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68 いつもの食事が一番
しおりを挟むいつも食事をとる部屋で、クラスニーの膝の上に座る。
座らせられる、って言った方が正しいのかな。
先ほど教室で消したワンプレートをテーブルに出してもらい、いつものように食べさせてもらった。
落ち着く。
美味しい。
サラダは冷たくてしゃっきり。
お魚、お肉、温野菜はほかほかでうまうま~。
キッシュのパイがサクサク、クリーム入りの卵はふわとろ。
ベイクドポテトの外はパリッと揚げ焼きで、中がホックホクで熱々。
ポタージュスープは飲み頃だった。
すごいね、魔法って。
自分で食べる、って言いそびれた。
……うそだ。
食べさせてもらうのが幸せすぎて、いまさら自分で食べられるって言えない。
あと、正しいマナーを知らない。
いっぱいナイフとフォークを並べて、スプーンもいくつもあって。
どれがどれだか分かる人、すごいよね。
全部一つでいいと思う。
わたしをひざに乗せているのに、長い腕を伸ばしてナイフとフォークを操るクラスニー。
その姿が、うっとりするくらいすてきなの。
わたしが自分で切ったら、絶対に大きくなる一口。
クラスニーが口元に差し出してくれるのは、お上品な一口。
口の中にものを詰めこむのが行儀悪いって知っていても、これまでは空腹に負けて食べ方なんて気にしてなかった。
気にする余裕がなかった。
これからは魔導師の勉強だけでなく、マナーとかも学ばないといけないよね。
クラスニーがわたしを家にこもらせてくれるなら、家の中だけなら問題ないけれど。
それだと向上心をなくしてしまいそう。
「美味しい?」
「うん」
クラスニーのひざの上で食べるご飯が、一番美味しいよ。
なんて、言えない。
うなずくだけで精一杯。
わたし、この人が好きだ。
すっごく好きだ。
奥さんにしてもらえるなんて、奇跡だよ。
「今日のデザートはフルーツグラタンだよ」
聞いただけで、ほほが落ちそう。
クラスニーはわたしを甘やかしてくれる。
わたし、クラスニーがいないと生きていけない。
口の中でとろっと溶ける温かいカスタードの甘味と、甘酸っぱいフルーツに、わたしは記憶を飛ばしそうになった。
美味しすぎるのがいけないと思う。
食事を終えてから、クラスニーが魔法を使って移動したのは、小さな部屋だった。
「学校長室では移動しにくいから」
用務員室という場所らしいけれど、使われていないようでほこりが溜まっている。
「今から掃除するから、帰りの時間にはきれいにしておくよ、いってらっしゃい、ネラ」
そう言って、わたしの体を支えてくれていた腕を離してくれるのかと思えば、シャラと耳元でクラスニーの髪の毛が擦れる音が聞こえ。
少しだけ頭を押されるような感触と。
ちゅ、と頭の上から音が聞こえた。
「~~~~!?」
どうやって、教室に移動したのか、覚えてない。
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