約束と追憶 promitto of memory

Natsuki

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promitto of memory Ⅱ

第23話 愛する者の行く先。

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彼は…自分の事に好意を抱いていたとは、
当然のことに思うことすらしていなかった。

自分だけが彼を好きで、それすらも分からずに
決して双方が想いあっている訳では無い…
と、そうやって勘違いをしていた。

この感情は憧れだと、勝手に思い込んで…やがて
それが真実だと思っていたのだろう。

…嬉しかった。
それだけの感情を分からずに言えなかった。
そんな自分に、彼はそれを気づかせてくれたから。

―第23話 愛する者の行く先―

──そうして朝になった。
アギトさんは、どうやら
自分より先に起きていた様子だった。

「…ぅう、ん…。」
そう声を漏らして自分が起きる。
アギトさんは、まだ寝台の上で座っていた。

「…おう、起きたか。」

起きた途端…昨日の事を思い出して、自分は
分かってしまうくらいに顔を赤らめてしまった。
「あ…お、おはようございます…。」

そう言って目を逸らすと、彼は茶化すように
自分の方に寄って耳元で囁くようにこう答える。
「…お前って奴ァ、本当に可愛いな。」

「ひゃ…っ!?」
自分は耳を赤くして、
少しばかり怒るようにこう答えた。
「あ、アギトさんのばか…!」

彼をポカポカと軽く叩く。
自分のその様子にアギトさんは、
冗談交じりでこう答えた。
「はは、わりィわりィ…」

自分と彼の唇を重ね合わせる。
その後に自分は拗ねるようにこういう。
「…機嫌取りのつもりですか。」

彼はそうだ、と言わんばかりにこう答える。
「それ以外にねぇだろ?」

自分は、悔しいような恥ずかしいような…
そんな表情をしながらこう述べる。

「そうかもしれませんね。」

これからは共に幸せになろうと、
──そう願った。

自分は一段落着いたところでこう言った。
「では…服を着て下に戻りましょうか。」

「ん、おうよ。」

そして数分後、自分達は階段を駆け下りて
みんなが集まる下の階へと向かった。

「あ、アンル!…」
兄さんがそう言うと、
狼煙さんと手合わせをした事を思い出した。
…自分は少し体に支障は無いくらいには
頭が痛くなってしまった。

「兄さん、昨日は心配かけてごめん。」

兄さんはどこか自分に安心したような表情を見せる。
「ううん、アンルが無事なら…
オレたちはそれでいいんだよ。」

「…そっか。」

そしてアギトさんは、何か
兄さんに言いたげな感じでこう述べた。
「そういえばルーラ、お前らにも話してぇ事がある。」

自分とアギトさんが付き合い始めた事を
今から伝えるのだろうか…。
「ん?うん、わかった…」

アギトさんは、兄さん達に
暫しその場で話すことにした。
そしてかくかくしかじか、数秒後…。
「…っつー訳だ。」

兄さんとヴァルフ、
ラミジュとリウラも話を聞いていた。
そのうちの二人が少しばかり驚いていた。

兄さんは少しばかり、
目を開き口に手を当ててこう答えた。
「ええーっ!?まっ、まさかブラザーとアンルが…」
「待って…もしかしたら、二年前に
言ってたブラザーの好きな人ってぇ…」

…その言葉にアギトさんは、こう述べていた。
「あぁそうだ、そういう事になるな。」

ヴァルフも兄さんと同様な仕草を見せて、その後に
何やら頭にハテナを浮かべるかのようにこう答えた。
「…お、おめでとう…?」

そしてリウラは、何やらいつもより
パァッと明るいような表情でこう答えた。
「恋愛相談なら僕たちが、沢山
聞きますよ!ねっ、ラミジュさん!」

「?う、うん…」
リウラの隣にいたラミジュは、何やら
困惑しているような表情をしつつこう答えていた。

自分は微笑ましく感謝の言葉を述べた。
「リウラ、ラミジュも…ありがとうございますね。」

その言葉にリウラは、また
にっこりとした表情を浮かべてこう答えた。
「んへへっ、はい!」

そしてアギトさんは咳払いをして、またもやこう答える。
「だがまぁ…付き合い始めたっつー理由なんざで、
お前達に対する態度は変わらねぇよ。」

兄さんはその言葉に感激したのか、
アギトさんを褒め称えるような表情でこう返した。
「ブラザー…!」

その様子も少しばかり微笑ましいな、
…と自分はその光景を見てそう思っていた。

そして自分は、歯車の国アルク・ランドにて
途中でやり残した事があった事を思い出した。

「…そういえばアギトさん、
自分が此処に戻ってきた時に…
狼煙さんは何か仰っていませんでしたか?」

その事に彼は、少しばかり言いずらそうにこう述べた。
「あぁ、その事だが…狼煙からは
『何も伝えるな』と言われてんだ…すまねぇ。」

「…いえ、こちらが最初に言った事なので…
この件については誰も悪くないと思います。」
自分は少しばかり、申し訳なくなったような…
そのような気持ちになった上でこう答えた。

