72 / 100
21 天幕の外で
070
しおりを挟むスレクツは魔術師の物語を思い返した。
自分とオンフェルシュロッケン団長の体をくっつけて一つにする?
頭が二つと腕と足が二組……。
大人と子供くらい身長差があるけれど、くっつけられるのか。
背中合わせでくっつけるのか、お腹どうしなのか。
お腹と背中をつなぎあわせるのか。
うまくつなげることができたと想定して、どうやって移動するのだろう。
生活はどうするのだろう。
そもそもなんのために?
体をつなぐというのは、どういうことだろう?
スレクツは悩んだ。
……そういえば手と手をとりあうことを、手をつなぐという。
抱きしめられて触れあったことや、体をあちこち舐められたことが、体をつなぐということ?
スレクツが考えている間に、アレス団長が薄い微笑みをやめて、諦めたようなため息をついた。
「オンフェルシュロッケン団長、二人きりでお話がしたいのですけど」
「……わがった」
穏やかな会話なのに、目の前で獰猛な獣同士が睨みあっているようで、不安に駆られた。
アレス団長の外套を押し付けられたスレクツは、天幕の外へ追い出された。
「中を覗いてはいけないよ」と微笑まれながら言われて、気がついたら天幕の外にいて膝が笑っていた、という方が正しいかもしれない。
凡人種女性の平均身長程度のスレクツよりも、頭半分ほど背の低いアレス団長の黒外套は、丈が足りない。
外套の下には、オンフェルシュロッケン団長の大きすぎる肌着一枚しか着ていない。
裸足のスレクツの膝から下は露出している。
本人は気がついていないが、青白く細い脚が覗いている姿はひどく幼く見えた。
心許ない様子で、天幕の外に立ち尽くしている姿が目立っていた。
街角で春を売る女性が同じ格好をしても、ここまで人目をひくことはないだろう。
スレクツは今の格好が恥ずかしくて、顔を見られるのではないかと不安でいた。
幼く禁欲的に見えるのに、女性の柔らかさを持つ細い脚は扇情的だった。
「……ごくり」
何人もが同時にのどを鳴らす音が、やけに大きく響いた。
通りがかりの獣人種の兵士(独身、既婚問わず)が複数名、目をギラつかせながら誘引されかける姿を見たアクデムは、思わず顔を引きつらせた。
事情を知らない兵士たちの危険性を考えたアクデムは、大急ぎで周辺を警らしていた兵士に「誰も近づかせるな!」と団長権限を勝手に使って命令を出した。
実質事務員のアクデムは、前線で戦う兵士より弱いのだ。
副団長に警らを要請している間にスレクツが襲われる!
早く話し合いを終わらせて下さい。
泣きそうになりながら、天に祈った。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
16
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる