生前はライバル令嬢の中の人でしたが、乙女ゲームは詳しくない。

秋月乃衣

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王子の訪問②

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 四阿でフレデリック殿下を迎える。
 彼はわたしの姿を見た途端、息を飲んでしばらく固まっていたらしく、慌てて言葉を発した。

「驚いたよ、とても似合っているね」
「ありがとうございます」
「公爵家の使用人はとてもセンスがいいのかな?それとも……」
「わ、わたくしの趣味ですっ。可愛らしい色よりも落ち着いた色味が好きなだけですわ」

 何だか自分でいってて恥ずかしくなり、早口で撒くし立ててしまった。照れると早口になるという、オタクの特徴を全て兼ね備えた自分が更に恥ずかしい。

「セレスティアは自分をしっかりと持っているんだね」

 今度はわたしが殿下の言葉に目を見張った。
 中二病とオタク趣味全開な自分を、そんな風に言って貰えるなんて。

 侍女の手によって、ブルーホワイトのカップに琥珀色のお茶が注がれる。
 花々を眺めながらお茶を飲み、焼きがしを食べたりして穏やかな時間を、二人で過ごしていた。

「セレスティア」

 何か決意したかのような、真摯に名前を呼ぶ声に目線を上げる。フレデリック殿下の頬は、ほんのり赤みを帯びている。

「はい?」
「今度何処かに出掛けようか」
「お出掛けですか」
「もちろん護衛は付くし、セレスティアを危険な目に合わせないと誓うよ」

 思い掛けもしなかった提案をされて、呆気に取られてしまう。厳重な護衛が付いた上でのお出掛けらしいが、王子様の外出なので当然だろう。
 そもそもわたしは、異性と二人きりでデートなんてした事はないけれど。

「何処がいいかな?郊外の湖とか、景色のいい場所でピクニックをしようか、それとも人気の舞台とか……」
「舞台……!?」

 思わずわたしが声を弾ませると、フレデリック殿下の表情は喜色を帯びる。

「セレスティアは舞台に興味があるの?行ってみたい?」
「は、はいっ。とっても」

 わたしはこくこくと頷いて見せて、肯定する。そんなわたしを優しい眼差しで見つめながら、フレデリック殿下はくすりと微笑んだ。

「本当の君のを知れて嬉しいよ」
「え?」
「だって、心から舞台に興味がある事が、セレスティアの表情を見ただけで分かったから」
「あ……」
「可愛い反応を見せてくれて嬉しいよ」
「かわっ!?」

 ──しょ、ショタのくせにー!!わたしは美幼女に興味があっても、ショタ属性なんて持ち合わせてないんですからねっ!

 しかし大人びたフレデリック殿下の事をわたしは一度も、歳下のような目で見たことはない。互いの身体年齢は同い年であり、精神年齢も同等か、フレデリック殿下の方が高い気さえしてしまう。

 赤面したまま、脳内が酷く混乱しているわたしに優しい声が降りてくる。

「セレスティアは初めて会った時からとても完璧で……本当の君を知りたいと思い始めて、気付けばしょっちゅう君の事を考えてしまっていた。今日は本当のセレスティアに触れられたような気がして、とても嬉しいよ」

 ──初めて会った時からとても完璧で……?それは本来のセレスティアの事ね。あ、ヤバい。これは確実に、その内ボロが出てしまう気がする……。

 頭の中では『婚約破棄』という不吉な文字が過っていた。

 この世界は現実であり、人々はそれぞれの人生を懸命に生きている。
 ゲームのキャラクターであるセレスティアも、物語開始前はこのようにフレデリックと、互いの関係を育む時間を過ごしていたのだろうか。

 それなのに、ヒロインに婚約者を奪われるような未来も用意されているなんて、とても残酷な事だ。

 もし、開始前にどんなに愛を育んだとしても、やはり運命の強制力には叶わないものなのかしら?

 ──だったら、初めから愛なんて信じなければ良いだけの事。
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