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05 悪夢
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しおりを挟む魔術兵は、退役しても市井では暮らせない。
兵士になる前にそれをしっかりと説明されることが、魔術兵が増えない一因だ。
魔物殲滅を想定して構築された、広範囲大規模攻撃魔術を知るものを、人の多く住む街に野放しにはできない。
本人、家族が望めば、管理、隔離された地での生活を送ることができる。
スレクツが兵士を職に選んだのは、魔術の他には何もできることがない、と自覚しているからでもある。
魔術を使わなければ、盲目の平民女性でしかないスレクツは、一般人として暮らせない。
師匠宅には使用人がいたので、家事はできない。
肉体を使った戦闘はできない。
事務能力や算術能力に長けている訳でもない。
そもそも文字を知らない。
初対面の人と話すのは苦手で、不特定多数の人がいる場所は落ち着かない。
孤児のスレクツには、同居して助けてくれる家族はいない。
師匠は育て親ではあっても、法的には成人までの後見人でしかない。
成人後まで、居候させてもらうわけにはいかない。
兵士として寮で暮らしていれば、家事はしなくて良い。
自室の中なら魔術使用の許可が降りている。
魔術兵をやめるわけにはいかない。
最前線に立つオンフェルシュロッケン団長を、守らなくてはいけない。
彼の方をお守りしたい。
それがスレクツ・イインにとって、魔術兵としてしてきたことの全てだった。
兵士になってから、唯一、ひたすらに続けてきたことだった。
つまり、兵士としての矜持は育っていない。
国への忠誠心もない。
スレクツ・イインという名前と、十八歳という実年齢だけは公開されている。
どうか、団長をこのまま守らせてください。
その願いが、今のスレクツを支えていた。
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スレクツは常に、知りうる限りのありとあらゆる隠蔽系魔術を刻みこんだ防水布で、全身をおおっている。
性別どころか生死すら外から判別できない姿で、魔術による視点を戦場中に飛ばす。
長く続く寝不足のせいで、フワフワとおぼつかない。
夢を見ているような感覚で遠くの最前線を望むと、脳裏に百以上の光景が映し出されるのはいつものことだ。
並列していくつもの援護系魔術を遠隔発動しながら、窮地にある兵士を優先して支援していく。
魔術を感知できない獣人兵士達は、突然硬直する魔物や、魔物からの攻撃が当たらなかったことに違和感は覚えても、援護だとは気がつかない。
戦闘の邪魔になるので、緊急事態を除き、本人の許可なく遠隔から治療をしてはいけない、と団長に言われている。
だからこそ、見つからないように支援をしてきた。
それなのに、どうしてあの人は気がつくのだろう。
気がついてくれるのだろう。
最前線に立つ雄々しい姿に、胸が音を高くした。
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