千里眼の魔術師は赤銅の色を知らない

くろいひつじ

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02 戸惑いの日々

005

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 それから毎朝、赤銅アカガネ兵士団兵士寮の食堂に、一人の魔術兵が訪れるようになった。

 痩身を包む黒揃えの魔術兵服は、赤銅色の兵服の中でひどく目立つ。
 団長がなにも言わないので、誰もが口を閉ざしていたけれど、注目の的になることは仕方なかった。

「おはようございます、オンフェルシュロッケン団長閣下」
「おはよう」

 獣人種でも分かるほど、幸せそうな笑みを浮かべて挨拶アイサツをされると、強面で朝も昼も夜も厳しい表情が標準装備の団長の顔が、少しだけ険しさをゆるめる。

 言葉は返すけれど、オンフェルシュロッケンはこれまでに一度も、魔術兵の名前を呼んでいない。

 忘れているわけではなく、〝スル〟と名乗った魔術兵について、まだ調べている途中だった。

 これまでまったく接点のない魔術兵士に、警戒心を持つなという方が難しい。
 身元が分からないように、兵服の飾りを取っているのかもしれないと推測してしまえば、尚更に。

 相手が本物の魔術兵なら、なんらかの魔術を仕込んでいてもおかしくない。
 名前を呼んだら、誓約魔術が成立したなんてことになったら、目も当てられない。

 ずっと好きでした、などと言われても、オンフェルシュロッケン団長は覚えていない。
 過去に出会っていたとしても、思い出せていない。

 いっそのこと、初対面ですが一目惚れしました、と言われた方が納得する。
 その時は、無口で強面な団長のどこに凡人種が一目惚れするんだ……、と周囲の兵士たちがおののくことになるが。

 団長の口数の少なさが災いして、覚えていないと伝えられていない。
 だが初対面の時の発言から、察することはできるはずだ。

 毎朝一緒に食事をして、二言三言とはいえ会話をすれば、団長が覚えていないと気がついてもおかしくない。
 すでに三日目なのだから。
 それなのに、態度を変えない魔術兵を怪しむなという方が難しい。

 魔術兵の本当の狙いが分からず、団長は毎朝自分に向けられる笑顔が失われることを、少し残念に思い始めていた。

 こんな風にまっすぐ「好きです」と誰かに言われたのは、生まれて初めてだった。

 もうすぐ五十歳になるというのに、初めての甘酸っぱい気持ちで、胸がむず痒くてたまらない。
 (向けられとう気持ちが本物ほんもんなら)と思った直後に(この歳でわけぇ者と惚れた腫れたなんてすんのは、ちゃんちゃらおかしぐねぇが?)とも思う。

 仕事一筋しかなかった人生に、それ以外のものを増やしたいと願っても、これまで通りにやっていける自信は、オンフェルシュロッケンにはなかった。

 
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