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promitto of memory Ⅱ
第30話 残虐な過去の罪滅ぼし。
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「…」
「まぁ今は此処には居ねぇが…
そのうち帰って来るだろうよ。」
アギトさんは腕を組んで、
顔を少し俯けながらそう言っていた。
「…なるほど、分かりました。」
頷いた後に自分は、その言葉にこう答える。
蝶の魔女は…意外にも気まぐれな人なのだろうか。
自分はその人の事について少しばかりそう思っていた。
そして、ちょうど良くその人物らしき気配がした。
…もしかしたら此処に帰ってきていたのだろうか。
「あら、起きていたみたいね。」
後に自分がそう考えていると同時に
その人の声が聞こえて来る、
後に何やらカフカさんの姿が見えた。
―第30話 残虐な過去の罪滅ぼし―
「…初めまして、カフカさん。
アギトさんから貴女の事は聞いています。」
自分から挨拶をした後、向かいにいる彼女は
少しだけ口角を上げつつ何やら笑顔になっていた。
「ええ…私もあなたの事は勿論、存じ上げているわ。」
「約束の賢者、その上今ここに居る
暴君の王の恋人…だったかしら?」
その事に自分は、そこまで彼女に
知られていたのか…と少しばかり思って唖然とした。
「…そ、そうですね。」
自分が少しばかり吃りつつそう答えると
カフカさんは首を傾け何やら
しょんぼりとした表情で、またもや自分に問いかけた。
「あら…?違ったかしら、申し訳ないわね…」
自分とカフカさんの、丁度真ん中に居たアギトさんは
真顔で首を傾け彼女に綴ってこう答えた。
「…いや、それで合ってるぜ。」
そして何やらリウラは、カフカさんに興味を示した様で、
キラキラと目を輝かせつつ彼女を見ていた。
「はわぁ…!魔女さんと言うことは、
色んな魔法が使えるのでしょうか…!?」
そう言うと同時に、カフカさんはその言葉に反応して
にっこりとした表情でリウラにこう答える。
「…そうね、」
「魔法の仕組みを変えれる、
【術式変換魔法】も使えるわよ。」
──【術式変換魔法】。
習得するにあたってかなり難しい知識を
学び得ないと習得することが困難になる魔法。
流石は魔法等に詳しいとされる魔女…、
…序に自分は、そう思ったと同時にリウラの
そばに居たカフカさんに、気になっていた事があった。
「カフカさん…そういえば気になった事があるのですが。」
「…青と黒の編み結んだ髪と、
星空色の目をした人物をご存知ですか?」
自分の放ったその言葉に、カフカさんは
理解したかのような表情で自分を見た後にこう答えた。
「それはつまり…ロストの事かしら。」
「あの子は今薬草を取りに
行ってる筈ね…もう直ぐ帰ってくるわよ。」
その【ロスト】という人物は、
カフカさんの身内でもあったのか…
そう思いつつ、自分は彼女の言葉に頷いた。
「分かりました。」
そして自分達はロストさんを待ってる間に
カフカさんの許可を得て、アギトさんと
二人で少しばかり此処を散策する事にした。
「…ついて行くのが俺で良かったのか?」
そう言うと同時に自分は、その言葉を
疑問に思いながら首を傾げこう問いかける。
「…」
「良かったって、どうしてですか?」
後にアギトさんは、目を逸らして困った様な…
何やら自分に申し訳無いような表情をした。
「…いや、ルーラ曰く
どうやら俺ァ方向音痴なんだとよ。」
そう言われた途端、自分は2年前に兄さんが
言っていたことを少しばかり思い返した。
『──あれ、ということは…ブラザーが
迷子じゃ無かったの?方向音痴なのに…?』
自分はあの言葉を思い出して、少しばかり
納得してしまったことに少しばかり申し訳なくなった。
