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05 悪夢
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しおりを挟む不眠症になる前、眠れていた頃であっても、スレクツの夢見は悪かった。
いつも、いつでもうなされて目が覚める。
死の記憶を取り戻して、人が死ぬ夢で飛び起きていた頃が最悪だと思っていたのに、もっと上があると知ったのは、兵士になってからだ。
戦場を知って、自分が殺される夢を見て飛び起きる日々。
寝起きに泣いていない日の方が少ない。
慣れているつもりだったけれど、眠れなくなったことに安堵した。
夢を見ないですむと。
眠らなければ、夢を見なければ、悪夢で起きることもない。
今までは眠りたくなくても、疲労に負けて眠ってしまい、泣きながら飛び起きていた。
夢を見ないように魔術や薬に頼ってみたけれど、副作用で魔術の構築速度が遅くなると判明してやめた。
今のスレクツは眠くても眠れない。
寝不足がずっと続いて、頭の奥が膨らんだようで、いつも熱がこもっている。
頭の芯が痺れたように痛くて重たくて、考えがまとまらない状態だ。
疲れきって意識を失うように眠り、眠った気がしないのに目がさめる。
寝起きから頭痛がして、体はいつもだるい。
満足に眠れないおかげで悪夢を覚えていないのが、救いのようにも思える。
悪夢を見ていないとは思わない。
覚えていないだけだ。
どちらが楽かと言われたら悩むけれど、少なくとも夢の中まで死と向き合わなくて良くなったことで、気持ちだけは楽になった。
スレクツの使っている魔術〝千里眼〟は、実際の目で見るように、遠くに視点を飛ばす魔術で、習得には適性が必要になる。
スレクツの千里眼は白黒で、物体は表面の凹凸がわかるだけ。
もっと言えば個人の顔の識別も危うい。
自分の目で世界を見たことがないので、どんな惨状もスレクツには白黒で凹凸の世界だった。
白黒の世界でも、死は恐ろしかった。
何度も繰り返される人の死の記憶。
静寂に満ちた白黒の世界。
悪夢はいつも、こねた粘土に穴を開けたような、人の死に顔で終わる。
そんな静かな悪夢は、戦場を知って変化した。
痛みに苦しむ叫びや呻き、友を失う嘆きを聞いた。
人の血、脳漿、臓腑、魔物の体液の匂いを嗅いだ。
引き裂かれた兵士の傷を癒し、肉体を治療したことで、スレクツの死生観はおかしくなってしまった。
戦場での経験が、悪夢に音と臭いと触感を与えてしまった。
音も臭いもなく、人が無言で苦しみ、声もなく叫び、音を立てずにのたうちまわるのが死の訪れだったのに、絶叫や苦鳴を聞いて、匂いを嗅いで、触れて知ってしまった。
人の死は、恐ろしいと。
兵士でいる限り、死を見続けなくてはいけない。
そして兵士をやめたら、スレクツにはなにも残らない。
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