約束と追憶 promitto of memory

Natsuki

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promitto of memory Ⅱ

第29話 血に染まるは異形の如く。

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──【異領の森】。
嘗て、謎の脅威により蝕まれた森。
その名の通り異形の領域であり…その場に
立ち入った者は人知れず迷い、そして"喰われる"。

──ましてや神々の記憶を持った自分が、
この場に立ち入っていいのかは疑問で仕方がなかった。
けれども今ここに来たことでわかった事がある。
「…っ。」

これらの元凶である
"奴"を、一刻も早く倒さなければ。

しかし被害が拡大することは、
祟である以上は確かでもある。
…それでも奴の場合は、
それだけでは留まらないかもしれない。

そして自分は、此処を歩く際の指示と
夫々それぞれの役割を即座に判断し皆に伝える。
「…この辺は既に討伐対象の縄張と化しています。
リウラとラミジュは自分の後ろを着いてきてください。」
「兄さんとヴァルフは向かう先に何かあるかも
しれないから、武器は万が一の為手に取っておいて。」

そして息継ぎをした後に
自分は真剣な顔をしてこう述べた。
「アギトさんは、戦闘時に自分の後ろをお願いします。」

そして次々に皆が承諾して答えた後に、
アギトさんも綴ってこう言っていた。
「…あぁ、分かった。」

―第29話 血に染まるは異形の如く―

そして戦闘の際、リウラとラミジュには…安全な
場所に移動できる転送の加護石を持たせている。
その為、万が一の事があっても
安心は多少なりとも出来るだろう。

…するとリウラは、少しばかりこの場の
異様すぎる空気に怖気付いてしまっていた。
「…。」
ラミジュの隣を歩いていたリウラは、
彼女にくっつく様にしていた。
その際にリウラはラミジュの服の裾を握る。
「…」
「大丈夫だよ、万が一
何があっても…私が守るから。」
ラミジュがそう優しく答えリウラの頭を撫でると、
リウラは少し落ち着いたのか…顔を
俯かせながら小さく頷いていた。

…それと今回の依頼主は、どういった人なのだろうか。
その考えた事に自分は少し前にリーピアさんが
言っていた言葉を思い返した。
『──確か…青と黒の編み結んだ
髪と、星空色の目をしていましたよ!』

編み結んだ青黒の髪と、星空色の目…。
謎や噂についての情報は自分も取り入れては居るが…
人に関する情報は全く目を通していなかった。

しかし、自分等が今いる場所は【異領の森】…
とても危険な場にいることには変わりない為、
そういった物を考えるのは後ですることにした。

何かここで奴に関する弱点の手がかりがあれば
良いのだが…今はそんな事は
考えて居られない状況でもあった。

すると、物陰の後ろから魔物が出てきた。
どうやらこの魔物は…
祟に蝕まれている様子でもあった。
「リンクルスッ!」
そう言うとリンクルスは杖の姿となった。
『祟に蝕まれてる以上、近づく事は危険と同様…』

手に汗握る状況にてそう思った自分は、
瞬時に約束の加護でもある光を放った。
然しそれが効かなかったのか、
その魔物は自分に攻撃を仕掛けた。
「…!!」
するとアギトさんがその
魔物に目掛けて黒炎の加護を使った。
「ちと危なかったな…大丈夫か。」
ふと魔物がいた方を見ると、それは
何やら黒焦げになっていた。
「ええ、お陰様で。」

…しかし先程まで正確に当てた筈の攻撃が効かないのは、
やはり強欲の祟にも関係しているのだろうか。
祟は基本、何かしらの魔法や加護で消滅するのは確か。
それらが効かないとなると、相手は
やはりここら一帯を脅かす強敵と化すだろう。
…自分はそう予測していた。
「…。」
そしてまたしばらく歩いて行くと、
自分達はとある物を目にした。
「…これは、」

目にした物は暗い影でよく見えなかった。
すると何処からか声が聞こえてくる。
「!…」
…何かを唱えている様子でもあった。
時期にその声は、途切れて聞こえなくなってしまった。
すると次の瞬間、その声と
気配は自分の背後に突如近づいた。
「矢張り見覚えのある姿…」