「兄さんがあの時言っていた
言葉って…冗談では無かったんですね。」
自分はその後に小さく咳払いをし、
安心させるべくアギトさんにこう答える。
「それでも万が一、自分達が迷ったとしても
カフカさんから貰った此処についての地図があります。」
「…その時は自分が手を引きますね。」
ニッコリとした表情でそう答えると、
アギトさんは少しばかりキョトン…とした後に
自分の頭にその手を当ててわしゃわしゃと撫で回す。
「わ…どっ、どうしました…?」
アギトさんは自分の疑問形な言葉を茶化す様に
ニヤリと笑うとついでにこう答えた。
「ん…あぁ、」
「お前はそういう奴だったと思ってな。」
自分はその言葉に疑問を持って、
首をまた傾げて言葉を漏らす。
「…?そうですか、」
…時折アギトさんは、何処か
複雑で、優しい笑顔を浮かべながら…遠回しに
自分になにかを伝えたい様な言葉を並べていた。
自分達がアルス村に居た時もそうだった。
あの時言っていた『懐かしい』…とは一体
何なのか、少しばかり気になっていた。
「…あの、アギトさん。」
自分が咄嗟に彼の名前を呼ぶと、
アギトさんはそれに反応して自分の方を向く。
「ん?どうした?」
この瞬間が、今此処で…
今度こそ聞いて知りたいと思った。
アギトさんの…彼の過去を。
「アギトさんは…自分に、
何かを伝えたいのでは無いのですか。」
…やっと、漸く言えた。
そして自分が勇気を振り絞って放った言葉に、
向いにいる彼は首を傾けて目を細め、
またさっきの複雑な表情を自分に向けた。
「……どうしてそう思ったんだ。」
自分はその言葉に困惑しつつ、
彼の悲しそうな声に綴ってこう答えた。
「…」
「アギトさんの過去を…知りたいと言ったら、」
「怒りますか…?」
そう言った後に、彼は何やら…
目を見開いてハッとした表情で自分を見ると、
またその後に息を揃えた。
「…」
「俺の過去か。」
「…あの時のこたァもう二度と、
思い出す機会なんざねぇと思ってたな…」
…
あの時の事とは、一体何か…
自分はそれが気掛かりで仕方なかった。
…アギトさんが、彼がこの言葉を並べる迄は
自分は彼の過去そのものを…知らなかっただろう。
「…俺は過去に、人を殺してる。」
その言葉を聞いて、自分はハッとした。
「…!」
…自分では無い誰かに、謝罪したいと言うかのような
眼差しを自分に伝えるかのように向けながら、
彼が放った言葉を聞いた途端に、
悲しくなって涙を堪えていた。
…今まで自分は、彼の過去を
微塵も知らなかった様な物だから。
その時にはまるで、
自分の過去を思い出したかのように
彼の過去と記憶が頭の中に流れ込んだ。
そしてアギトさんは眉間に皺を寄せ、
涙を堪えていた自分を見た。
アギトさんが向ける視線に自分はこう答える。
「っごめんなさい、悲しいのは…
辛いのはアギトさんの方なのに…」
なんで、どうして自分が
泣いているのか少しも分からなかった。
…彼の残酷で悲しい過去を目の前にして、
自分の視界を歪ませている涙を拭っても消える事は無い。
そして彼は、後に悲しげな表情をしつつも
泣いている自分を抱きしめていた。
…
──自分が17歳になる時…彼は、
【暴君の王】としてこの世界にその名を轟かせていた。
アギトさんはその後、【ヨゾラ】という女の人と出会い
彼はその人と共に“幸せ”という感情を知った。
然し、本当の“悲劇”はそれから始まった。
ガルバトス家本部が突如何者かに敵襲され、
戦いながら暴徒化を食い止める為に彼は自ら
左眼を抉ってしまったという。
…彼が左眼を前髪で隠している理由は
その過去があった故にそうしていたのだろう。
それでも当時のアギトさんは、幸せという
感情を教えてくれたヨゾラさんの事を
どれだけ慕っていたのだろうか。
…けれどもそれを、よりにもよって
部外者の自分が知ったとしても何になる?
