の手綱を木に括り付け、鳥や動物の鳴き声が聞こえる森の中へと入って行った。
木々は茂っているのに、手入れをされているのか、草は一定の高さまでしか伸びていない。
「さくら、ここから先は結界が張ってある。俺のすぐ後ろをついて来いよ。迷子になっちまうぞ」
「迷子になんてなるの?」
「ババアが施した結界だぜ。どこかに連れていかれたら厄介だ。ついてきたほうが安全だ」
竜がリボンスティックを草が茂る地面にあてると、さくらは辺りの空気が軽くなったように感じた。
この新体操で使うリボンスティックは、師匠のマーズと竜が使う武器で、リボンは極細のピアノ線で編み込んである。
さくらは、何度も竜がリボンで猛獣を切り裂くのを見ていた。
何事もなかったように、竜は歩きだした。まっすぐに進み、またリボンスティックを地面にあてた。
そしてまた歩きだし、三度目にリボンスティックを地面にあてようとしたとき、向こうから竜と同じ魔女の帽子をかぶったおばあさんが歩いてくるのが見えた。
「竜、久しぶりね」
「師匠、お元気でしたか?」
「三年ぶりかしら。連絡もよこさないで」
「師匠、結界を張ってるんですから、郵便も配達できないですよ」
「そうね。森の入り口に郵便受けを立てようかしらね」
「師匠は人と関わり合いになりたくなくて、森に住んでるんでしょ?郵便受けを作ったら、意味がないじゃないですか?」
「それもそうね」
「ボケないでくださいよ」
突然、竜の心臓めがけて矢のようにリボンが襲ってきた。
それを竜がリボンスティックで弾いた。
おばあさんは、ニコニコしながら、
「竜、ボケてるか試してみますか?」
竜は頭を掻きながら苦笑いして、
「嫌だな、冗談ですよ」
(怖い人だわ。殺す気でリボンを竜に放ってきた)
「竜、そちらのお嬢さんを紹介してくれないかしら?」
マーズの視線は、さくらの腰に差している、妖刀田中家を見ているようだった。
「彼女はさくらです。彼女が師匠に会って話がしたいというので連れてきました。聞いてあげてください」
お辞儀をして、
「田中さくらです。よろしくお願いします」
マーズは、さくらにニコッと笑って、
「よろしくね。家で話しましょ」
歩きだしたマーズの後ろを、二人はついて行った。
竜はさくらの耳元で、ごく小さな声で、
「あれで百四十歳だぜ。魔法少女時代はクールで戦闘が得意だったらしい。笑いながら仕掛けてくるババアだから、気をつけろよ」
「ホホホ、竜、まだ耳は悪くなっていないのよ」
竜はドキッとして、固まった。
木でできたロッジのような家が見えてきた。
マーズは二人を家の中へと案内した。
年輪の見える分厚いテーブルを挟んで、師匠の前に、竜はとさくらが座った。
大きな窓から、日が差し込み、ベランダに置いてあるロッキングチェアが見える。
竜は立ち上がり、
「師匠、お茶を入れてきます」
「そうね。ありがとう」
「さくらちゃんは何が聞きたいの」
「私は日本の東京から来ました。ここはどこなのでしょうか?」
「東京、、、?」
「はい」
「そういえば、防具のしたは制服のようね。懐かしいわ」
「懐かしい、、、?」
「私はね、この世界ができる前から生きてるの。授かった特別な力で長生きしてるのよ」
マーズは台所に向かって、
「竜、出かけることにします」
「さくらちゃん、見せたいものがあるからついてきて」
森の中を歩きながら、竜が小声で、
「森の奥に行ってはいけないと言われてたから、俺も何があるか知らないんだ」
