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09 出会いの夜
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しおりを挟む暗闇の中に沈む木の陰で、細く小さな人影が上半身を屈めていた。
しゃくりあげながら嘔吐を繰り返し、子供のようにすすり泣いているのが、ぼんやりと見えた。
あまりにも小さく見えたので(本当に子供が迷い込んだんか?)と思ったけれど、野営地に子供がいるはずがない。
「誰かいるのか、どうした、具合が悪いのか」
気遣って声をかけると、細い背中がびくりと震えた。
庇護欲を誘う幼い反応に、ほとんど無意識のまま、オンフェルシュロッケンは小さな背中に手を添えていた。
兵士になるまで、オンフェルシュロッケンは五人兄弟の長男として、年の離れた弟妹の面倒をみていた。
飢饉で食べるものがなくなり、空腹で起きだした夜中に「娘を売らんといかんな」と両親が話しているのを聞いて、家を出る決意をした。
きっと、自分が知らなかっただけで、両親はこれまでにも子供を売っている。
そう確信した。
オンフェルシュロッケンが残されているのは、弟妹の面倒を見させるためか。
労働力にするつもりなのか。
これまでは考えたこともなかった。
妹を売られたくない。
兵士になり、家に仕送りをして、弟妹を養う。
文字を読むことさえできない子供には、それしか思いつかなかった。
幸いなことに、オンフェルシュロッケンは新兵募集に紛れ込むことができ、自分が飢え死にしないために、家族を餓死させないために、必死で生き足掻いた。
家を飛び出してから、一度も家に帰る機会はなかった。
今では家族のことを思うことはあっても、それは遥か彼方の遠い夢のようで、字が読めない家族に連絡もできない身として思い出せるのは、幼い弟妹の姿だけだった。
「おにぃたん」と舌足らずな口調で甘えてきた妹たちも、もう四十歳過ぎのはずで、とうの昔に親になっているだろう。
(弟妹を慰めるようにすりゃええか)と思いながら声をかけ、細い骨の浮いている背をさすった。
「新兵か? 生き残っただけで上等だ、好きなだけ泣けば良い、全て吐けば楽になる」
(なんつー細っこい背中だ)と背を撫でる手の力を抜く。
服の下に被毛を感じないので凡人種なのは間違いなく、初めて触れた凡人種の子供は簡単に折れてしまいそうな体をしていた。
オンフェルシュロッケンは新兵の華奢さに驚き、目元が熱くなるのを感じた。
(きっとこの新兵も、食うに困って身売り同然に兵士になったに違いねえ)と思いながらも、何もしてやれない、何をしてやれば良いのかわからない。
せめても、と優しく背を撫でた。
(無事に前線から帰れるように足掻け、頑張れよ坊主)と願いながら。
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