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ヴァシル③
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──どうしよう男性怖い、というより人間怖い……。
何だか観察されているような感覚で、とても居心地が悪い。
初々しいって、わたしの前世が彼氏いない歴イコール年齢というのがバレバレだと言いたいのね?モテない女、略して喪女だと。
お見通しだよ!!
「こんなに可愛い方なら、殿下の婚約者でなければ口説いていたくらいですよ」
軽い口調でサラッとチャラい発言をする彼の言葉を、わたしは受け流した。
──無視無視。
伊達に上京して生活していたわたしではない。ナンパや、キャッチセールスなどのスルースキルは高い。
──それにしてもヴァシルって、こんなキャラだったかしら?
フレデリック殿下の婚約者、セレスティアであるわたしが貴族男性にナンパなり、口説かれたりするとなると、自分を陥れようとしている可能性が高いと考えている。
だが、わたしはヴァシルという人間を『エリュシオンの翼』という作品を介して知っている。
彼が他人を陥れるような人間とは思っておらず、その点においては警戒はしていない。
ただ対応するのが面倒なだけで。
上辺だけいい人間なんて世の中には山程いるだろう。
それでも彼は作中で、明るくて性格のいいキャラクターとして描かれているのだから、そこはブレていない筈だ。
長くの時間を共にしている令嬢よりも、物語で性格の良いキャラ認定されているヴァシルの方が、余程安全。
「政略結婚の末に、貴女のような方が蔑ろにされるのは見たくないですねぇ」
「何を言っているの?」
その言葉には流石に眉を潜めた。
「蔑ろにされたり、貴女が嫌な思いをしていないのならいいのですが……。フレデリック殿下は、羽目をはずすのもお上手のようですから」
言われてヴァシルの動かした視線を追う。
窓ガラスの向こうには、意味深に紡がれた彼の言葉の先があった。
「!」
庭の片隅に、金糸の髪と茶色の髪が見える。
一階からは視覚となり見え辛い位置だが、二階にあるこの図書室の窓からは丁度
──あれは、殿下とエリカさん……。
ズキリと心が痛みを覚える。
動揺しすぎて、取り付くことさえ忘れていた。
──もしかして、わたしにこれを見せるために執拗に絡んできていたの?それとも偶然?
恐る恐るヴァシルの反応を見ると、真摯な眼差しをこちらに向けていた。
てっきりしてやったりな、満足気な表情をしているのかと思ったが、何故今更真面目な面持ちになっているのか。
「余計なお世話だったら申し訳ございません」
「……いえ」
動揺を悟られないよう、どのような言葉を紡げばいいのか分からない。必死に思考をめぐらせていると、ふいに背後からわたしの名が呼びかけられた。
「セレスティア様」
「セオラス」
振り返ると、そこにはフレデリック殿下の側近、セオラスが立っていた。唐突な登場に、わたしが面を食らっていると、彼は言葉を続ける。
「殿下はもうしばらくお時間が掛かるとの事なので、セレスティア様は馬車の中でお待ち頂きたく思います」
「分かったわ」
(お時間が掛かる……ね……)
誰とどこで何をしていて時間が掛かるのかなんて、野暮な事は当然聞かない。
「ではごきげんよう、アントネスク卿」
セオラスの出現により、ヴァシルと一対一ではなくなった状況で、心に余裕が戻ってきた。
一人きりだと弱気でも、群れると急に平常心を取り戻せる。オタクなので。
平静な笑顔を浮かべながらの挨拶をすませる。
そして本の貸出手続きをし、セオラスと共に馬車へと向かった。
──まだエリカさんと一緒にいるのかしら?
ぼんやりとそんな事を考えていると、程なくしてフレデリック殿下が馬車へとやってきて「待たせてごめんね」といつも通り爽やかな声音で微笑みかけてきた。
わたしものその微笑みに応えたが、上手く笑えていただろうか?
何だか観察されているような感覚で、とても居心地が悪い。
初々しいって、わたしの前世が彼氏いない歴イコール年齢というのがバレバレだと言いたいのね?モテない女、略して喪女だと。
お見通しだよ!!
「こんなに可愛い方なら、殿下の婚約者でなければ口説いていたくらいですよ」
軽い口調でサラッとチャラい発言をする彼の言葉を、わたしは受け流した。
──無視無視。
伊達に上京して生活していたわたしではない。ナンパや、キャッチセールスなどのスルースキルは高い。
──それにしてもヴァシルって、こんなキャラだったかしら?
フレデリック殿下の婚約者、セレスティアであるわたしが貴族男性にナンパなり、口説かれたりするとなると、自分を陥れようとしている可能性が高いと考えている。
だが、わたしはヴァシルという人間を『エリュシオンの翼』という作品を介して知っている。
彼が他人を陥れるような人間とは思っておらず、その点においては警戒はしていない。
ただ対応するのが面倒なだけで。
上辺だけいい人間なんて世の中には山程いるだろう。
それでも彼は作中で、明るくて性格のいいキャラクターとして描かれているのだから、そこはブレていない筈だ。
長くの時間を共にしている令嬢よりも、物語で性格の良いキャラ認定されているヴァシルの方が、余程安全。
「政略結婚の末に、貴女のような方が蔑ろにされるのは見たくないですねぇ」
「何を言っているの?」
その言葉には流石に眉を潜めた。
「蔑ろにされたり、貴女が嫌な思いをしていないのならいいのですが……。フレデリック殿下は、羽目をはずすのもお上手のようですから」
言われてヴァシルの動かした視線を追う。
窓ガラスの向こうには、意味深に紡がれた彼の言葉の先があった。
「!」
庭の片隅に、金糸の髪と茶色の髪が見える。
一階からは視覚となり見え辛い位置だが、二階にあるこの図書室の窓からは丁度
──あれは、殿下とエリカさん……。
ズキリと心が痛みを覚える。
動揺しすぎて、取り付くことさえ忘れていた。
──もしかして、わたしにこれを見せるために執拗に絡んできていたの?それとも偶然?
恐る恐るヴァシルの反応を見ると、真摯な眼差しをこちらに向けていた。
てっきりしてやったりな、満足気な表情をしているのかと思ったが、何故今更真面目な面持ちになっているのか。
「余計なお世話だったら申し訳ございません」
「……いえ」
動揺を悟られないよう、どのような言葉を紡げばいいのか分からない。必死に思考をめぐらせていると、ふいに背後からわたしの名が呼びかけられた。
「セレスティア様」
「セオラス」
振り返ると、そこにはフレデリック殿下の側近、セオラスが立っていた。唐突な登場に、わたしが面を食らっていると、彼は言葉を続ける。
「殿下はもうしばらくお時間が掛かるとの事なので、セレスティア様は馬車の中でお待ち頂きたく思います」
「分かったわ」
(お時間が掛かる……ね……)
誰とどこで何をしていて時間が掛かるのかなんて、野暮な事は当然聞かない。
「ではごきげんよう、アントネスク卿」
セオラスの出現により、ヴァシルと一対一ではなくなった状況で、心に余裕が戻ってきた。
一人きりだと弱気でも、群れると急に平常心を取り戻せる。オタクなので。
平静な笑顔を浮かべながらの挨拶をすませる。
そして本の貸出手続きをし、セオラスと共に馬車へと向かった。
──まだエリカさんと一緒にいるのかしら?
ぼんやりとそんな事を考えていると、程なくしてフレデリック殿下が馬車へとやってきて「待たせてごめんね」といつも通り爽やかな声音で微笑みかけてきた。
わたしものその微笑みに応えたが、上手く笑えていただろうか?
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