千里眼の魔術師は赤銅の色を知らない

くろいひつじ

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20 母来たる

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 スレクツが静かに泣いていると、天幕に外からの足音が近づくのが聞こえた。

「朝早くに失礼いたします団長。 黒鉄魔術兵士団団長アクセプティール・アレス殿がお会いしたいと帝都からお見えです」

 天幕の外から聞こえた内容に、スレクツが体をびくりと震わせ、オンフェルシュロッケンは鼻先にしわを寄せた。
 外向きの話し方で唸るように口を開く。

「少しお待ち頂きたいとお伝えしろ」
「はい」

 天幕の外の声が遠ざかっていくと、スレクツは肌着の袖で顔を拭い、なんとか涙を止めることに成功した。
 ほほが冷えてひりひりする。

 泣いた跡が目立たなければ良いけれど、と不安を覚えながらスレクツは顔を上げた。

「……オンフェルシュロッケン団長閣下、助けて頂きましたこと、心より感謝いたします」
「んなこたぁどうでもええ、なんなにがあった?」
「……」

 言って良いのだろうか。
 その逡巡を見逃すオンフェルシュロッケンではない。

「スル、教えてくれ」

 ジッと見つめられているのを肌が感じる。
 乾いて硬い指先で優しく撫でられるほほに、再び熱が上ってくるのを感じた。

「……私は、他国の王族に売られたようなのです」

 囁くように口にした言葉は、尖った耳にしっかりと届いた。

あんだとなんだって?!」

 ぶわりと被毛が膨らんだオンフェルシュロッケンの姿を、スレクツはぬいぐるみのようだと感じた。

 不謹慎だけれど、胸の悲しみが少し軽くなった。
 もっと早く恋心を告げていたら、ふわふわと膨らんだ可愛い姿にも触れさせてもらえたのだろうか、とまた涙がにじむ。

「誰がんなそんなことを?」

 オンフェルシュロッケンは顔をしかめる。

 一兵士団の団長であっても学がなく、法律に明るくもないが、人身売買が禁止されている事は知っている。

 凡人種ではあり得ない鋭い牙が大きな口元から覗いても、スレクツは素敵だな、と思った。



「失礼するよオンフェルシュロッケン、うちの娘がそこにいるだろう!」

 突然、天幕の外から声がかけられ、制止する男性の声とかぶるように、天幕の入り口が大きく開かれた。

「アレス団長?」

 肉付きの薄いほほは、もこもこの胸元に押し付けられている。
 背中に回された太くて硬い腕。
 下半身も温かい被毛に埋もれている。

 スレクツは寝台に横になって抱きしめられているので、身動きが取れなかった。
 けれど、声をあげる余裕はある。
 千里眼で確保している視界も良好だ。

 足音荒く天幕に踏み込んだアレス団長は、視線だけで射殺せそうな目つきで▪︎▪︎のオンフェルシュロッケンを睨む。
 それからその腕の中にすっぽりと包まれて、▪︎▪︎▪︎▪︎を着ているスレクツを見た。

 
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