「ここよ。もう、放射能はほとんど残ってないはず」
木々が生い茂る森の中に、蔓が巻き付き、苔や草の生えた大きな何かがそこら中にあった。
マーズがリボンスティックをムチのように振って、リボンで絡みついたツルを切り裂いていく。
ボロボロに赤く錆びた何かが徐々に見えてきた。
それを見たさくらは驚いた。
折れて朽ち果てた東京タワーの一部がそこに現れたのだ。ペイントの色はわからなくなっているが、形は紛れもなく東京タワーだ。
周りをよく見ると、ビルの残骸から草が生え、ツルが巻き付いているように見える。
震える声で、さくらは尋ねた。
「マーズさん、ここは東京なの?」
「私の知っている東京よ。でも、さくらちゃんがいた東京かは、私には分からないわ。世界線が違うかもしれない」
両手を握りしめたさくらは、感情が制御できなくなり、大きな声で、
「でも、ここへ来る前に、炎が空に!爆発音も聞きました!」
「さくらちゃんは、魔法少女の都市伝説を聞いたことある?あの頃は、なんでも都市伝説になってたわ」
「ないです、、、」
「それじゃ、まだわからないわね」
異世界だと思っていたさくらにとっては、ショッキングな光景だった。
「さくらちゃん、落ち込まないで。まだ伝えたいことがあるの。家に戻りましょう」
さくらの肩をマーズが抱いて森の中を一緒に歩きはじめた。
「ねぇさくらちゃん、あなたががいた東京はどんなところだったの」
楽しかった、ほんの一週間前のことを思い出して、これまでのことを話し始めた。
第一章
まだ肌寒い季節だった。梅田高校は昼休みでざわめいていた。
一年A組である、私、田中さくらが幼馴染の早瀬ミチコと他愛もない会話をしていると、教室の扉を開く音が聞こえた。
「田中。ちょっといいか」
振り向くと、そこに三年生の剣道部員米倉先輩が立っていた。
さくらは慌てて立ち上がった。
「は、はい!」
身長百六十センチの均整の取れた体型を、リボンのついたセーラー服が包み込み、膝までのスカートを履いている。
「よっ、米倉先輩!」
その声を発した瞬間、さくらは自分の声が裏返っていることに気づいて耳まで熱くなった。
(こんなに人がいっぱいいる前で何を、、、?)
体が硬直し、妄想癖がでた。
《 米倉先輩が私に顔を近づけ、
「さくら、放課後、二人で帰らないか」 》
さくらは慌てて首を振った。
(ダメダメ。また変な想像が始まっちゃう。先輩がそんなこと言うわけない)
肩までは届かない短めの髪を撫でながら、次の言葉を待った。
米倉先輩は、さくらに近づきながら、
「早瀬に聞いたんだけど、田中の家って五百年前から続く、実戦剣術家の家系なんだって。先祖代々伝わる凄い日本刀があるらしいね」
米倉先輩の言葉は、デートに誘われる妄想とは程遠いものだった。
隣にいる早瀬ミチコを睨みつけ、彼女にだけ聞こえる声で、
「なんで刀の話を先輩にしたのよ」
「だって、付き合いたいって言ってたでしょ」
入学してすぐのこと、幼なじみのミチコに相談してしまったのだ。
「あのさくらが、男の子に惚れるなんてねぇ」
ミチコは面白そうに身を乗り出してきた。
「誰?誰なの?」
「べ、別に誰でもないわよ!」
「知ってるわよ。毎朝、廊下の同じ場所で立ち止まってボーっとしてるの見たわ」
ミチコの顔が輝いた。
「剣道部の米倉先輩でしょ?」
「な、なんで分かったの!」
「さくらが先輩と付き合えるように、一緒に剣道部に入ってチャンスをつくってあげる。任せといて」