過酷で残虐な過去を持つ彼に対する同情か…
…そんな物ではない、それよりも遥かに
もっと深く壮大な感情だと…自分はそう思った。
「…」
「でも…それでも貴方の過去を、知れてよかったです。」
止まった涙を拭いつつ、自分は
改めて彼の顔をもう一度見た。
そんな自分を見て彼は少し顔を俯かせながら
目を細めてこう答える。
「…そうか。」
──その時、自分はふとこう思った。
彼から見る世界は一体、どんな景色なのだろうと。
例えそれを自分が知り得る術が無くても…
自分はそれで良いと、ただそう思った。
…そして自分はとある人の気配に
気がついた途端、隣にいたアギトさんも、
その気配のする方に横目で視線を向けた。
「…!」
気配が壁裏から近づいてくると、漸くその姿が見える。
自分と同い年に見えるその少女は、
青黒く編み結んだ髪と星空色の瞳をしていた。
…
彼女が、正しく【強欲の祟・アズデラ】の
討伐依頼を申し込んだ本人だろう。
その人は何やらハッとしながらこう答える。
「…ああっ、君か!」
「…?」
自分は少しばかり突然言われた言葉に首を傾げると、
アギトさんは自分の方を見た後に
腕を組みながら彼女の方を振り向いてこう答える。
「カフカから話は聞いてるぜ、ロスト。」
…アギトさんの言う通り、
彼女がロストで間違いないのだろう。
そう考えた後、自分はロストに自己紹介をした。
「アンルと申します。
この度は宜しくお願いいたしますね。」
ロストは自分達に向け、お辞儀をした後
ニコッと明るいような笑顔でこう述べた。
「ふむふむ…君達の事は勿論存知あげているよ」
彼女は咳払いをした後に、綴ってこう答えた。
「…では改めて…僕の名前はロスト!此処の
主であるカフカの妹であり、彼女の助手さ。」
そして何やら、最初に此処へ来た時に見たような
水で錬成された蝶が彼女の周りを飛び舞っていた。
自分はその事実にハッとした後、息を揃えこう答える。
「…なるほど、わざわざ自己紹介まで
して頂きありがとうございます。」
彼女の周りを飛び交う蝶の姿を模した水は、何やら
浄化水で出来ているような…そんな気がした。
…そしてその後、綴るように自分の視線の先にいる
彼女は真剣な顔をしながら、自分に向けてこう述べた。
「それと君は、僕の依頼を受けてくれた様だね。」
その言葉に自分が一度頷いて、
奴の…【強欲の祟・アズデラ】についての事を
少しばかり彼女に質問することにした。
「はい。それと今回の討伐対象の
件で聞きたい事があるのですが…」
「強欲の祟に蝕まれた魔物に遭遇して、その際に
攻撃を食らわしたものの…全く効かなかったのです。」
自分のその言葉を聞いたロストは、
何やら考えた後に真剣で、どこか焦っているような
顔をしながら自分にこう答えた。
「そうだね…その点については僕も知りたい事。」
「…でも僕は奴の弱点を知ってるんだ。」
そう、少し怒っているような…そんな笑顔を
浮かべた後、自分にまたもやこう答える。
「…君も知りたいかい?」
──そしてかれこれ数分が経ち、
自分達はリルエッタ旅団の皆とカフカさんと合流した。
「あら…ロスト、帰っていたのね。」
カフカさんがロストの気配に
気が付いた後、彼女にそう言った。
すると…
「姉さん!えへへ、ただいまっ」
何やら先程とは全く違う声色でそう答える。
…ロストは姉であるカフカさんの事を
慕っているのだろう。
そしてカフカさんは、自身の
目の前にいるロストの頭を撫でる。
その光景に自分は微笑ましいと思った。
そしてその後に、カフカさんは
真剣な表情をうかべつつ自分の方を見てこう答える。
「ロストから聞いたわ。貴方達は、
…アズデラを倒しに此処へ来たのね。」
そのどこか悲しそうな言葉と表情は
なにか辛く残酷な過去を物語っている様な気がした。
カフカさんの過去に何があったのか…
自分はそれらを聞き出せずにいた。
「…はい、」
少しばかり顔を俯かせながらそう答えた自分に
