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眠り姫と演奏会
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黒髪の魔術師がオフィーリアとレオンハルトに近づき、冷然と話始める。
凪いだような藍色の瞳に、夜の月を思わせる冷めた印象の美形だ。
「殿下がオフィーリア様に暴行されようと、その麗しい顔が変形する程ボコボコにされようと、我々にとってはどうでもいいのです」
「どうでも良いのかよ」というツッコミをケントは飲み込んだ。
「ただ、殿下に非があるのなら謝罪させようと思い、オフィーリア様から事情を聞く場を設けさせて頂きました。殿下にも何が悪かったのか理解させないといけません。心ない謝罪はオフィーリア様としても不本意でしょう?」
そう言われてようやくオフィーリアはレオンハルトを離し素直に「暴れてすみませんでした」とまずレオンハルト以外に謝罪した。
オフィーリアはまず、起き上がるまでの自分の置かれていた状態を説明した。
気付けば意識はあるのに身動きも取れず、話す事すら出来ずに寝台の上にいた事。
「成る程。ではオフィーリア様の体は眠った状態でも、意識がおありの時があったという訳ですね」
「それどころか映像が映し出されていて、この部屋の様子も、皆さんのお顔もはっきりと見えていました。だから一日のうちの僅かな時間ですが、意識が起きている時は勿論周りの会話なども聴こえていたのです」
「それはとても興味深い」
信じられないような話を、黒髪の魔術師は真剣に聞いてくれている。
「だから眠い時に、そこの王子様がウキウキで楽器を取り出してきた時は、本当に殺意が湧きました」
「……心中お察しします」
ケントが苦笑する。
「オフィーリア……前みたくレオンと読んでくれないだろうか……?」
答えないオフィーリアの代わりに、ケントが口を開いた。
「オフィーリア様が眠りについてしまって、こちらのレオンハルト殿下が涙を零したと伝わっていますが実際は……泣き喚き続け、オフィーリアオフィーリアとオフィーリア様の真横で声を荒げる度に、オフィーリア様は苦悶の表情でうなされておりました。よほど喧しかったのでしょう」
「……」
「しかしそんなオフィーリア様を見て、我々は気付いたのです。オフィーリア姫は、声に反応しておられると」
オフィーリアは嫌な予感がして目を眇めた。
「ですから我々は早速国内屈指の宮廷楽士達を集めて、オフィーリア様を取り囲んで演奏会を開かせて頂きました。アップテンポな曲を中心としたプログラムを組み!……それでもオフィーリア様は目覚める事はなく、それはそれは迷惑そうにうなされるのみでした」
「何やってるのよ!そこ、そういう所よ!反省してよね!」
クラシック系なら眠りを誘うものや、リラックス、快眠の促進にも繋がる物も多いだろう。
しかしケントの説明だと、シンバルとかをバシンバシン叩かれていたり、やたらと喧しい想像しか出来ないでいた。話を聞いただけでも、五月蝿くて迷惑この上ない。ここには鬱陶しい人間しかいないのか。
そこでようやく再びレオンハルトが口を開く。
「四日ほど前、僕の歌とヴァイオリンの演奏を聴かせている時に、手で寝台を叩き付けた事があったよね。てっきり音楽に乗ってくれているのかと思ってたんだけど」
「ノリノリだったんじゃないわー!五月蝿くて苛々してたのよ!つか覚えてるわよ!ムカつきすぎて、奇跡的に腕と意識が連動したのよっ」
あれは忘れもしない。寝返りすらもした事がなかったのに、腕が動いた事など、あれが一度きりだった。
しかもこの王子の怖いところは、誰もオフィーリアの意識がある事など気付いていないのに、意識が覚醒した瞬間気付くところだ。
それまで静かにしていたはずなのに、オフィーリアの意識が目覚めた瞬間に「あ、起きた?」など言ってヴァイオリンを取り出したり。
まだ微睡んでいたいのに、強制的に意味のわからない演奏を嬉々として聞かせてきて、殺意が湧いた。
チェロやコントラバスといった、低音を奏でる楽器に比べてヴァイオリンはやたらと頭に響く。
また別の日は「眠いの?」といって本人曰くよく眠れるようにと、寝ようとしているのにまたしても強制的に演奏を聴かせてくる。しかもその時は歌付きだった。
確実に言えることは、オフィーリアが起きると何故か気付く彼は確信犯という事だ。
「嗚呼、やはり意識があって僕の演奏と歌を聞いてくれていたんだね。オフィーリア、またレオンと呼んで欲しい。僕達は婚約者同士なのだから」
「あの、ずっと言いたかった事を言ってもいいですか?」
「何だい、オフィーリア」
「私、貴方の婚約者になった覚えがないのですけども?」