そして数分後、自分は
また舟から出て歯車の国アルク・ランドに居る
彼らに別れを告げることにした。

「ニーニャさん、
狼煙さん達もお世話になりました。
ここに来たら、またよろしくお願いします。」

自分がペコリとお辞儀をすると、
狼煙さんはこう答える。
「…有無、承知した。」

そしてギラトさんは
自分に向かって恥ずかしそうな表情をしてこう言った。
「お、おい…!
…また来たら、手合わせしてくれよ」

自分は少しポカン、とした後に微笑んでこう答えた。
「はい。クロノスさんも…
機会があったらよろしくお願いしますね。」

話を振った後クロノスさんはこう答える。
「あぁ、また機会があれば。」

…アギトさんと付き合い始めた事は、
また会った時に彼が伝えるだろう。
それ故に…その件については
自分からは言わず、口を閉ざす事にした。

「では、自分はこれで失礼します。」

そう言い残して自分は舟の中に戻って行く。
途中でリンクルスは、何やら
不思議そうな表情をしてこう言った。

「驚きです…まさかあの方が、
ガルバトス家当主だなんて想像もしませんでした…。」

自分は彼女の表情を見て少しばかり
仕方ないよ、と言うようにこう答える。

「確かに、自分も知った時は驚いたよ。」
「…でも人は見かけによらないと思うんだ。」

アギトさんと初めて出会った時もそう思えた。
…リンクルスはその言葉に納得したのかこう答える。
「確かに…主さまの言う通りですね。」

──そして舟へ戻って、
自分達はまた旅をする進路を決めた。

…移動しているその間に、自分達は
旅団内での役割を決める事にした。

アギトさんは戦闘指導者、兼副団長。
戦いの時は勿論だが、
主に戦う時の指示などを出す役をしてもらう。

兄さんはリルエッタ旅団の料理人、兼戦闘員。
食材等そういった物に詳しい為
その役割を果たしてもらう事にした。

ヴァルフは団長である自分の後ろ盾…
或いは用心棒として、また動いてもらう事にした。

リウラとラミジュはまだ子供であって
稽古は一応自分が付けている。
だがまだ戦闘には出していない。
万が一のことがあってしまえば、責任が問われる為だ。

「…そういえば、ラミジュは
何か護身用の武器は所持しているのですか?」

自分がそう問いかけると、
ラミジュは首を横に振った後にこう答える。
「…世界樹に居た時、木で作ったナイフならあったけど
アギトおじさんが燃やしちゃったからもう無くなって、」

座って新聞を読んでいたアギトさんは、
その言葉に、何も反応はしなかったものの
少しばかり咳払いはしていた。

自分はそれに対して、少し困惑しつつも
苦笑いのような表情をしてこう答えた。
「な、なるほど…」
「…でしたら、これを差し上げましょう。」

そう言って自分は、銀の装飾と
取手に加護石が吊り下げてある短剣を彼女に渡した。
「これ、いいの…?」

彼女がそう言うと、自分は頷いた後こう答える。
「その石は転送の加護石というものです。
万が一敵に囲まれてしまったら、それを
握って強く願えば自分の元に転送されますよ。」

そう説明すると彼女は頷き、自分の説明を聞いていた。
「うん、分かった。」

兄さんはその様子と光景を見てこう言っていた。
「リウラちゃんがアンルの事を
お師匠って呼ぶ理由がわかったかも…。」

「…それってどういう事なの?」
ヴァルフは少し気になったのか
不思議そうにこう答えていた。

「アンルは何かしら教えるのが上手だから、
もしかしたらそれが理由で
お師匠って呼んでるのかもしれないね…」

兄さんがそう言うと、ヴァルフはハッとしたような…
それか納得したかのような表情をしていた。
「た、確かに…ルーラさん、もしかして天才…?」

「ヴァルフ、それに関しちゃあ大袈裟だと思うぜ。」
椅子に座っていたアギトさんは、
新聞をテーブルに置いて、少し
冗談交じりにその言葉に対してこう答える。

その事に兄さんは少しばかり頬を膨らまして
怒っている様子でこう綴った。
「んもー、大袈裟って何さ!」

…自分はリンクルスを肩に乗せて
ふと窓を見た後、もう少しで
目的地に着くと考えつつ皆にこう伝えた。

「皆さん、もうすぐで目的地に着きます。
まだ支度を終えていないのなら、
持ち物の準備をしておいてください。」
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