早瀬ミチコは、人差し指を縦に振りながら、
「ただし、今のあんたじゃ男の人と付き合うのは無理ね。先輩と付き合いたかったら、その勝ち気な性格を直しなさい」
「性格なんてすぐに直らないわよ。それに誰かが言ってたわ、男は三十二億人いるって。あたしだって、、、」
右手のひらを前に出した早瀬ミチコが言葉を遮った。
「ちょっと待って、先輩と付き合いたいんでしょ」
「そうだけど、、、」
「じゃあ、弱いふりをするのよ。ほとんどの男性ってプライドが高いから、自分より強い女子とは付き合わないの」
「自分より強い女の子とは付き合わない⁉」
「そうよ。あんたはちっさい頃から、あの剣術狂いのお父さんに鍛えられて、異常に強いんだから、弱いふりをするの」
米倉先輩は期待に満ちた眼差しで、さくらを見た。
「五百年前って室町時代の刀だよね。今日、道場に持ってこれない?そんな凄い刀、一度見たいんだよね」
さくらは下を向き、
(さすがに刀を神棚から持ち出すのはまずい)
顔を上げて先輩にすまなそうに、
「すみません。ちょっと学校の道場に持って行くのは、、、」
ミチコがさくらの言葉を遮った。
「先輩、本物の刀ですよ。学校に持ってこれるわけないですよ。でも、先輩の家になら持っていけると思いますよ」
さくらの肩に手を載せ、 ニッコリ笑って、
「ね、さくら」
そして、耳元でささやいた。
「二人きりになれるチャンスを作ってあげたわよ。持って行くって言いなさい」
さくらはもじもじしながら、
「あ、あの、クラブの後なら、先輩のお家に持って行けます」
(言っちゃった。どうしよう)
米倉の顔は急に明るくなり、
「本当か?それじゃあ、住所を書いておくよ」
米倉先輩は住所を渡して、うれしそうに教室を後にした。
先輩の背中を見送った後ミチコが、
「上手く行ったわね。米倉先輩って、侍に憧れてるんだって。お似合いじゃない。ただし、古い少女マンガみたいな妄想する癖は、早く治しなよ。変態って思われちゃうよ」
「先輩のこと考えると、勝手に想像しちゃうのよ!」
米倉先輩との一緒の時間の後、もとい、クラブの練習の後、さくらは家に帰って父親にバレないよう、そっと道場に入った。
道場を見渡し呟いた。
「この時代に、あんなバカげた修行になんの意味があるのよ」
中学三年生になった頃から、父親との修行はしていない。喧嘩したまま、口も聞いていない。剣道部に入ったなんて言ったら、また修業させられる。
神棚に飾ってある刀を、押し入れから持ってきた模擬刀にすり替えた。
「妖刀田中家。心が守る刀ってどういう意味かしら」
刀を竹刀袋に入れた。悪いとは思ったが、ニヤニヤが止まらない。
「ごめんねパパ」
道場を出て米倉先輩のことを思い、ドキドキしながら照れながら、刀を抱えて走り出した。
「ふ、二人きりで部屋、何を話したらいいの。先輩にキスを迫られたら、断りきれないよ。あ~恥ずかしい」
米倉先輩のことで頭の中が一杯になり、妄想が止まらない。
裏道を使って近道をしようと右に曲がった途端、頭上で聞いたこともない音がした。立ち止まって上を向くと空に火の玉が見え、どこかで爆発が起こった。
「何の音!」
上空から火の玉がさくらの方へ降ってくるのが見えた。
「嘘でしょ、、、⁉」
辺りを見回したが、隠れられる場所が見つからない。目に入ったのは工事中のため開いていたマンホールだった。
(あそこしかない!)
