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11 養い親と養い子
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しおりを挟む十四年前。
緊急連絡を受けたアレス団長は、四歳のスレクツが自室で倒れて痙攣している姿に、言葉を無くした。
職場の違う夫に時間の調整を協力してもらい、すでに魔術兵として働き出していた兄弟子も呼びつけた。
原因を特定する前に意識を落とすことも考えたが、スレクツが何らかの魔術を行使している気配から、術式の強制遮断で精神に傷が残る可能性を考えてやめた。
この時、眠らせるのをやめたことを、団長は未だに悔やんでいる。
四歳の子供の心に、治らない傷を残してしまった。
少しの知恵遅れや、精神発達に影響が出たとしても、あの時に眠らせておくべきだった、と今になっては思うのだ。
千里眼の魔術に近いなにかだと突き止め、解術して、ようやく眠らせた時には、日付が変わっていた。
分析を専門としている魔術師に協力を頼んで、何日もかけて見たものを調べた。
細かく精査して、眠らせたままのスレクツから記憶を抜いた。
なによりも困ったことは、魔術もどきの発動ではなかった。
魔術もどきが同時多重発動であり、さらに範囲が大陸中に広がっていたことだ。
驚愕して、これはまずい、と思ったのは双方だったのだろう。
口止めを匂わせたアレス団長に、魔術師は確約した。
金銭的な援助をする代わりに、スレクツのしでかしを誰にも言わない契約を結んだ。
この件で養い子が天才だということを知った。
アクセプティール・アレスは、生まれつきの官僚貴族だ。
魔術師として生きる道しかない以上、使い潰される未来を覚悟してきた。
けれど、スレクツは違う。
見つかれば、権力に絡め取られる。
他の魔術師の弟子にしてもらうか。
養子にしてしまった方が良いのか、悩んだ。
実験動物のように扱われるか、駒として使い潰される、の違いしかないとしても。
帝国にとって、魔物の森は目の上のたんこぶだ。
攻略する目処がつくなら、魔術師一人を使い潰すくらいは、喜んでやるだろう。
魔物の森への対処がうまくいけば、周辺諸国を崩そうと欲をかくことさえ、考えるまでもなく分かる。
結局、養い子が少しでも傷つかずに生きていけるようにと、秘匿する手回ししかできなかった。
根底に恐れがあり、長じて天才肌に磨きをかけたスレクツが、おかしな格好を始めても止められなかった。
学校に通うのに顔を布で隠す。
それが何を意味しているのか、女である団長には分かるので、制止をためらってしまったのだ。
顔に傷がある女、と他者から悪意を向けられたことは、考えるまでもない。
その後、スレクツのおかしな格好は、傷有りと馬鹿にされたことより、周囲に侮られたくない気持ちからと判明したけれど、やめる気はないらしい。
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