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04 夜警と不眠
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しおりを挟む事故の後。
師匠と師匠の伴侶、兄弟弟子に囲まれ、守られながらスレクツは育った。
初めての千里眼もどきの影響で、師匠が心配性になってしまったことは、スレクツに後悔を与えていた。
記憶は抜かれていても、話として聞いていた。
スレクツの才能は本物だった。
天に与えられしものと呼ばれる域に達している適性を、周囲の人々の思惑以上に高めていった。
五歳で本物の〝千里眼〟を扱えるようになり。
それを〝万里眼〟と呼べるところまで昇華していくと同時に〝並列思考〟を使用した千里眼の多重発動が日常になり。
見てしまった記憶は取り戻さないまま。
制御魔術を刻んだ義眼で、見たくないものを拾わないように制御しながら魔術の徒として成長して、十二歳の成人の前年に、師匠から記憶を封じた魔石を受け取った。
使えば、恐ろしい記憶を取り戻せる。
一年を将来を考えることに費やし、成人の日を迎えた。
師匠である団長を支えて、今後を魔術兵士として生きていくことを決意し、人の生死と向き合った。
死と欲望の二つに分けられた記憶のうち〝死〟と向き合うことにした。
魔石の封印を解除して、幼い頃に見た死の記憶を取り戻し、心を折られ、えぐられ、削られた。
人の醜さを呪い、恨み、悲しみ。
最後には人の弱さを許し、記憶と折り合いをつけた。
死は誰にでも訪れるけれど、その最後を全力で遠ざけよう。
苦痛を取り除く手伝いをしよう。
スレクツは決意した。
兵士として戦場を知っていく内に、死の記憶を死に物狂いで受け入れた経験は無駄でなかったと、少しだけ安堵した。
今年スレクツは十八歳になった。
成人から六年経っても、取り戻す勇気が出ないのが、もう一つの記憶。
人の欲望の記憶だ。
師匠の言葉をそのまま信じるのなら、人同士が絡み合う記憶。
下世話に言えば性交の記憶だった。
カチン、と記憶を封じている特級品の魔石を爪で弾いて鳴らして、いつになったら自分には決断ができるのだろう、とスレクツは情けなくなる。
今なら分かる。
この魔石の価値が。
師匠が規格外の弟子の育成にどれだけ心を砕いてくれていたのか。
スレクツは自分が嫌いだった。
魔術師としてなら誇りがある。
けれど、一人の人としては、なにもできない。
なにもない。
スレクツは恋をしている。
あの日から、ずっと。
初陣のあの時に、恋に落ちた。
雄偉なるオンフェルシュロッケン団長。
分厚い兵服の上からでもわかる、しっかりとした骨格と筋肉に支えられた体躯。
背が高いだけでなく横幅も厚みもあり、一般兵士より一回り以上大きな体は、スレクツの周囲にいる魔術兵とは大違いだ。
低くて優しい声と話し方は、六年前から変わらない。
でも、スレクツはそれだけしか知らなかった。
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