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22 惜別
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しおりを挟むオンフェルシュロッケン団長に会えない、と嘆くスレクツの思考を遮るように、外から扉を叩く音が室内に響いた。
「スル、戻っているのかい、スル?」
頭がどくどくと痛んで頬が冷たい。
鼻も詰まって息が苦しい。
はぁはぁと口で息を繋ぎながら、返事をしなくては、でも……と悩む。
頭の中を整理する時間が欲しい。
でもここでスレクツが扉を開けないと、扉ごと吹っ飛ばして入ってくる、のがアレス団長だ。
涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃでも、視点は滲んだりしないので、部屋の外にいるのが本当にアレス団長かを確認してから、悩んだ末に扉を開ける。
「……」
今、布の下に隠している顔を見られたら、口を開いたら、何を言われるか分からない。
叱責されるのか、呆れられるのか、それとも見捨てられてしまうのか。
いいや、見捨てられるならもっと前にそうなっている、とスレクツは優しいアレス団長を前に立ち尽くすことしかできない。
自分がついに壊れてしまったことを、もう兵士として役に立たないかもしれないことを伝えることが怖かった。
「スル、どうした? ……泣いているのかい?」
気の弱いスレクツが、かなり涙もろいことをアレス団長は知っている。
黄金近衛兵士団のウェルケン副団長を締め上げて聞き出した話を思いだしてしまい、胸糞悪い、と顔をしかめた。
うちの子を泣かせるなんて許せん!
また後で、聴取という名目でこってりと絞ってやろう、と予定を決める。
「大丈夫だよスル、お前は何も悪いことなんてしていない、そうだろう?」
スレクツが城内で魔力暴走を起こした件で傷ついているのだろうと考え、アレス団長は暗い中で立ち尽くしている黒い布の塊にゆっくりと歩み寄る。
来賓としての肩書を持って訪れた王子が、国に仕える魔術兵を誘拐同然に連れだそうと画策していることを、想定しているわけがない。
犯人だと疑われる行動をとるわけがない。
仮にも王族なのだから、そんな愚かで考えの足りない行動はしないだろうと。
アレス団長は考えていたのに。
まさかまさかの、そのまさかだった。
パード・ゲヅィッツ王子は、際限なく甘やかされた結果の、愚かで考えの足りない全能感を持った大人子供だった。
スレクツ・イインの誘拐に手を貸した近衛たちを、アレス団長が締め上げて絞り出した情報は、そうとしか考えられなかった。
こんな悪童を自国から出すな、とアレス団長が思ってしまうほど。
下手すれば国同士の問題になると言うのに、あの王子はそれを考えているように見えなかった。
平民だから誤魔化せると思っているのか。
ただただ、あの魔術師を連れてこい、と客室でわめいている。
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