カフカさんは、その空気感を感じ取ったのか…どこか
複雑で真剣な声色と眼差しを向けつつこう答える。
「あの人にも…ちゃんと、人としての感情はあったのよ。」
自分はその言葉に、恐る恐る俯いていた顔を上げつつ
彼女の悲しげで…何処か母さんの
面影と無意識に重ね見てしまうような…
そんな彼女の顔を少しの間見た後、涙を零さないように
腕で拭いつつ勇気をふりしぼってこう問いかける。
「…カフカさん。」
「オレは…自分はカフカさんの過去を、
同情とか…哀れみとか、そんな物ではなく…」
「…ただ知りたい。」
「まぁ今は此処には居ねぇが…
そのうち帰って来るだろうよ。」
アギトさんは腕を組んで、
顔を少し俯けながらそう言っていた。
「…なるほど、分かりました。」
頷いた後に自分は、その言葉にこう答える。
蝶の魔女は…意外にも気まぐれな人なのだろうか。
自分はその人の事について少しばかりそう思っていた。
そして、ちょうど良くその人物らしき気配がした。
…もしかしたら此処に帰ってきていたのだろうか。
「あら、起きていたみたいね。」
後に自分がそう考えていると同時に
その人の声が聞こえて来る、
後に何やらカフカさんの姿が見えた。
―第30話 残虐な過去の罪滅ぼし―
「…初めまして、カフカさん。
アギトさんから貴女の事は聞いています。」
自分から挨拶をした後、向かいにいる彼女は
少しだけ口角を上げつつ何やら笑顔になっていた。
「ええ…私もあなたの事は勿論、存じ上げているわ。」
「約束の賢者、その上今ここに居る
暴君の王の恋人…だったかしら?」
その事に自分は、そこまで彼女に
知られていたのか…と少しばかり思って唖然とした。
「…そ、そうですね。」
自分が少しばかり吃りつつそう答えると
カフカさんは首を傾け何やら
しょんぼりとした表情で、またもや自分に問いかけた。
「あら…?違ったかしら、申し訳ないわね…」
自分とカフカさんの、丁度真ん中に居たアギトさんは
真顔で首を傾け彼女に綴ってこう答えた。
「…いや、それで合ってるぜ。」
そして何やらリウラは、カフカさんに興味を示した様で、
キラキラと目を輝かせつつ彼女を見ていた。
「はわぁ…!魔女さんと言うことは、
色んな魔法が使えるのでしょうか…!?」
そう言うと同時に、カフカさんはその言葉に反応して
にっこりとした表情でリウラにこう答える。
「…そうね、」
「魔法の仕組みを変えれる、
【術式変換魔法】も使えるわよ。」
──【術式変換魔法】。
習得するにあたってかなり難しい知識を
学び得ないと習得することが困難になる魔法。
流石は魔法等に詳しいとされる魔女…、
…序に自分は、そう思ったと同時にリウラの
そばに居たカフカさんに、気になっていた事があった。
「カフカさん…そういえば気になった事があるのですが。」
「…青と黒の編み結んだ髪と、
星空色の目をした人物をご存知ですか?」
自分の放ったその言葉に、カフカさんは
理解したかのような表情で自分を見た後にこう答えた。
「それはつまり…ロストの事かしら。」
「あの子は今薬草を取りに
行ってる筈ね…もう直ぐ帰ってくるわよ。」
その【ロスト】という人物は、
カフカさんの身内でもあったのか…
そう思いつつ、自分は彼女の言葉に頷いた。
「分かりました。」
そして自分達はロストさんを待ってる間に
カフカさんの許可を得て、アギトさんと
二人で少しばかり此処を散策する事にした。
「…ついて行くのが俺で良かったのか?」
そう言うと同時に自分は、その言葉を
疑問に思いながら首を傾げこう問いかける。
「…」
「良かったって、どうしてですか?」
後にアギトさんは、目を逸らして困った様な…
何やら自分に申し訳無いような表情をした。
「…いや、ルーラ曰く
どうやら俺ァ方向音痴なんだとよ。」
そう言われた途端、自分は2年前に兄さんが
言っていたことを少しばかり思い返した。
『──あれ、ということは…ブラザーが
迷子じゃ無かったの?方向音痴なのに…?』