さくらは走り出し、工事用の囲いを飛び越え、必死でマンホールのハシゴを掴み降り始めた。
轟音と共に、マンホール全体が揺れ、ハシゴの強烈な振動に耐えきれず、手が離れてしまった。
「きゃっ!」
さくらは暗闇の中へと吸い込まれるように落ちていった。
白王という名の馬に乗ってるのがマッチョで短パンにTシャツ、元魔法少女の師匠にもらった魔女の帽子の賞金稼ぎ、リボンの竜。そうね、格好はなかやまって芸人さんみたい。
隣の馬、赤王に乗っているのが私、田中さくら。格好は、、、恥ずかしすぎる。高校の制服の上に、世紀末漫画のような、防弾胸甲と防弾防刃肩パットを着けてるなんて。でも、以前撃たれたとき、しっかり銃弾から守ってくれたの。
この魔女の森までやってきたのは、竜の師匠に会って、どうすればこの異世界から東京に戻れるのかを聞くためよ。
竜が馬を降りながら、
「やっとたどり着いたぜ」
「四日もかかったわね」
「さくら、手綱はこの木に括り付けるんだ」
馬の手綱を木に括り付け、鳥や動物の鳴き声が聞こえる森の中へと入って行った。
木々は茂っているのに、手入れをされているのか、草は一定の高さまでしか伸びていない。
「さくら、ここから先は結界が張ってある。俺のすぐ後ろをついて来いよ。迷子になっちまうぞ」
「迷子になんてなるの?」
「ババアが施した結界だぜ。どこかに連れていかれたら厄介だ。ついてきたほうが安全だ」
竜がリボンスティックを草が茂る地面にあてると、さくらは辺りの空気が軽くなったように感じた。
この新体操で使うリボンスティックは、師匠のマーズと竜が使う武器で、リボンは極細のピアノ線で編み込んである。
さくらは、何度も竜がリボンで猛獣を切り裂くのを見ていた。
何事もなかったように、竜は歩きだした。まっすぐに進み、またリボンスティックを地面にあてた。
そしてまた歩きだし、三度目にリボンスティックを地面にあてようとしたとき、向こうから竜と同じ魔女の帽子をかぶったおばあさんが歩いてくるのが見えた。
「竜、久しぶりね」
「師匠、お元気でしたか?」
「三年ぶりかしら。連絡もよこさないで」
「師匠、結界を張ってるんですから、郵便も配達できないですよ」
「そうね。森の入り口に郵便受けを立てようかしらね」
「師匠は人と関わり合いになりたくなくて、森に住んでるんでしょ?郵便受けを作ったら、意味がないじゃないですか?」
「それもそうね」
「ボケないでくださいよ」
突然、竜の心臓めがけて矢のようにリボンが襲ってきた。
それを竜がリボンスティックで弾いた。
おばあさんは、ニコニコしながら、
「竜、ボケてるか試してみますか?」
竜は頭を掻きながら苦笑いして、
「嫌だな、冗談ですよ」
(怖い人だわ。殺す気でリボンを竜に放ってきた)
「竜、そちらのお嬢さんを紹介してくれないかしら?」
マーズの視線は、さくらの腰に差している、妖刀田中家を見ているようだった。
「彼女はさくらです。彼女が師匠に会って話がしたいというので連れてきました。聞いてあげてください」
お辞儀をして、
「田中さくらです。よろしくお願いします」
マーズは、さくらにニコッと笑って、
「よろしくね。家で話しましょ」
歩きだしたマーズの後ろを、二人はついて行った。
竜はさくらの耳元で、ごく小さな声で、
「あれで百四十歳だぜ。魔法少女時代はクールで戦闘が得意だったらしい。笑いながら仕掛けてくるババアだから、気をつけろよ」
「ホホホ、竜、まだ耳は悪くなっていないのよ」
竜はドキッとして、固まった。
木でできたロッジのような家が見えてきた。
マーズは二人を家の中へと案内した。
年輪の見える分厚いテーブルを挟んで、師匠の前に、竜はとさくらが座った。
大きな窓から、日が差し込み、ベランダに置いてあるロッキングチェアが見える。
竜は立ち上がり、
「師匠、お茶を入れてきます」
「そうね。ありがとう」
「さくらちゃんは何が聞きたいの」
