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20 母来たる
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しおりを挟むオンフェルシュロッケンは獣人種だ。
十歳の時に帝都に来るまで、周辺に獣人種しかいなかったため、考え方も行動も獣人種だ。
相手と自分の力関係は、匂いを嗅げばわかる。
仲良くしたければ、歩み寄り触れあえばいい。
時には会話だけでなく拳の応酬もするし、酒を飲めば大抵は仲良くなれる。
嫁を望むなら、嫁っこにしたい相手の発情を待って、伴侶になってけれと口説けば良いのだ。
叙勲式や壮行会、拝命式典などで皇帝陛下の顔を見る機会はあっても、最前線まっしぐらの獣人種が凡人種の貴族と関わる必要はなかった。
大体のところ、凡人種が考え出した礼儀作法、格式、上下関係だのという堅苦しいものが、ほぼ全ての獣人種にとって受け入れがたいもので、簡単に言ってしまえば苦手としていた。
難しく考えずに生きることこそが、本能に従う獣人種の在り方で、凡人種の作り出した堅苦しい作法やしきたりとの相性は、最悪だった。
「赤銅兵士団の、オンフェルシュロッケン団長として、黒鉄魔術兵士団の、スレクツ・イイン副団長をどうする?」
「どうもしねえ、スルはおらの嫁っこだ、手ェ出すやつぁぶっ飛ばす」
「……」
確か「嫁っこのおっかぁには嘘つくな、まるっと全部見せとかんと後でこええぞ」と父が言っていた。
かろうじてそれを思い出せたオンフェルシュロッケンは、田舎者が丸出しの口調を改めなかった。
気のせいではなく、アレス団長の顔がうっすらと微笑んでいる。
それが貴族とやりあっている時の表情にそっくりで、スレクツは不安になってしまう。
オンフェルシュロッケンの手はスレクツを離してくれない。
嫁になることを了承してないのに、いつのまにか嫁扱いされている。
アレス団長の言葉が本当なら、あの顔の長い王子の所有物にならなくて良いのだろう。
魔力制御を放り出した記憶がある。
周囲にいた人々は、生きているだろうか。
スレクツ個人の責任問題で済まずに、アレス団長やオンフェルシュロッケン団長を巻き込んだらどうしよう。
このまま帝都に戻って、知りません、覚えていませんで済むのだろうか。
スレクツは不安で胸をざわつかせる。
そんなスレクツに、アレス団長が爆弾を落とす。
「スル、お前はオンフェルシュロッケン団長と体を繋いだのかい?」
「……? 体をつなぐとは、どういう意味ですか?」
唐突なアレス団長の問いに、スレクツは物語の狂った魔術師の話を思いだす。
動物同士をくっつけて、多頭多肢の奇怪な姿の化け物を作りあげる話だ。
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