約束と追憶 promitto of memory

Natsuki

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promitto of memory Ⅱ

第25話 王と賢者、記す道を。

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「…今から彼奴の使っていた、あらゆる記憶や
物を消す【崩滅の加護】の事について話すぞ。」

「!」
目を開いて自分は、
少しばかりその言葉に驚いてしまった。
何故ならば、そのような物は
どんな書物にも載っていなかったからだ。
「…」
「それって…」

そうやって自分が震えつつ漏らした言葉に、
彼は複雑な表情でこう答える。

「記憶が消滅するっつー事は、その記憶の
出来事も無かったことになっちまう訳だ。」
「…例えば記された歴史の記憶も、その証拠も
彼奴の手にかかれば諸共無かったことになる。」

どうしてアギトさんが彼の事や過去を語らないのか、
…今ここでハッキリとわかった気がする。

「まさかその事を…自分に、
悟られない様にする為、黙っていたのですか…?」

―第25話 王と賢者、記す道を―

…【約束の加護】と【崩滅の加護】。
それらは対峙し相容れない存在。
約束の加護は【記憶】が持つ力で保たれ、
崩滅の加護は【忘却】をもたらす。

つまり約束の加護の敵となるその
存在は、【崩滅の加護】という訳でもある。

何故今まで知って来れなかったのか、
…それは皆も知り得れない事で、
唯一知っていた彼も黙っていたからだろう。

そのことに彼は、申し訳なさそうに
落ち込んだ様子で顔を俯かせてこう言っていた。
「すまねぇな、俺が黙ってたもんだからよ…」

「いっ、いえ…むしろ、
教えて頂きありがとうございます。」
「この話も自分が最初にした事なので…」
自分がその様子に慌てつつも、
彼を励ますようにこう答える。

という事は、狼煙さんが自分に使ったのも
その加護の力の一種なのだろう。

…でも何故、今も尚
鮮明に覚えているのか分からない。
そこで自分は思った事を問う事にした。

「…ですが、その記憶が全部無かった事に
なるなら…何故自分は、こんなにも
鮮明に覚えていられるのでしょうかね…?」

彼は手を前に組む仕草を見せて考えた後、
なんとも言えない表情でこう答える。
「んー、まぁそうだな…」

「彼奴が中途半端に加護を使ったのと、お前がその
加護に唯一、抵抗できる加護を持ってるからだろうな。」

「なるほど…、」
自分は納得した表情でそう答えた。
すると自分は、いつの間にかここに
居たはずのリウラが居ないことに気がついた。
「あれ、そういえばリウラは何処に…」

アギトさんはそれに最初から
気がついていたのか、その様子でこう答えた。
「ん?…あぁすまん、俺が
長話を続けちまったからかも知れねぇな、
嬢ちゃんなら、ルーラの所に行った筈だ。」

その言葉に、なるほど…と納得しつつ
自分は兄さんの所に合流しようと、
そう思って彼にこう答えた。
「そうですか。」
「…ならば自分達も、
其方に行った方が良いでしょう。」

その場で立ち尽くしていた自分は
椅子に座っていた彼に手を差し伸べ、
何処か真剣な、そんな笑顔をうかべる。
その際に木漏れ日が揺れ、心地のいいそよ風が吹いた。

そして彼はその自分の表情や光景に
唖然とした。その後に、息を揃えてこう言った。
「……お前のそう言う表情、
初めて見たが嫌いじゃねぇな。」
「流石は、この俺が愛した相手っつー感じだ。」

そう言うと彼が自分の差しのべた手を取る。
それと同時に自分はまたもや、先程とは
違うような暖かい笑顔を浮かべた。
「…ふふっ、そうでしょう。」
「人に恵まれている事には
誰よりも自信がありますので。」

自慢気にそう言うと、彼はフッと笑いこう答える。
「…そうか、そりゃあ愛してやる甲斐がありそうだな。」

そして自分達二人は、兄さんの所へ向かった。
リウラと兄さん、ヴァルフとラミジュ。
リルエッタ旅団の全員が揃っていた。
…リンクルスは自分の肩の上に居ている。

「あっ、ブラザー!アンルも居る!
ということはもうあっちの手伝いは終わったの?」

兄さんが元気良くそう問いかけると、アギトさんは
その言葉に冗談交じりでこう返していた。
「まぁな、俺とアンルで秒で終わらせたぜ。」

ヴァルフはそれに茶々を入れるかのように、
真顔でアギトさんの言葉にこう返した。
「秒は言い過ぎだと思うよ、師範。」

「そうか?…まぁいい、取り敢えず…
アンル、何かここでやりたい事があるんだろ?」
自分に向けられたその言葉に
そう言えばそうだったと思いつつ、こう返した。

「えぇ、そうですね。」
「村の人たちの信頼も得た事ですので、
此処を探索しつつ謎を解き明かしたいのです。」

するとどこからか、先程の
森にいた時と同じような気配がした。
そしてその気配は自分達の元へと近づいてくる。
「…!」
「イテル…アンタなの…?」
ラミジュがその気配に真っ先に反応した。
もしや、二人は知り合いなのだろうか。

「うん…久しぶり、ラミジュ。」

するとその青年の元へと、ラミジュが
駆けつけてぎゅっと抱きしめる。
「っイテル…本当に、生きてる…」

青年はラミジュの背中を優しく摩るように撫でた。
「…うん、生きてるよ。それと…
いきなり置いていったりしてごめん。」
「ラミジュには…ボクの居ない所で
何にも縛られずに生きていて欲しかったから。」