「私は日本の東京から来ました。ここはどこなのでしょうか?」
「東京、、、?」
「はい」
「そういえば、防具のしたは制服のようね。懐かしいわ」
「懐かしい、、、?」
「私はね、この世界ができる前から生きてるの。授かった特別な力で長生きしてるのよ」
マーズは台所に向かって、
「竜、出かけることにします」
「さくらちゃん、見せたいものがあるからついてきて」
森の中を歩きながら、竜が小声で、
「森の奥に行ってはいけないと言われてたから、俺も何があるか知らないんだ」
「ここよ。もう、放射能はほとんど残ってないはず」
木々が生い茂る森の中に、蔓が巻き付き、苔や草の生えた大きな何かがそこら中にあった。
マーズがリボンスティックをムチのように振って、リボンで絡みついたツルを切り裂いていく。
ボロボロに赤く錆びた何かが徐々に見えてきた。
それを見たさくらは驚いた。
折れて朽ち果てた東京タワーの一部がそこに現れたのだ。ペイントの色はわからなくなっているが、形は紛れもなく東京タワーだ。
周りをよく見ると、ビルの残骸から草が生え、ツルが巻き付いているように見える。
震える声で、さくらは尋ねた。
「マーズさん、ここは東京なの?」
「私の知っている東京よ。でも、さくらちゃんがいた東京かは、私には分からないわ。世界線が違うかもしれない」
両手を握りしめたさくらは、感情が制御できなくなり、大きな声で、
「でも、ここへ来る前に、炎が空に!爆発音も聞きました!」
「さくらちゃんは、魔法少女の都市伝説を聞いたことある?あの頃は、なんでも都市伝説になってたわ」
「ないです、、、」
「それじゃ、まだわからないわね」
異世界だと思っていたさくらにとっては、ショッキングな光景だった。
「さくらちゃん、落ち込まないで。まだ伝えたいことがあるの。家に戻りましょう」
さくらの肩をマーズが抱いて森の中を一緒に歩きはじめた。
「ねぇさくらちゃん、あなたががいた東京はどんなところだったの」
楽しかった、ほんの一週間前のことを思い出して、これまでのことを話し始めた。
第一章
まだ肌寒い季節だった。梅田高校は昼休みでざわめいていた。
一年A組である、私、田中さくらが幼馴染の早瀬ミチコと他愛もない会話をしていると、教室の扉を開く音が聞こえた。
「田中。ちょっといいか」
振り向くと、そこに三年生の剣道部員米倉先輩が立っていた。
さくらは慌てて立ち上がった。
「は、はい!」
身長百六十センチの均整の取れた体型を、リボンのついたセーラー服が包み込み、膝までのスカートを履いている。
「よっ、米倉先輩!」
その声を発した瞬間、さくらは自分の声が裏返っていることに気づいて耳まで熱くなった。
(こんなに人がいっぱいいる前で何を、、、?)
体が硬直し、妄想癖がでた。
《 米倉先輩が私に顔を近づけ、
「さくら、放課後、二人で帰らないか」 》
さくらは慌てて首を振った。
(ダメダメ。また変な想像が始まっちゃう。先輩がそんなこと言うわけない)
肩までは届かない短めの髪を撫でながら、次の言葉を待った。
米倉先輩は、さくらに近づきながら、
「早瀬に聞いたんだけど、田中の家って五百年前から続く、実戦剣術家の家系なんだって。先祖代々伝わる凄い日本刀があるらしいね」
米倉先輩の言葉は、デートに誘われる妄想とは程遠いものだった。
隣にいる早瀬ミチコを睨みつけ、彼女にだけ聞こえる声で、
「なんで刀の話を先輩にしたのよ」
「だって、付き合いたいって言ってたでしょ」
入学してすぐのこと、幼なじみのミチコに相談してしまったのだ。
「あのさくらが、男の子に惚れるなんてねぇ」
ミチコは面白そうに身を乗り出してきた。
「誰?誰なの?」
「べ、別に誰でもないわよ!」
「知ってるわよ。毎朝、廊下の同じ場所で立ち止まってボーっとしてるの見たわ」
ミチコの顔が輝いた。
「剣道部の米倉先輩でしょ?」
「な、なんで分かったの!」
