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06 支援するは天才
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しおりを挟むスレクツは、オンフェルシュロッケン団長を取り囲もうとする魔物達の意識を逸らした。
大きな魔物には視覚、聴覚撹乱魔術を乱発し、放電で手足の痺れを起こさせて動きを鈍らせる。
小さな魔物には適当な幻覚を見せ、団長を囲めないように一瞬の油断を引き起こす。
邪魔にならない小さな術を送るだけで、苦境を乗り越えていく団長の姿は雄々しく。
なぜか、とても愛おしい。
手助けなんていらないのかもしれない。
でも、お力になりたい。
なんて素敵なんだろう。
スレクツは胸をときめかせ、核を砕かれて崩れていく魔物から視点をそらす。
人の死を見過ぎてしまったスレクツには、死ねば肉体の崩れる魔物の姿は作り物のようで、恐ろしいと思うものではない。
効果範囲の広い攻撃系魔術を発動すれば、前線を一掃できるかもしれないけれど、魔物だけでなくて兵士まで巻き込んでしまう。
なによりオンフェルシュロッケン団長の戦場を、荒らすわけにはいかない。
スレクツは夢見るような息をついて、団長の駆けていく先へと視点を飛ばした。
〝一人に頼れば前線は維持できない、崩れた前線は一掃しなくてはいけない〟
これは魔術兵の誓いだ。
北限の森からの魔物の襲来は、帝国の建国前からのもの。
人が魔物の生存圏を侵略しながら国土を増やした、というのが正しい。
魔物は、意思疎通のできない殺意と悪意の権化だ。
生き物なのかも分からないが、どれだけ倒しても、湧き上がるように森から出てくる。
魔物と戦う前線に必要なのは、短期決戦ではない。
国の休日、安息日に魔物があわせてくれることはない。
戦いは一年中、記録上では何百年も続いている。
魔物を通してしまえば、帝国の領土内で暴れて人々の生活を脅かすことになる。
ゆえに魔術兵は、いざという時のために大規模攻撃魔術を覚える。
有事に、自分や味方すら巻き込んで魔物を一掃するために。
常の戦場で魔術兵に求められるのは、援護だ。
首級をあげるのは、最前線をひた走る者でなくてはいけない。
後方で援護を担う魔術兵が功績を得ることはない。
得てはいけないのだ。
赤銅兵士団の兵士たちが、自分の実力を誤解するような過剰な援護はしない。
苦境で死なないように、少しの援護をする。
大怪我をしないように、少しだけ魔物の気をそらす。
隠蔽魔術で全身を覆ったスレクツが、なにをしているのか認知できる魔術師は少ない。
その少ない一人、同僚の副団長であり、兄弟子にあたるウォーリィ・クフォーンテは顔を引きつらせていた。
「休憩時間だぞ」と声をかけにきただけなのに。
妹弟子がとんでもないことは知っていたが、同時に多重展開される魔術で天幕内の景色が歪んでいた。
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