自分はあの言葉を思い出して、少しばかり
納得してしまったことに少しばかり申し訳なくなった。
「兄さんがあの時言っていた
言葉って…冗談では無かったんですね。」
自分はその後に小さく咳払いをし、
安心させるべくアギトさんにこう答える。
「それでも万が一、自分達が迷ったとしても
カフカさんから貰った此処についての地図があります。」
「…その時は自分が手を引きますね。」
ニッコリとした表情でそう答えると、
アギトさんは少しばかりキョトン…とした後に
自分の頭にその手を当ててわしゃわしゃと撫で回す。
「わ…どっ、どうしました…?」
アギトさんは自分の疑問形な言葉を茶化す様に
ニヤリと笑うとついでにこう答えた。
「ん…あぁ、」
「お前はそういう奴だったと思ってな。」
自分はその言葉に疑問を持って、
首をまた傾げて言葉を漏らす。
「…?そうですか、」
…時折アギトさんは、何処か
複雑で、優しい笑顔を浮かべながら…遠回しに
自分になにかを伝えたい様な言葉を並べていた。
自分達がアルス村に居た時もそうだった。
あの時言っていた『懐かしい』…とは一体
何なのか、少しばかり気になっていた。
「…あの、アギトさん。」
自分が咄嗟に彼の名前を呼ぶと、
アギトさんはそれに反応して自分の方を向く。
「ん?どうした?」
この瞬間が、今此処で…
今度こそ聞いて知りたいと思った。
アギトさんの…彼の過去を。
「アギトさんは…自分に、
何かを伝えたいのでは無いのですか。」
…やっと、漸く言えた。
そして自分が勇気を振り絞って放った言葉に、
向いにいる彼は首を傾けて目を細め、
またさっきの複雑な表情を自分に向けた。
「……どうしてそう思ったんだ。」
自分はその言葉に困惑しつつ、
彼の悲しそうな声に綴ってこう答えた。
「…」
「アギトさんの過去を…知りたいと言ったら、」
「怒りますか…?」
そう言った後に、彼は何やら…
目を見開いてハッとした表情で自分を見ると、
またその後に息を揃えた。
「…」
「俺の過去か。」
「…あの時のこたァもう二度と、
思い出す機会なんざねぇと思ってたな…」
…
あの時の事とは、一体何か…
自分はそれが気掛かりで仕方なかった。
…アギトさんが、彼がこの言葉を並べる迄は
自分は彼の過去そのものを…知らなかっただろう。
「…俺は過去に、人を殺してる。」
その言葉を聞いて、自分はハッとした。
「…!」
…自分では無い誰かに、謝罪したいと言うかのような
眼差しを自分に伝えるかのように向けながら、
彼が放った言葉を聞いた途端に、
悲しくなって涙を堪えていた。
…今まで自分は、彼の過去を
微塵も知らなかった様な物だから。
その時にはまるで、
自分の過去を思い出したかのように
彼の過去と記憶が頭の中に流れ込んだ。
そしてアギトさんは眉間に皺を寄せ、
涙を堪えていた自分を見た。
アギトさんが向ける視線に自分はこう答える。
「っごめんなさい、悲しいのは…
辛いのはアギトさんの方なのに…」
なんで、どうして自分が
泣いているのか少しも分からなかった。
…彼の残酷で悲しい過去を目の前にして、
自分の視界を歪ませている涙を拭っても消える事は無い。
そして彼は、後に悲しげな表情をしつつも
泣いている自分を抱きしめていた。
…
──自分が17歳になる時…彼は、
【暴君の王】としてこの世界にその名を轟かせていた。
アギトさんはその後、【ヨゾラ】という女の人と出会い
彼はその人と共に“幸せ”という感情を知った。
然し、本当の“悲劇”はそれから始まった。
ガルバトス家本部が突如何者かに敵襲され、
戦いながら暴徒化を食い止める為に彼は自ら
左眼を抉ってしまったという。
…彼が左眼を前髪で隠している理由は
その過去があった故にそうしていたのだろう。
それでも当時のアギトさんは、幸せという
感情を教えてくれたヨゾラさんの事を
どれだけ慕っていたのだろうか。
…けれどもそれを、よりにもよって
部外者の自分が知ったとしても何になる?
