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01 見知らぬ魔術兵
004
しおりを挟む獣人種の感覚に則って言えば、凡人種は同性異性を問わず、基本的に性的魅力を感じる相手ではない。
外見では性的魅力を感じない。
それを除いても、オンフェルシュロッケンの目の前にいる魔術兵は、異性をたぶらかす手練手管に長けているように見えなかった。
肉欲に訴える明確な目的があるなら、もっと獣人種の好みそうな外見の者を送り込んでくるはずだ。
誰から見ても成熟した年齢で、肉感的であでやかな毛艶の獣人種を。
悩みに悩んでから(見れば見るほどに見覚えがねぇ、やっぱり思いだせねぇ)と低くうなる団長。
突然現れた、初対面としか思えない魔術兵に恋文を差し出されたのが、昨日のこと。
相手のことが一切思い出せなくて断ったものの、一晩経てば思い出すこともあるだろうと楽観視していたが、今でもなに一つ思い出せずにいた。
一体、何者なのか。
どこで自分を知ったのか。
それが気になる。
飢饉で食いっぱぐれて、生きていくために兵士になったオンフェルシュロッケンには、これまでの人生で恋愛ごとにうつつを抜かす時間などなかった。
一兵士として戦場を駆け抜けて、泣いて食って寝るだけの日々。
悪意を向けられれば鍛錬と称してぶちのめし、無駄に高い身体能力を周囲に見せつけ、死にたくないとあがき続けるうちに、気がつけば団長になっていた。
だが、肩書きを得たからといって、押しつけられる仕事が減ることはない。
まともに字も読めない学のない田舎者が、団長として多くの兵士達を率いていくには、人の倍以上の努力と時間が必要で、人生の全てを使って、ようやく一般人程度だと自認している。
いつどこで、魔術師に気持ちを寄せられるような真似をしたのか、と過去の自分を回想してみても、なに一つ思い出せないのが、現在のオンフェルシュロッケン団長だった。
「駄目でしょうか」
無言で立つ姿に拒絶を感じ取ったのか、魔術兵が唇を噛みしめた。
その姿がなぜか胸をざわめかせ、オンフェルシュロッケンは思わず口を開いていた。
「構わない」
「あ、ありがとうございますっ!」
食堂中にざわめきと動揺が走り『団長、魔術兵、飯を食う』という内容のハンドサインが、そこかしこで飛び交っている。
顔に出さずに(なぜそこまで騒ぐだ?)と動揺しているオンフェルシュロッケンに、魔術兵が青白い顔をゆるめて、心から嬉しそうに微笑む。
それだけで、なにもしていないのに、人助けをしたような気持ちになった。
喜びを感じることを不思議に思いながら、オンフェルシュロッケンは息をついた。
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