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72 頑張りました
しおりを挟むどうしよう、と思っていたけれど、今、目の前にクラスニーの顔がある。
わたしを見つめる瞳には優しい色。
とく、とく、と心臓が早くなっていく。
吸い寄せられるように、灰色の肌に唇を押しつけていた。
両手はしっかりとした首へ回して。
わたしよりも体温が低い肌。
大人の男の人の肌って、こんな感じなんだ。
「ネラ」
「ん」
どうしよう。
勢いでほほに口を押しつけたところまでは良いけれど、この後、どうするんだろう。
クラスニーの顔が見れないよ。
顔が熱い。
ぎゅうっと抱きついて、筋の張った首筋に顔を押し当てる。
「ネラ、う、苦しい」
「あ、ごめんなさいっ」
思い切り抱きついたせいで、首を締めてしまったみたい。
慌てて手を離して距離をとると、目の前には銀の光が優しく細められていた。
「……」
無言で、そっと、唇が触れた。
好き。
大好き。
すごく好き。
幸せ。
こんなふうに幸せだと感じられる日がくるなんて、考えたこともなかった。
目の前のことしか見えていなかったわたしが、先のことを考えている。
クラスニーと一緒にいたいと思っている。
彼に相応しい大人の女性になりたい。
そう考えられることって、とても幸せなことなんだ。
「ネラ、学校に間に合わなくなるよ」
少し離れてしまった距離を寂しく思いながら、頷いた。
今はなにを言葉にしても、クラスニーを困らせてしまいそうだから。
離れたくない。
ずっと一緒にいたい。
無理だって理解してる。
朝食を終えて、学校に送ってもらい、昼ごはんは用務員室での集合を約束してから、見送られた。
教室に入っても、挨拶をする相手もいない。
これが普通だった、と前のことを思いだしても心は痛まない。
ひとりを辛いと思っていたのは過去のこと。
クラスニーと過ごしてきた時間は、とても優しくて心地よくて、わたしのためのものだった。
わたしの心の傷を、癒してくれた。
同級生の態度は、もうわたしを傷つけない。
昨日の件があるからなのか、周囲からの視線を感じるけれど誰も話しかけてこなかった。
わたしもその方が良い。
これまでずっと、聞こえるように悪口を言われていたのに、仲良くなるなんて無理。
また、いないところで悪口を言っているかも、って疑ってしまう。
一度失った信頼を取り戻すのは難しい。
それは、学級長への周囲の態度でもよくわかる。
昨日までは誰かが常に周りにいたはずなのに。
今は孤立してる。
表情は常にしかめられていて、不機嫌そのもの。
商店の子も、食堂で働く予定の子も、わたしのこれからには関係しない。
そう思ってしまうのは、とても薄情なことなんだろう。
初めから信頼も信用も築くことができなかった。
三年近く同じ教室にいて、誰とも友達になれなかったのに、あと二月で仲良くなるなんて無理だよ。
……早く、卒業したい。
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