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13 強制らしい仕事
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しおりを挟むスレクツは人の顔をほとんど見分けられない。
そこでじっくりと、視点で男性を全方向から観察した。
身にまとう雰囲気や動きを多角的に見て、目の前の人物は、自分自身に自信を持っている類の人物だと判断する。
それにしては、少し体の動きが大きすぎるような違和感も覚えつつ。
虚栄を張る自信家、というところか。
もしくは、外向けとして演じている人。
帝城内に詰める黄金近衛兵士団には、凡人種の貴族出身者しか入れない。
礼儀作法の遵守が必要になるからだ。
近衛兵になるような貴族が、気位の高い自信家でないわけがない、とスレクツは結論づけた。
育て親のアレス団長が、貴族関係で苦労している姿を見て育ったスレクツは、偏見に凝り固まっている。
一言で言うなら〝平民は貴族に近寄らない〟がしっかりと刻まれている。
「イイン副団長、名乗りを」
「黒鉄魔術兵士団、副団長のスレクツ・イインです」
スレクツは育て親の表情なら分かる。
見かねて口を挟んだアレス団長は苦い笑みを浮かべているけれど、布を巻いた姿のまま礼をした。
音声の隠蔽は解除して、代わりに変声の魔術をかけている。
今のスレクツが口を開くと、カエルが鳴くような奇妙な声が聞こえる。
近づいて来ないでほしいという精一杯の威嚇だが、これで無理なら、あばただらけの幻影を顔に乗せれば、嫌厭して寄り付かなくなるだろう。
多くの凡人種の貴族が、美しい容姿のものを好むのは常識だ。
自分には美しさの欠片もない、とスレクツ本人は信じているので、絡まれることはない、はずだ。
肉付きの悪い体。
肋骨の浮く胸。
骨張った体。
日に当たらない肌は病的に青白い。
悪夢と寝不足が繰り返されて、いつでも目の下には黒々とした隈がくっきりと浮かんでいる。
極め付けが顔の上半分を横断する、引き裂かれたような傷跡だ。
傷の中心部である目には、ぐるぐると常に色を変える魔術具の義眼が収まっているのだから、どこからどう見ても美しくはない、とスレクツは思っている。
「千里を見通すと名高き魔術師のスレクツ・イイン殿にお会いできて、光栄です」
「……」
相手が貴族なのは分かっても、見知らぬ他人であることに変わりはない。
普段の交友関係が極端に狭いため、どう返答すれば角を立てずに済むのか、とスレクツが悩んでいると、アレス団長が手のひらをあげた。
「ウェルケン副団長、イイン副団長は仕事の話以外は口にしないのだよ、申し訳ないね」
「……なるほど?」
え、そんな設定、いつできたんですか!? と思いながら、それこそ今ここで必要な設定です、とスレクツはゆっくり大きく頷いた。
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