悲しくも優しいその言葉にラミジュは、
何処か謝るようにこう答えた。
「謝るのはこっちだよ…!!アンタが
居ないと、生きた心地がしなかったから…ッ」

──そしてラミジュが落ち着いた後に、
その、イテルという自分と同じ歳に見えるようでも
自分より背丈の高く太陽のような目をした青年は
ラミジュを抱えて自分の所に歩み寄りこう答える。

「君たちは、この子を助けてくれたんだね。」
「…ありがとう。なんのお礼をしたらいいかな。」

その青年は兎に角、喋り方がふわふわしていた。
…自分とはまた違う、そんな感じだった。
自分はハッとしてこう答えた。
「いえ…お礼なんてそんな、
大層な事はそれ程までにしてませんよ。」

そう言うと、向かいにいる彼は
首を横に振って自分の言葉にこう返した。
「いいや、君はボクの大切な人を守ってくれた。」
「そうでしょ?…約束の賢者、アンル=リュカストル。」

「!」
…両方の名前で呼ばれるとは
これで二回目かもしれない、とそう思った。
そこで自分はこう彼に問いかける。
「…」
「貴方は…一体、何者なのですか…?」

「…内緒だけど、でも特別に教えてあげる。」
「ボクは、この森全体を護っている
【光の守り人】…イテル=ハーツ・ライラック。」

「あぁ、それと…長いからイテルで良いよ。」

──【光の守り人】。
その称号は代々、【約束の賢者】等と
同じく、神々の時代から始まり…人から人へと
受け継がれ、やがてその名に宿す力が
名を継がれたものに与えられるとされる物。

すると自分の後ろにいたアギトさんは、
その名前に何やら身に覚えがあるようだった。

「イテル…か、」
「…お前、【暴君の王】っつー異名は知ってるな?」

「…」
…確かその名はアギトさんのものである筈、
その名前に何やらイテルは、
酷く反応して何やら焦っていた。
「えっ…ま…まさか、」

アギトさんは少しばかり頬に汗を垂らして
目を閉じていた。そして何やら
彼は、申し訳なさそうな表情をしていた。
「…あぁ、そのまさかだ。」
「俺とお前は、一度戦った事がある筈だぜ。」

その言葉に沈黙を捧げたあと、イテルは
またもや首を横に、今度は素早く振った後
目を逸らしてこう答えた。
「しっ…しらない、多分知らない!」

するとアギトさんは、知らん振りをする
その言葉に、少しカチンと来たのか…
先程とは違うドスの効いた声でこう言っていた。
「とぼけんじゃねぇよ、俺の
この顔見りゃ分かんだろうが…」

そしてイテルがまた
ゆっくりと目を逸らそうとすると、
今度はアギトさんが彼の額部分を指で弾く。
「あいたっ…!?」

「…ったく、とぼけ癖を
直してぇんならそうしろってんだよ。」
アギトさんは呆れたような表情で
ため息をついてこう答えていた。

自分は…彼とアギトさん、そしてもう既に
起きていたラミジュにこう問いかけた。
「あの、このイテルという人は知り合いなのですか?」

「ん?」
アギトさんがそう言うと、
彼はうんと頷いてこう答えた。
「まぁ強いていえば、俺の場合は戦友だな。」

「なるほど…。」
自分が納得げにそう言うと、ラミジュは自分に向けて
彼の事を明かすようにこう答えた。
「…イテルは、ちょっと惚け癖があるけど、
優しくて思いやりのある人だから…」

「…」
「ラミジュは、イテルさんの事が大好きなのですね。」
自分がにっこりと笑って彼女にそう答えると、
ラミジュは沈黙を捧げたあと、
見た事のないような表情で
顔を真っ赤に染めながらこう答えた。
「へっ…!?そ、そんな事ないから…!」

自分はその後にまたもや
優しく微笑んで、彼女にこう答えた。
「…そうですね、ですがそれでも
いつか、その気持ちを伝えれる時が来ますよ。」

「…そうなのかな、」

ラミジュがそう言うと
綴ってイテルは、自分の方へと歩み寄って
何やらこの言葉を自分に向けて述べた。

「それと、君の事は全て把握してあるよ。
──【憤怒の祟・アルブ】。奴を倒した
事によって、それと同時にその加護も得た…。」

「…」
「この【アルス村】も、嘗ては
奴の脅威によって脅かされていたんだ。」

自分は、複雑のような
気持ちで胸がいっぱいになりつつも、
失いかけた言葉を振り絞った。
「…そう、なのですね。」

──奴は…いや、彼は神々の時代に、
前世の自分達の居た神殿に仕えている医者だった。
…研究者と言っても正しいだろう。
【祟】という存在を生み出したのも生前の彼だった。


彼は…アルブは紛い物という物に、
彼自身が持っていた物を賭けすぎたのだ。

実験に使われた民たちや
子供達は【祟】という異形に成り代わってしまって、
その光景も血にまみれ、残酷なものと化した。
挙句の果てには、彼自身の体を実験に使用した。
……だが何故、死者の魂や
怨念と融合したのかは分からない。

「…」
「何百もの犠牲になってしまった
子供達が、これでようやく報われたんだ。」
「…ありがとう。」

不思議で、どこかフワフワとした声でそう言った。
そして綴って、息を揃えながら
不思議な表情で…イテルは自分にこう問いかける。
「それと君たちは、ここの謎を
解き明かしたくてここに来た…そうでしょ?」

「えぇ、そうですね。」
彼の言葉に答えると、その言葉を向けられた
イテルは首を、一度縦に降って頷いた。
「うん、いいよ…ボクが許可する。」
「でも…その解いた謎自体は、此処に居る
人達以外には誰にも明かさず…秘密にして欲しい。」

「…わかりました。」

約束を交わしたからには、必ずしもそれを守る。
…そうでもしなければ、
約束の賢者の名が欠けてしまう。
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