「っ!!」
自分は声が聞こえた方へと真っ先に、
手に持っていた護身用の剣を振りかざした。
しかしそれが当たり前かのように、
その斬撃が奴の体に当たるはずも無かった。
「未だ言いかけている途中であろう?」

奴の話し方や声…それらを聞いた途端、
不快感に似た何かが自分を襲う。
こんな気持ちは初めて感じた気がして、
自分の体に衝撃が走るのを感じた。

この気配と姿…やはりコイツが、
強欲の祟・アズデラなのだろうか。

…そこで自分は、奴と対話をしても
無駄な時間をとるだけだと知り
持っていたその剣で彼の心臓を貫く。
しかし、奴は痛がる様子すら見せなかった。
その時自分はとある異変に気がつく。
『剣がッ、抜けない…!!』

「…その絶望に見舞われたような顔…凄く唆られる。」
そう言うと同時に、
奴は自分を何らかの力で吹き飛ばした。
その際に奴の胸に刺さった剣が
自分の手から離れてしまう。
「ぐッ…!?かは…っ」

「!!…アンルッ!」
片側に居たアギトさんにそう言われた後、
壁に背中をうちつけてしまいながらも自分はこう答える。

「ッアギト、さん…」
「彼奴は…ッ彼奴はオレが
倒します、だからアギトさんは…」
自分がそう言いかけたと同時にいつの間にか
奴は自分の正面まで来ていて、
次の瞬間に自分の髪の毛を掴みあげた。
「う…っ」

「…嗚呼、漸く思い出した。」
「貴様は…約束の賢者か。」

不快感に似た何かが漂う雰囲気から、一気に
その不快感が威圧するものに変わっていった。

「…ッ、」
自分は背中の痛みで顔がゆがみつつも、
目の前にいる奴を睨みつける。
すると奴は自分にこう問いかけた。
「いい加減、言葉を交わしたらどうだ。」

自分は奴のことを睨みつけたまま、
奴のその言葉を断固拒否するかの様にこう答える。
「ッ貴方にかける言葉なんて、想定有りませんよ…。」
そう言うと同時に、奴の無に近い様な表情は
一変して怒りへと変わった。
「そうか…。」

…そして意識が朦朧としていく中、
遠くに女性の影のような姿が見えた。
後に、何やら奴はその女性がいる後ろへ振り向き
目を点にして頬に汗を垂らしていた。
「…」
「…カフカ…?」
途切れ途切れ聞こえたその声で、
自分の意識は途絶えてしまった。

──意識が途絶えた後、何やら
暗闇の中で…懐かしい声が聞こえてきた。
その声は何処か自分の記憶で見覚えのある様な…
そんな声が、自分の名前を呼んでいた。
「アンル。」

自分は、その声に応えようとした。
…けれども自身の声が出ず、
それに応える事が出来なかった。
「…」
母さんとの記憶は…
悲しくて優しいものばかりで、
思い返す度に涙が溢れ出そうなくらいだった。

「…かあさん……。」
──そして気がつくと、そこは
自身の所持する舟ではない場所の寝室だった。
…自分は涙を流して天井に手を伸ばしていた。
「…」
『誰もいない…皆がいるのは他の部屋かな。』
そう思いつつ部屋の辺りを見回し
自分は寝台から降り立った。

そして気づいた時には、
背中の怪我をした箇所は包帯で巻かれていて、
動く際の痛みも和らいでいた…
何らかの治療薬で治されたのだろう。

扉の方へと足を運び、部屋の扉を開けると…
部屋の外は館のように広かった。
「…」
「どうしよう…」
こんなに広いとなると、皆の居る
場所がどこか分からなくなってしまう…
そう考えた自分は、コンパスを頼りに
皆の元へ辿り着くことにした。

