79 / 104
22 惜別
077
しおりを挟むオンフェルシュロッケン団長に会えない、と嘆くスレクツの思考を遮るように、外から扉を叩く音が室内に響いた。
「スル、戻っているのかい、スル?」
頭がどくどくと痛んで頬が冷たい。
鼻も詰まって息が苦しい。
はぁはぁと口で息を繋ぎながら、返事をしなくては、でも……と悩む。
頭の中を整理する時間が欲しい。
でもここでスレクツが扉を開けないと、扉ごと吹っ飛ばして入ってくる、のがアレス団長だ。
涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃでも、視点は滲んだりしないので、部屋の外にいるのが本当にアレス団長かを確認してから、悩んだ末に扉を開ける。
「……」
今、布の下に隠している顔を見られたら、口を開いたら、何を言われるか分からない。
叱責されるのか、呆れられるのか、それとも見捨てられてしまうのか。
いいや、見捨てられるならもっと前にそうなっている、とスレクツは優しいアレス団長を前に立ち尽くすことしかできない。
自分がついに壊れてしまったことを、もう兵士として役に立たないかもしれないことを伝えることが怖かった。
「スル、どうした? ……泣いているのかい?」
気の弱いスレクツが、かなり涙もろいことをアレス団長は知っている。
黄金近衛兵士団のウェルケン副団長を締め上げて聞き出した話を思いだしてしまい、胸糞悪い、と顔をしかめた。
うちの子を泣かせるなんて許せん!
また後で、聴取という名目でこってりと絞ってやろう、と予定を決める。
「大丈夫だよスル、お前は何も悪いことなんてしていない、そうだろう?」
スレクツが城内で魔力暴走を起こした件で傷ついているのだろうと考え、アレス団長は暗い中で立ち尽くしている黒い布の塊にゆっくりと歩み寄る。
来賓としての肩書を持って訪れた王子が、国に仕える魔術兵を誘拐同然に連れだそうと画策していることを、想定しているわけがない。
犯人だと疑われる行動をとるわけがない。
仮にも王族なのだから、そんな愚かで考えの足りない行動はしないだろうと。
アレス団長は考えていたのに。
まさかまさかの、そのまさかだった。
パード・ゲヅィッツ王子は、際限なく甘やかされた結果の、愚かで考えの足りない全能感を持った大人子供だった。
スレクツ・イインの誘拐に手を貸した近衛たちを、アレス団長が締め上げて絞り出した情報は、そうとしか考えられなかった。
こんな悪童を自国から出すな、とアレス団長が思ってしまうほど。
下手すれば国同士の問題になると言うのに、あの王子はそれを考えているように見えなかった。
平民だから誤魔化せると思っているのか。
ただただ、あの魔術師を連れてこい、と客室でわめいている。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【完結】番としか子供が産まれない世界で
さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。
何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。
そんなニーナが番に出会うまで
4話完結
出会えたところで話は終わってます。
セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
ため息ひとつ――王宮に散る花びらのように
柴田はつみ
恋愛
「離縁を、お願いしたいのです」
笑顔で、震えずに、エレナはそう言った。
夫は言葉を失った。泣いてくれれば、怒ってくれれば、まだ受け止め方があった。しかしあの静けさは、エレナがもう十分に泣き終わった後の顔だと、ヴィクトルにはわかった。
幼なじみと結ばれた三年間。すれ違いは静かに始まり、深紅のドレスの令嬢によって加速した。ため息を飲み込み、完璧な微笑みを保ち続けた公爵夫人が、最後に選んだのは――。
王宮に散る花びらのような、夫婦の崩壊と再生の物語。
最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました
斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。
白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。
その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。
それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。
やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり――
白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。
身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる