デブでブサイクなブタを溺愛するのは……

くろいひつじ

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36 はぐらかされてる

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「万が一を考えて、腕の良い治療師を頼んである。
 どれだけ万全を備えても、即死さえしなければ、という前提は変えられない」
「……呪いってそんなにひどいものなの?」
「プロフラーさんの話では、君のお父さんが失踪したのが二十二年前。
 その頃に呪われたのであれば、呪いを受け続けている期間が長すぎる。
 呪いの還元で周囲にどのような影響が出るのか予測しきれないから、他のご家族には離れてもらった」

 母さんは父さんが呪われていることも、魔導師の見習いだったことも知らないようだった。
 わたし以上に驚いて、傷ついていなければ良いけど。

 わたしはずっと、両親は愛しあっていると思っていた。
 仲が良い両親が好きだった。
 それは、目の前が晴れた今でも見間違いではなかったと思うから。

 姉や兄、弟はどうしているだろう。
 町に戻ってきてから、兄と弟には会ってない。

「父さんのところに行きたい」
「捕縛後に許可が出るなら」
「許可が必要なの?」
「呪法師は、存在していてはいけないんだ」

 一度なにかを決めた後のクラスニーは頑固だ。
 わたしの勉強の時もそうだった。
 書庫の整理の方が良いと言っても聞いてくれなかった。

 まるで石頭のお爺さんや、すねたロバみたい。
 見た目は目鼻立ちの整った若い男性なのに、中身が頑固な老人みたいだなんて。

 母さんも頑固だから、こう言う時は真正面からぶつかっても無理、ってわたしは知ってる。

「いつなら、良いの」
「僕は関係者ではないから、いつとは言えない」
「許可は誰が出すの?」
「専門部署から派遣された執行官」

 それはなに、って聞いたらもっと分からなくなった。
 魔導師きょうかいのじゅほうたいさくかん、ってなに?



 それからのクラスニーは、落ち込むわたしにテーブルクロスもないのにご飯を出してくれて、食べさせられた。
 こんな気持ちで美味しく食べられるはずがない、と思っていたのに。
 美味しい。

 美味しいかい、と覗き込まれたり、わたしが食べてる姿を見ながら微笑んでる姿が、光り輝いて見える。
 イヌの姿なら平気だったのに、どうして。
 柔らかく目を細めないで。
 口元についたソースを指でぬぐわないで。

 町の女の子を相手にして、こんなことしたりしないよね。
 絶対に女性が放っておかないと思う。
 クラスニーを外に出したくない。

 なんだか前より距離が近くて、恥ずかしい。
 どうしてクラスニーの膝の上に座ってご飯を食べないといけないの?

 椅子がひとつしか見当たらないから?
 おかしいよ、確か三つくらいあったのに。
 あっちの部屋のカウチを引きずってくるから、膝から下ろして!

 食事の後は、今日の分のお勉強だって。
 ……どこから本とかペンを出したの?

 勉強よりも知りたいことがあるの、と手をあげた。
 イヌのクルだった時は、先生扱いすると喜んでくれてた気がするから、いつの間にか手をあげてから発言するようになったんだよね。
 しっぽがフッサフッサ揺れてて、かわいかったんだよ。

 なぜ、町に来てから、みんながわたしだと気がつかないのか。
 この服はどうなっているのか。

 それを聞けば、クラスニーはわたしの肩からショールを外して、広げてくれた。

「このショールとワンピースの両方で、ネラが本来の姿に見えるような魔法が成立するようにしてある」
「……魔法?」

 わたしが着ている服は、ただの服ではなかったと判明した。

 
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