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02 戸惑いの日々
007
しおりを挟む翌朝、オンフェルシュロッケン団長は普段と変わらずに険しい表情で、アクデム団長補佐は凍りついたような無表情で、黒い魔術兵服を着た何者かを迎えた。
「おはようございます、オンフェルシュロッケン団長閣下。
本日も、朝食をご一緒させて頂いてもよろしいでしょうか」
「おはよう、構わない」
「ありがとうございます」
毎日のように朝食を共に過ごし、食事を始めれば和やかな雰囲気になるというのに、魔術兵は毎回、食事を共にする許可を求めてくる。
そしてオンフェルシュロッケンが言葉を返すと、心から嬉しそうにはにかむ。
不健康に見える青白い頬をゆるめて微笑む顔は、魔術兵をひどく幼く、少女のように愛らしく見せた。
団長を若い女好きだと勘違いしているのかもしれない。
その可能性に気がついたアクデムだが、直後に首を振る。
団長の生活には戦場と鍛錬と寮の往復しかないことを、誰よりも知っている。
誤解を生じる機会はない。
オンフェルシュロッケンは(本当にこんなめんこい女子が間諜なんか?)という疑問を持ったまま朝食の盆を受け取り、初めて魔術兵の右隣に座った。
「……あの?」
いつも対面する席に座るのに、と魔術兵が顔を上げたその時、捕食系獣人の名に恥じない鋭い鉤爪が、兵服の黒い布を捕らえた。
布の奥に感じる腕の細さに驚きながら、オンフェルシュロッケンは考えていた言葉を口にする。
「魔術兵士団にスルという名の兵士はいない、お前は誰だ」
「え……」
言われている言葉が理解できないようにうろたえる魔術兵。
冷静にその姿を見下ろしていたたオンフェルシュロッケンは、不自然さに目を細める。
普通の生き物なら、動揺した時に揺れてさまよう視線が、微塵も揺れない。
慌てているのは、瞬きの数が増えていることから、明らかなのに。
今まで感じていた違和感に思い至った。
眼球は動いているのに、焦点があっているはずなのに、まるで見えていないようだ。
相手を一瞥もせずに避け、こちらを見ているのに視線を感じない時があった。
違和感に気がつけば、そこに魔術が絡んでいると推測するのは簡単だった。
「っ、っいやっ、だめっ」
捕らえた腕を振り払われて表情を険しくするオンフェルシュロッケンの姿に、周辺にいた兵士達が慌てて腰を上げ、食堂がにわかに騒がしくなる。
「お前は」
「ご、ごめんなさいっ」
何もない中空に現れた黒布が魔術兵の姿を覆い隠す寸前、魔術兵の平凡な茶色い瞳が七色に光るのが見えた。
そのまま地面に溶け込むように魔術兵は姿を消し、黒布だけが残された。
「逃げられた!」
アクデムが苛立たしそうに声を上げるのを聞きながら、オンフェルシュロッケンは足元の布を拾い上げて長い鼻先に寄せて、くん、と鼻を鳴らす。
なにも、嗅ぎとれなかった。
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