「さくらが先輩と付き合えるように、一緒に剣道部に入ってチャンスをつくってあげる。任せといて」
早瀬ミチコは、人差し指を縦に振りながら、
「ただし、今のあんたじゃ男の人と付き合うのは無理ね。先輩と付き合いたかったら、その勝ち気な性格を直しなさい」
「性格なんてすぐに直らないわよ。それに誰かが言ってたわ、男は三十二億人いるって。あたしだって、、、」
右手のひらを前に出した早瀬ミチコが言葉を遮った。
「ちょっと待って、先輩と付き合いたいんでしょ」
「そうだけど、、、」
「じゃあ、弱いふりをするのよ。ほとんどの男性ってプライドが高いから、自分より強い女子とは付き合わないの」
「自分より強い女の子とは付き合わない⁉」
「そうよ。あんたはちっさい頃から、あの剣術狂いのお父さんに鍛えられて、異常に強いんだから、弱いふりをするの」
米倉先輩は期待に満ちた眼差しで、さくらを見た。
「五百年前って室町時代の刀だよね。今日、道場に持ってこれない?そんな凄い刀、一度見たいんだよね」
さくらは下を向き、
(さすがに刀を神棚から持ち出すのはまずい)
顔を上げて先輩にすまなそうに、
「すみません。ちょっと学校の道場に持って行くのは、、、」
ミチコがさくらの言葉を遮った。
「先輩、本物の刀ですよ。学校に持ってこれるわけないですよ。でも、先輩の家になら持っていけると思いますよ」
さくらの肩に手を載せ、 ニッコリ笑って、
「ね、さくら」
そして、耳元でささやいた。
「二人きりになれるチャンスを作ってあげたわよ。持って行くって言いなさい」
さくらはもじもじしながら、
「あ、あの、クラブの後なら、先輩のお家に持って行けます」
(言っちゃった。どうしよう)
米倉の顔は急に明るくなり、
「本当か?それじゃあ、住所を書いておくよ」
米倉先輩は住所を渡して、うれしそうに教室を後にした。
先輩の背中を見送った後ミチコが、
「上手く行ったわね。米倉先輩って、侍に憧れてるんだって。お似合いじゃない。ただし、古い少女マンガみたいな妄想する癖は、早く治しなよ。変態って思われちゃうよ」
「先輩のこと考えると、勝手に想像しちゃうのよ!」
米倉先輩との一緒の時間の後、もとい、クラブの練習の後、さくらは家に帰って父親にバレないよう、そっと道場に入った。
道場を見渡し呟いた。
「この時代に、あんなバカげた修行になんの意味があるのよ」
中学三年生になった頃から、父親との修行はしていない。喧嘩したまま、口も聞いていない。剣道部に入ったなんて言ったら、また修業させられる。
神棚に飾ってある刀を、押し入れから持ってきた模擬刀にすり替えた。
「妖刀田中家。心が守る刀ってどういう意味かしら」
刀を竹刀袋に入れた。悪いとは思ったが、ニヤニヤが止まらない。
「ごめんねパパ」
道場を出て米倉先輩のことを思い、ドキドキしながら照れながら、刀を抱えて走り出した。
「ふ、二人きりで部屋、何を話したらいいの。先輩にキスを迫られたら、断りきれないよ。あ~恥ずかしい」
米倉先輩のことで頭の中が一杯になり、妄想が止まらない。
裏道を使って近道をしようと右に曲がった途端、頭上で聞いたこともない音がした。立ち止まって上を向くと空に火の玉が見え、どこかで爆発が起こった。
「何の音!」
上空から火の玉がさくらの方へ降ってくるのが見えた。
「嘘でしょ、、、⁉」
辺りを見回したが、隠れられる場所が見つからない。目に入ったのは工事中のため開いていたマンホールだった。
(あそこしかない!)
さくらは走り出し、工事用の囲いを飛び越え、必死でマンホールのハシゴを掴み降り始めた。
轟音と共に、マンホール全体が揺れ、ハシゴの強烈な振動に耐えきれず、手が離れてしまった。
「きゃっ!」
さくらは暗闇の中へと吸い込まれるように落ちていった。
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