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首飾り
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「あ、あの、セレスティア様」
昼休みになり、ランチをしに食堂へ向かおうとしていた所だった。
訳ありな様子で声を掛けてきた、エリカさんを見てわたしは固まってしまった。
フレデリック殿下と共にいるところを目撃してしまったのは、つい一昨日の放課後。
あの日の映像が、無意識に脳裏に過ってしまったけれど、その動揺を悟られてはいけない。
「どうしたの?」
「実はご相談したい事が……」
人目を憚ろうとする様子に、昼食を食堂で取る事は止めにした。
代わりにわたし達は、軽く摘めるサンドイッチを購入してから、中庭のベンチへと移動する。
「実は、陛下に授けて頂いた、聖女の首飾りを無くしてしまったんです……」
食事を終えてから、ポツポツと話し始めたエリカさんの話を、わたしは神妙に耳を傾けた。
聖女の首飾り。それは『エリュシオンの翼』に登場する、シンボルともいえるアクセサリーに違いない。
ゲーム画面の会話ウィンドウなどにも表示されていた。少し大きめの円形のデザインの真ん中には大きなクリスタル、それを囲むように五色の宝石が、囲むように配置された首飾りだ。
ヒロインの聖女として力が強まっていく程、首飾りに施された宝石の輝きが増していくのである。
「心当たりはないの?」
「実は昨日……演劇のサロンへ誘われて参加をしていまして、そこで衣装を着替える事になったのです」
「初参加で衣装までって、随分本格的なのね」
「はい。それで……着替えるのを手伝って頂いて……」
「まさか、外してしまったの?」
わたしが驚くと、俯いていたエリカさんは勢いよく顔を上げて、泣きついてきた。
「この首飾りは、とても大事な物だから外せないっていったんです。だけど演じて貰う役柄にその首飾りは合わないから、演劇をする間だけ外さないといけないって、強く言われてしまって渋々……。もっと強く抵抗するなり、逃げ出さなかった自分も悪いと分かっているんですっ」
事の経緯に絶句してしまった。確かに役に合わない、私物の宝飾品を付けるのは良くないだろう。しかしそれは聖女のための首飾りであり、国宝といえる代物。気安く外して放置していい訳がない。
「そもそも着替えの手伝いすらいらないって、わたしは何度も訴えたんです!貴族出身ではないから、自分で着替えるのが当たり前な自分にとって、誰かに手伝って貰うのは気がひけると。それでサロンでの時間が終わって、着替えようとしたら、制服と共に置いておいた首飾りがなくなっていたのです。サロンメンバーの方々に知らないか聞いても、誰も知らないと言われてしまい、どうすれば良いのか……」
「昨日起こった出来事なのよね。誰かに盗られたのなら、今日持ち歩いているって事はないかしら?誰かが持ち帰って、そのままその人の家に保管されている可能性もあるけど……」
青くなったり、感情的になったり、放心したりを繰り返すエリカさん。彼女が少しでも落ち着いて考えられるようにとわたしは冷静に、そして出来るだけゆっくり丁寧に話すことを努めた。
「無くしてしまったなんて、陛下に何とご報告すべきか……」
頭を抱えて塞ぎ込んだままエリカさんはぼそりと「こんなのゲームのシナリオにはなかったのに」と呟いた。
昼休みになり、ランチをしに食堂へ向かおうとしていた所だった。
訳ありな様子で声を掛けてきた、エリカさんを見てわたしは固まってしまった。
フレデリック殿下と共にいるところを目撃してしまったのは、つい一昨日の放課後。
あの日の映像が、無意識に脳裏に過ってしまったけれど、その動揺を悟られてはいけない。
「どうしたの?」
「実はご相談したい事が……」
人目を憚ろうとする様子に、昼食を食堂で取る事は止めにした。
代わりにわたし達は、軽く摘めるサンドイッチを購入してから、中庭のベンチへと移動する。
「実は、陛下に授けて頂いた、聖女の首飾りを無くしてしまったんです……」
食事を終えてから、ポツポツと話し始めたエリカさんの話を、わたしは神妙に耳を傾けた。
聖女の首飾り。それは『エリュシオンの翼』に登場する、シンボルともいえるアクセサリーに違いない。
ゲーム画面の会話ウィンドウなどにも表示されていた。少し大きめの円形のデザインの真ん中には大きなクリスタル、それを囲むように五色の宝石が、囲むように配置された首飾りだ。
ヒロインの聖女として力が強まっていく程、首飾りに施された宝石の輝きが増していくのである。
「心当たりはないの?」
「実は昨日……演劇のサロンへ誘われて参加をしていまして、そこで衣装を着替える事になったのです」
「初参加で衣装までって、随分本格的なのね」
「はい。それで……着替えるのを手伝って頂いて……」
「まさか、外してしまったの?」
わたしが驚くと、俯いていたエリカさんは勢いよく顔を上げて、泣きついてきた。
「この首飾りは、とても大事な物だから外せないっていったんです。だけど演じて貰う役柄にその首飾りは合わないから、演劇をする間だけ外さないといけないって、強く言われてしまって渋々……。もっと強く抵抗するなり、逃げ出さなかった自分も悪いと分かっているんですっ」
事の経緯に絶句してしまった。確かに役に合わない、私物の宝飾品を付けるのは良くないだろう。しかしそれは聖女のための首飾りであり、国宝といえる代物。気安く外して放置していい訳がない。
「そもそも着替えの手伝いすらいらないって、わたしは何度も訴えたんです!貴族出身ではないから、自分で着替えるのが当たり前な自分にとって、誰かに手伝って貰うのは気がひけると。それでサロンでの時間が終わって、着替えようとしたら、制服と共に置いておいた首飾りがなくなっていたのです。サロンメンバーの方々に知らないか聞いても、誰も知らないと言われてしまい、どうすれば良いのか……」
「昨日起こった出来事なのよね。誰かに盗られたのなら、今日持ち歩いているって事はないかしら?誰かが持ち帰って、そのままその人の家に保管されている可能性もあるけど……」
青くなったり、感情的になったり、放心したりを繰り返すエリカさん。彼女が少しでも落ち着いて考えられるようにとわたしは冷静に、そして出来るだけゆっくり丁寧に話すことを努めた。
「無くしてしまったなんて、陛下に何とご報告すべきか……」
頭を抱えて塞ぎ込んだままエリカさんはぼそりと「こんなのゲームのシナリオにはなかったのに」と呟いた。
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