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08 恋に落ちて
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しおりを挟む顔が熱い。
スレクツは抱き上げられたまま、布の下で慌てふためいた。
指先が震えているのは恐怖なのか動揺なのか、スレクツ本人にも分からなかった。
「何があった?」
「 」
言い訳のしようもなく素直に答えながら、いくらスレクツが魔術師とはいえ、情けない姿を見られた事に身が細りそうな気持ちになる。
常に複数の視点を使って身の回りの安全を確認しているのに、考えに沈んで警戒を怠るなんて、兵士としては言い訳のしようもない失態だ。
「おい、お前は何をしていた」
「え、はいっ、巡回任務中に不審な人物を発見いたしましたので、拘束致しておりました」
「……そうか」
スレクツの上から吹っ飛ばされた兵士は、動揺はしていたけれど答えた。
不審者を取り押さえていたら団長に吹っ飛ばされたのだ、動揺しないわけがない。
オンフェルシュロッケン団長は、スレクツを取り押さえていた入団二年目の若い兵士の答えに、言い返せなかった。
なぜ魔術兵士団の副団長を拘束したのかと、叱責することもできない。
現状は若い兵士の言葉通りだ。
確かにその通りだ、と思ってしまったのだ。
暗闇の中に音もなく佇むスレクツは、どこからどう見ても不審者だ。
いや、朝でも昼でも不審者にしか見えない。
頭から黒い布をかぶり、軍靴の先しか見えない。
布の中からは、鼓動の音も呼吸の音も匂いすらも漏れてこない。
オンフェルシュロッケン以外に、魔術の隠蔽を見抜ける者はいなかった。
どこからどう見ても、怪しい。
オンフェルシュロッケンだって、理由があってスレクツがこの格好をしているのだろうと思っていなければ、不審者として捕縛を選んでいた、だろう。
「あー、この人は、怪しい者ではない、以上だ。 警らご苦労」
「はっ?、え、は、はいっ」
納得してません、という顔の兵士にこれ以上の説明を与えることもできず、団長は中身が成人女性にしては軽すぎる黒布を抱えたまま、自分の天幕へと戻った。
「それで何用か……スっ、スルっ?」
女性の扱いに慣れているわけではないが、敷布の上に転がすわけにもいかない。
簡易寝台の上に布の塊を乗せると、中身が入っているはずの布は、ぐんにゃりと寝台の上に崩れて潰れて、薄っぺらくなってしまった。
中身が入っているのは間違いないけれど、体格の良い獣人兵士では絶対に不可能な薄さに(なんごとかっ!?)と動揺して、思わずどもってしまった団長は、布が小刻みに震えているのを見て、ふと、昔のことを思い出した。
何年も前の、思い出とも言えない、夜のことを。
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