デブでブサイクなブタを溺愛するのは……

くろいひつじ

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70 星空の下で

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 ゆっくりと近づいてくる銀光。
 きらり、きらり、と光をこぼす二つの星。

 きれい。
 こんなにきれいなもの、他に見たことない。

 そっと唇に、乾いたものが触れた。
 離れて、触れて、細くなった銀の光が、目の前で揺れてまたたく。

 唇に触れる温もりが、気持ちいい。

「……ネラ、目を」
「うん」

 何を言われているのか、理解できない。
 銀の星に囚われて、身動きがとれない。

 わたしの意思ではないのに、まぶたが勝手に閉じていく。

 唇をそっと撫でて、離れていく優しい温もり。
 寂しい。
 離れないで。

 目の前のしっかりとした体にしがみつく。
 服の下に熱を隠した体は、わたしを支えてもふらつかない。

 ぐずる子供をなだめるように背中に回された腕は、トントンと背を叩くことなく、わたしを抱えあげてくれた。

 子供の抱っこではない。
 横抱きにされて、背中と膝の裏をしっかりと支えられた。

「クラスニー」
「なんだい」
「好き」
「ありがとう」

 わたしはまだ子供かもしれないけれど、すぐに大人になるわ。
 だから、もう少しだけ待っていて。
 勉強も家事も覚えて、せいいっぱい頑張るね。

 なにもかも、好きの気持ちだけで乗り越えていけたら良いのに。

 久しぶりに学校に行って疲れていたのか、温かい腕の中でゆっくりと揺らされている間に、眠ってしまったようだった。



   ▼



 飛び起きた。

 わ、わたし、わたし……き、き、ききすしたあああっっ!!

 こぶしで頭をトントン叩いてみる。
 ほっぺを引っ張ってみる。
 目の前で指の本数を数えてみる。

 夢じゃないみたい。
 本当に、クラスニーときすしたのね。

 ……あ、「初めてのキッスは満開の花畑でだったわ、とってもロマンチックだったのよぉ」って姉がすっごくえらそうに言ってきたのを思い出して、ちょっといらっとした。

 場所はクラスニーの部屋だったけれど、すっごくロマンチックだったもん。
 星空の下だったもん。
 天井画かもしれないけれど、星がキラキラしてたから本物の空みたいだったもん。

 わたし、誰に言い訳してるんだろう。
 むなしくなるからやめよう。


 周りを見回してみれば、わたしの借りている部屋のベッドだった。

 最近は宿の部屋だったから久しぶりな気がする。
 こちらの部屋の方が落ち着くんだよね。

 家具はごうかに見えるけれど、派手な装飾や色がつけられてはいなくてどっしりした作り、どれもこれもつやつやに磨かれている。
 大きなベッドを独り占めするぜいたくにもなれてしまった。

 そういえば、前は目が覚めるとすぐにお腹が空いていた。

 以前はつらくて仕方なかったことなのに、いつの間にか過去のことになっている。
 クラスニーのおかげで。

 そうだ、今日はわたしからもクラスニーに、き、きすをしてみよう!
 ほほならできる。
 父さんとか母さんにしてたのと同じ。

 クラスニーおはよーちゅ、って感じでいけば。
 ……で、できるかな。

 
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