過酷で残虐な過去を持つ彼に対する同情か…
…そんな物ではない、それよりも遥かに
もっと深く壮大な感情だと…自分はそう思った。
「…」
「でも…それでも貴方の過去を、知れてよかったです。」
止まった涙を拭いつつ、自分は
改めて彼の顔をもう一度見た。
そんな自分を見て彼は少し顔を俯かせながら
目を細めてこう答える。
「…そうか。」
──その時、自分はふとこう思った。
彼から見る世界は一体、どんな景色なのだろうと。
例えそれを自分が知り得る術が無くても…
自分はそれで良いと、ただそう思った。
…そして自分はとある人の気配に
気がついた途端、隣にいたアギトさんも、
その気配のする方に横目で視線を向けた。
「…!」
気配が壁裏から近づいてくると、漸くその姿が見える。
自分と同い年に見えるその少女は、
青黒く編み結んだ髪と星空色の瞳をしていた。
…
彼女が、正しく【強欲の祟・アズデラ】の
討伐依頼を申し込んだ本人だろう。
その人は何やらハッとしながらこう答える。
「…ああっ、君か!」
「…?」
自分は少しばかり突然言われた言葉に首を傾げると、
アギトさんは自分の方を見た後に
腕を組みながら彼女の方を振り向いてこう答える。
「カフカから話は聞いてるぜ、ロスト。」
…アギトさんの言う通り、
彼女がロストで間違いないのだろう。
そう考えた後、自分はロストに自己紹介をした。
「アンルと申します。
この度は宜しくお願いいたしますね。」
ロストは自分達に向け、お辞儀をした後
ニコッと明るいような笑顔でこう述べた。
「ふむふむ…君達の事は勿論存知あげているよ」
彼女は咳払いをした後に、綴ってこう答えた。
「…では改めて…僕の名前はロスト!此処の
主であるカフカの妹であり、彼女の助手さ。」
そして何やら、最初に此処へ来た時に見たような
水で錬成された蝶が彼女の周りを飛び舞っていた。
自分はその事実にハッとした後、息を揃えこう答える。
「…なるほど、わざわざ自己紹介まで
して頂きありがとうございます。」
彼女の周りを飛び交う蝶の姿を模した水は、何やら
浄化水で出来ているような…そんな気がした。
…そしてその後、綴るように自分の視線の先にいる
彼女は真剣な顔をしながら、自分に向けてこう述べた。
「それと君は、僕の依頼を受けてくれた様だね。」
その言葉に自分が一度頷いて、
奴の…【強欲の祟・アズデラ】についての事を
少しばかり彼女に質問することにした。
「はい。それと今回の討伐対象の
件で聞きたい事があるのですが…」
「強欲の祟に蝕まれた魔物に遭遇して、その際に
攻撃を食らわしたものの…全く効かなかったのです。」
自分のその言葉を聞いたロストは、
何やら考えた後に真剣で、どこか焦っているような
顔をしながら自分にこう答えた。
「そうだね…その点については僕も知りたい事。」
「…でも僕は奴の弱点を知ってるんだ。」
そう、少し怒っているような…そんな笑顔を
浮かべた後、自分にまたもやこう答える。
「…君も知りたいかい?」
──そしてかれこれ数分が経ち、
自分達はリルエッタ旅団の皆とカフカさんと合流した。
「あら…ロスト、帰っていたのね。」
カフカさんがロストの気配に
気が付いた後、彼女にそう言った。
すると…
「姉さん!えへへ、ただいまっ」
何やら先程とは全く違う声色でそう答える。
…ロストは姉であるカフカさんの事を
慕っているのだろう。
そしてカフカさんは、自身の
目の前にいるロストの頭を撫でる。
その光景に自分は微笑ましいと思った。
そしてその後に、カフカさんは
真剣な表情をうかべつつ自分の方を見てこう答える。
「ロストから聞いたわ。貴方達は、
…アズデラを倒しに此処へ来たのね。」
そのどこか悲しそうな言葉と表情は
なにか辛く残酷な過去を物語っている様な気がした。
カフカさんの過去に何があったのか…
自分はそれらを聞き出せずにいた。
「…はい、」
少しばかり顔を俯かせながらそう答えた自分に
カフカさんは、その空気感を感じ取ったのか…どこか
複雑で真剣な声色と眼差しを向けつつこう答える。
「あの人にも…ちゃんと、人としての感情はあったのよ。」
自分はその言葉に、恐る恐る俯いていた顔を上げつつ
彼女の悲しげで…何処か母さんの
面影と無意識に重ね見てしまうような…
そんな彼女の顔を少しの間見た後、涙を零さないように
腕で拭いつつ勇気をふりしぼってこう問いかける。
「…カフカさん。」
「オレは…自分はカフカさんの過去を、
同情とか…哀れみとか、そんな物ではなく…」
「…ただ知りたい。」
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