千里眼の魔術師は赤銅の色を知らない

くろいひつじ

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12 帝都にて

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 快適に過ごすことを優先した寮の私室内は、とても過ごしやすい。
 ほぼ暗闇同然なので、スレクツにとっては、という前置きは必要になるけれど。

 室内の空気がよどまぬように循環させて。
 締め切っていても匂いがこもらないように消臭。
 陽光を遮断して一定の室温を維持。
 それらが部屋中の魔術刻印によって常に行われている。

 真っ暗な部屋の中。
 板で塞いだ窓や壁に、七色に光る魔術刻印が蠢いている点を除けば、この部屋は誰にとっても過ごしやすいだろう。

 実際に、魔力流動で光る刻印が見えないようにできれば売れるのではないか、と発想を得た魔術具技師が実用化して、貴族の家で重宝されている。
 それらの利益の一部が流れてくるスレクツは、平民の兵士にしては収入が多い。

 とはいえ、スレクツは金遣いも荒い。
 目が見えないことで、健常者より魔術具や他者に頼らなくてはいけない事が多いからだ。


 目覚めてすぐでも、寝不足の頭が痛い。
 頭が目ざめるまでの手遊びに、体内魔力を義眼用の魔力充填槽に込めながら、鈍く痛むこめかみを指先で揉み込む。

 食事、行きたくないな。
 でも食べないと。
 ひとしきり葛藤してから、スレクツは朝食を食べるために、飾りのない兵服と黒い布を細い体に巻いた。

 食欲は無くても、食べずに倒れたらアレス団長に叱責される、心配されるから食べなくてはいけない。
 スレクツにとって、オンフェルシュロッケン団長がいない時の食事は、その程度のものだった。

 黒鉄クロガネ兵士寮の朝食は、赤銅アカガネ兵士寮のものとかなり違う。
 あちらは獣人種向けなので、朝から量が多い。
 食事内容も肉肉しい。

 それに比べるとささやかな朝食を、無理矢理口に詰め込んで食事は終わる。

 オンフェルシュロッケン団長と一緒なら、あんなに美味しいのに。
 温い水を飲み、紙や泥を食べているような虚しさしかなかった。

 朝食を食べた後も、頭を締め付けるような鈍い頭痛は治らなかった。
 普段よりもさらに集中力が落ちている、と感じるスレクツだったが、仕事の手を抜くわけにはいかない。


 呼び出しを受けていたアレス団長の執務室に入室すると、そこには見慣れない黄金色の軽量鎧を身につけた美丈夫が立っていた。

「初めまして、ガネ近衛兵士団、副団長のハルド・ウェルケンだ」

 近衛兵という肩書きに相応しい、立派な逆三角形体格の凡人種男性が、笑みらしきものを向けてくる。

 個人の美醜を見分けるのが苦手な上、全ての感情や反応を黒い布の奥に隠しているスレクツだが、この人はあまり好きになれそうにないと感じた。

 
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