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07 後悔と現実
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しおりを挟む眠れなくなって三ヶ月がすぎ、十日ほど前。
スレクツはオンフェルシュロッケン団長に会いたい、という気持ちが抑えられなくなり、衝動的に行動してしまった。
普段は隠している素顔をさらす代わりに、顔に幻影魔術をかけて、目元を横断する傷痕が見えないように、義眼が普通の目に見えるようにして、兵服姿で突撃した。
手探りでは兵服の飾緒や徽章の付け外しは難しく、式典以外では付けていない。
千里眼は遠くを俯瞰で見るのには向いているけれど、手元の細かい作業をするのには向かない。
オンフェルシュロッケン団長に対する思いを、兄弟子に語りすぎて書いてもらった手紙。
それを手に、赤銅兵士団の寮へ飛び込み……間近で感じたオンフェルシュロッケン団長は、あまりにも素敵過ぎた。
今になって思えば、寝不足で頭が煮え立っておかしくなっていたと分かるけれど、あの時はそれが最善だと本気で思い込んでいた。
腹に響く低い声。
触れることはできなくても、すぐそばで熱を感じる。
衣擦れの音、喉を鳴らす音、カチカチと爪が床を蹴る音。
近くにいるだけで、天にも登りそうな幸せを感じてしまった。
幸せに溺れて現実を見なかったから、幻影を見破られて素顔を見られてしまった。
きっと嫌われた。
嫌われてなかったとしても、おかしいやつだと思われた。
〝スル〟は、育て親の師匠で団長がスレクツを呼ぶ愛称で、嘘ではない。
騙したつもりなどなかった。
顔を二つに引き裂くような傷痕と、ぐるぐると動いて見える魔術刻印が光る義眼を見られた。
落ち込んでいるのに、それでも団長に会いたい気持ちに蓋ができない。
二度と来るな、と拒絶されるかもしれないのに、あきらめられなかった。
翌朝は布を被って、赤銅兵士団の寮へ向かった。
何事もなかったかのように朝食に誘われ、幸せな時間が再開した。
なぜ優しくしてもらえるのか考えようとしなかったから、今になって困っている、と気がついた。
団長の優しさに甘えていたから、とスレクツには自分を責めることしかできない。
好きな食べ物談義なんてしてないで、自己紹介をしておくべきだった!!
一番にしなければならなかったことをしていなかったと気がついても、後の祭りだった。
スレクツが手足のように使っている、視覚を使わずに遠くを見る〝千里眼〟は、高位階魔術だ。
普通の人は自分の目で見ることができる。
だからこそ極端な俯瞰であったり、広範囲を広角視点で捉える魔術に適応できない者が多い。
物心つく前に視力を失ったスレクツだから、千里眼を扱うことができる。
膨大すぎる魔力量と幼い頃からの熟練で、百以上の視点を同時に見ることができる。
義眼なしでは見たくないものを見てしまう。
子供の頃ならばともかく、今のスレクツが夜中に泣きながら目を覚ましても、暖かいミルクを用意してくれる人はいない。
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