デブでブサイクなブタを溺愛するのは……

くろいひつじ

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40 自己防衛:憐憫

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登場人物の名前一覧を、一話の上に投稿しました、ネタバレはないです




  ※
 

 今、わたしが考えていることをクラスニーに伝えたら、きっと嫌われる。
 もしかしたら、見捨てられるかもしれない。

 そう思っていても、言わずにはいられなかった。

 わたしを救ってくれた人を騙したくない。
 助けてもらって、優しくされたことを嬉しいと思ったのは本当だから。
 甘えたがりのどうしようもないわたしを、デブでブサイクなブタを、人として扱ってくれた魔導師さま。

 隠し通せない気がした。
 言って、伝えて、楽になりたかった。
 結局わたしは、自分のことしか考えられない。

 この考え方が、学級長の彼に対して行動した時と同じものと同じだと知りながら、握ってくれる手を握り返した。

 呪われていても呪われていなくても、わたしは変わらない。
 目の前が晴れても、自分のことしか考えられない愚か者のまま。

「父さんは……どうなっても良いの!」

 わたしの言葉を聞いて、クラスニーは目をまたたかせた。

「そうか、それならネラは何に傷ついているの」
「父さんが人殺しならわたしは人殺しの娘でしょう。
 これから先、ずっとそう言われて生きてくのよ」

 父さんがわたしの人生を狂わせた。
 母さんやクラスニーの言葉を信じるなら、生まれたその時から。

「父さんに会いたい」

 本当にわたしをいけにえにしていたのか、父さんの口から聞きたい。
 わたしがいらない娘だったのか、それとも利用価値だけはあったのか。
 かわいいと言ってくれたのは、嘘だったのか。
 ずっとだましていたのか教えてほしい。

「それは、許可できかねます。
 お嬢さんにお伝えしたここまでの話も、現状で生きている唯一の被害者と考えられる点と、先生の保証があっての情報開示ですから」

 ソウレイネナヴィストさんにそう言われてしまえば、何も言えなかった。

「ネラ、少し考えてみよう、一緒に、まだ詳しいことは分かっていないのだから」

 わたしの手を離さないクラスニーは、穏やかな声でそう言うと、ふふ、と鼻から息をもらすように微笑んだ。

 大丈夫、と手の甲をなでられると涙がにじむ。
 どうしてひどいことを言うわたしに、優しいままなの。

 まるで、幼い子供がかんしゃくを起こす様子を、困ったなと見つめる大人のようだと思った。



   ▼



 父の捕縛の翌日に、目を泣き腫らした母さんが、ソウレイネナヴィストさんに連れられて宿に来た。
 落ち込んでいる兄と、不機嫌な弟も一緒に。

 前日に、わたしはクラスニーにクッションのように抱きついて、一晩を泣き明かしてしまった。
 頭をよしよしとなでられることから、どうしても離れられなかった。

 甘やかされていることを喜ぶ自分が、嫌い。

 泣きすぎで体がだるくて熱が出て、母さんが来てくれた時には寝込んでいた。

 熱が出て動けなかった。
 けれどそれ以上に、クラスニーの上着を涙と鼻水とよだれまみれにしてしまい、顔を見せられなくてふて寝していた。

 母さんと同じように、顔がパンパンになっていたわたしは、母さんの顔を見て涙が止まらなくなって、一緒にもう一度泣いた。
 何が悲しいのか、まだ分からないまま。

 
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