千里眼の魔術師は赤銅の色を知らない

くろいひつじ

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21 天幕の外で

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 オンフェルシュロッケンの気配に包まれて。
 そわそわが止まらない。

 やっぱり毛布の方が良かったんじゃないだろうか、忘れずに返却すれば問題ないのでは、と悩み出したスレクツに声がかけられた。

「失礼いたします」

 声をかけられた方向を視点で確認すると、そこには赤銅アカガネ兵士団の兵服を着た獣人種の男性が立っていた。

 凡人種のスレクツにも笑顔だとわかるように、にっこり、と鋭い牙を見せずに口の両端を持ち上げた男性は、両手に一つずつ持っていた器の片方を差し出しながら、穏やかに話しかけてきた。

「オンフェルシュロッケン団長閣下の補佐官の、アクデムと申します。
 お口に合うか分かりませんが、よろしければどうぞ」

 そういえば、さっきアレス団長が突貫してきた時に、止めていた人がいたな、と今更のように思い出したスレクツは、アクデムから湯気の立つ器を受け取った。

「お気遣い頂きましてありがとうございます。
 黒鉄クロガネ魔術兵士団で副団長をしております、スレクツ・イインと申します」

 スレクツが顔を見られないように俯きつつ礼を述べると、アクデムは驚いたように口を開けた。

「……なんだか不思議な感じが致します。
 これまでは食堂でご一緒させて頂いても、イイン副団長殿の声が聞こえませんでしたので」

 スレクツは一瞬、言葉を失った。

「あ……やはり、聞こえていなかったのですね。 ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。
 どうしてオンフェルシュロッケン団長閣下とは、会話ができていたのでしょう?」

 赤銅色の兵服がこてんと動いたので、スレクツが首を傾げたらしいと思いながら、アクデムはこっちこそ聞きたいですよ、と心の中でぼやいた。
 どうしてスレクツの声が聞こえていなかったのかも分からないのに、なぜ会話ができたのかなんて知りませんよと。

 それと同時に、あれが団長閣下の独り言ではなかったと知れて、ほんっとうに良かった! と本心から思った。

 これまでの評価をひっくり返す勢いで、黒い布の塊に延々と独り言を話しかけるオンフェルシュロッケンの姿は、少々どころでなくおかしかったからだ。
 正気を疑ってしまう方向で。

「団長閣下は獣人種の中でも、とりわけ身体能力が高い方ですので、他の者より耳が良いのかもしれません」

 なんか、前にそんなこと言ってたな、とアクデムは確証もないのに言ってみる。

 スレクツは納得したように頷いたようだ。
 すっぽりとかぶっている兵服が、ゆらゆらと揺れた。

 
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