レオンハルトは微笑みを貼り付けたまま石像のように固まり、ようやく黙った。
凪いだような藍色の瞳に、夜の月を思わせる冷めた印象の美形だ。
「殿下がオフィーリア様に暴行されようと、その麗しい顔が変形する程ボコボコにされようと、我々にとってはどうでもいいのです」
「どうでも良いのかよ」というツッコミをケントは飲み込んだ。
「ただ、殿下に非があるのなら謝罪させようと思い、オフィーリア様から事情を聞く場を設けさせて頂きました。殿下にも何が悪かったのか理解させないといけません。心ない謝罪はオフィーリア様としても不本意でしょう?」
そう言われてようやくオフィーリアはレオンハルトを離し素直に「暴れてすみませんでした」とまずレオンハルト以外に謝罪した。
オフィーリアはまず、起き上がるまでの自分の置かれていた状態を説明した。
気付けば意識はあるのに身動きも取れず、話す事すら出来ずに寝台の上にいた事。
「成る程。ではオフィーリア様の体は眠った状態でも、意識がおありの時があったという訳ですね」
「それどころか映像が映し出されていて、この部屋の様子も、皆さんのお顔もはっきりと見えていました。だから一日のうちの僅かな時間ですが、意識が起きている時は勿論周りの会話なども聴こえていたのです」
「それはとても興味深い」
信じられないような話を、黒髪の魔術師は真剣に聞いてくれている。
「だから眠い時に、そこの王子様がウキウキで楽器を取り出してきた時は、本当に殺意が湧きました」
「……心中お察しします」
ケントが苦笑する。
「オフィーリア……前みたくレオンと読んでくれないだろうか……?」
答えないオフィーリアの代わりに、ケントが口を開いた。
「オフィーリア様が眠りについてしまって、こちらのレオンハルト殿下が涙を零したと伝わっていますが実際は……泣き喚き続け、オフィーリアオフィーリアとオフィーリア様の真横で声を荒げる度に、オフィーリア様は苦悶の表情でうなされておりました。よほど喧しかったのでしょう」
「……」
「しかしそんなオフィーリア様を見て、我々は気付いたのです。オフィーリア姫は、声に反応しておられると」
オフィーリアは嫌な予感がして目を眇めた。
「ですから我々は早速国内屈指の宮廷楽士達を集めて、オフィーリア様を取り囲んで演奏会を開かせて頂きました。アップテンポな曲を中心としたプログラムを組み!……それでもオフィーリア様は目覚める事はなく、それはそれは迷惑そうにうなされるのみでした」
「何やってるのよ!そこ、そういう所よ!反省してよね!」
クラシック系なら眠りを誘うものや、リラックス、快眠の促進にも繋がる物も多いだろう。
しかしケントの説明だと、シンバルとかをバシンバシン叩かれていたり、やたらと喧しい想像しか出来ないでいた。話を聞いただけでも、五月蝿くて迷惑この上ない。ここには鬱陶しい人間しかいないのか。
そこでようやく再びレオンハルトが口を開く。
「四日ほど前、僕の歌とヴァイオリンの演奏を聴かせている時に、手で寝台を叩き付けた事があったよね。てっきり音楽に乗ってくれているのかと思ってたんだけど」
「ノリノリだったんじゃないわー!五月蝿くて苛々してたのよ!つか覚えてるわよ!ムカつきすぎて、奇跡的に腕と意識が連動したのよっ」
あれは忘れもしない。寝返りすらもした事がなかったのに、腕が動いた事など、あれが一度きりだった。
しかもこの王子の怖いところは、誰もオフィーリアの意識がある事など気付いていないのに、意識が覚醒した瞬間気付くところだ。
それまで静かにしていたはずなのに、オフィーリアの意識が目覚めた瞬間に「あ、起きた?」など言ってヴァイオリンを取り出したり。
まだ微睡んでいたいのに、強制的に意味のわからない演奏を嬉々として聞かせてきて、殺意が湧いた。
チェロやコントラバスといった、低音を奏でる楽器に比べてヴァイオリンはやたらと頭に響く。
また別の日は「眠いの?」といって本人曰くよく眠れるようにと、寝ようとしているのにまたしても強制的に演奏を聴かせてくる。しかもその時は歌付きだった。
確実に言えることは、オフィーリアが起きると何故か気付く彼は確信犯という事だ。
「嗚呼、やはり意識があって僕の演奏と歌を聞いてくれていたんだね。オフィーリア、またレオンと呼んで欲しい。僕達は婚約者同士なのだから」
「あの、ずっと言いたかった事を言ってもいいですか?」
「何だい、オフィーリア」
「私、貴方の婚約者になった覚えがないのですけども?」
レオンハルトは微笑みを貼り付けたまま石像のように固まり、ようやく黙った。
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