「あれ、此処で合ってるんだよね…?」
自分はそのコンパスが壊れている事も知らずに、
それを見つつその場へ向かおうとするも…
壊れている為、その場にたどり着けなかった。
そして此処はどうやら、薬草等を貯蓄する倉庫の様だ。
「主さま、私が皆様の
いる場所へ案内致しましょうか?」
自分が薬草の棚をじっと見ていると、
リンクルスがそう言って
衣囊の中からひょっこりと顔を出した。
「ありがとう、じゃあそうさせてもらうよ。」
「…?」

すると、タイミングがいいのか悪いのか
アギトさんが自分達の所にいたようだった。
「…そこに居たのか。」
そう言われると同時に、自分が彼の顔を見ると
アギトさんは何やら安心したような表情を見せた。

「あ、すみません…少しばかり
此処を散策させてもらってました。」
自分が申し訳なさそうにそう言うと、
アギトさんは腕を組んで
首を横に小さく振り、その言葉にこう答える。
「いや、んなこたァ構わねぇよ。」
「…とりあえず、ルーラ達と合流するか。」

自分達は、兄さんたちの居る場所へ
合流するため足を運ぶ途中にて、自分は
とある事で気になった為質問をする事にした。
「…そういえばアギトさん、自分が
気を失っている間に何があったのですか?」
疑問げにそう言うと、アギトさんは
目を逸らしその手で頭をガシガシとかいた後…
またもや視線を自分の方に向けてこう答えた。
「あ゙ーそういやァ、あの後は災難だったな…」
「…災難つっても、単に
アズデラに逃げられたってだけだ。」

「…」
「そうですか…」
…自分は、少しばかり複雑な
気持ちになりつつもその言葉にこう答えた。

そして次にアギトさんは…何やら
自分から目を逸らしながら耳を赤くしてこう言った。
「それとまぁ…個人的な事情なんだが…」
「……逸れちまったらアレだろ…」
そう言いつつ手を差し伸べてくる彼を見て、
──この人は自分と手を繋ぎたいのかな。
と思いつつ、その手を取ってニコッと微笑む。
「でしたら、こうすれば心配は無いですね。」

その言葉にアギトさんは調子が戻ったのか、自分の
方を見つつ目を細め、少し優しい笑顔でこう答える。
「…そうだな。」

──そうして自分とアギトさんは
皆の居るところに到着した。

「!アンル…!」
ヴァルフが真っ先にこちらに来た途端…心配そうで、
どこか申し訳なさそうな表情で…
少しばかり涙を零しながらこう言った。
「ごめん…オレ、アンルを守るって決めたのに…」
「…っ、」
「本当に、ごめん──」

自分は次の瞬間、しゃがみ込んでいた
ヴァルフの頬を優しく撫でた後…
彼を慰めるようにその言葉にこう答える。
「…良いんだよ、謝らなくても。」
「それとこの背中の怪我を…治してくれてありがとう。」

その後にヴァルフは、ハッとした表情をしながら
自分に疑問の形でこう問いかける。
「…」
「覚えてるの…?」

…自分はその言葉に一度頷き、彼にこう答える。
「勿論だよ、微かにだけどね。」
「けど…何故かそれだけは鮮明に覚えてるんだ。」
自分の優しい言葉に、ヴァルフは
少しだけ目を点にした後こう答えながら微笑んだ。
「…そっか。」

そしてその後にアギトさんは
咳払いをしつつ目を閉じた後に、こう述べた。
「アンル、そういや言ってなかったが…。」
「お前に会いてぇ奴がいるんだとよ。」
…自分はその言葉に少し首を傾け、
疑問を持ちつつ彼にこう問いかける。
「それは一体、誰なんですか?」

そう問いかけた自分の向かいにいる彼は…
なにやら扉の向こうを見た後、
自分の方を見てまたもやこう答えた。
「…仕方ねぇ、俺から言っておくか。」
「【蝶の魔女】…カフカ=ピリド・プテリアだ。」

──【蝶の魔女】。
暴君の王、星喰者グテラ
その次に名を轟かせていた異名。そしてそれ等の
異名を持った者たちは神に反対していたとされ、
…“神罰者”に成り果てようとした者達でもある。
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