千里眼の魔術師は赤銅の色を知らない

くろいひつじ

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 にこにこと穏やかな微笑みを浮かべたまま、ボレイゲはくるりと体を返す。
 アレス団長の顔が、絶望に染まった。

 軽々と横抱きにされたアレス団長の「い~や~~っ」と悲痛に叫ぶ声が、廊下に響きながら遠ざかっていくのを聞きながら、取り残されたウェルケンとグルックは立ち尽くしていた。
 何が起きた? というのが正直な感想だった。

「ハルド・ウェルケン、リッヒ・グルック」
「はいっ」
「はいっ」

 二人は反射的に返事をした。
 その先には、珍しいほど淡い灰色の瞳を凶悪に光らせる、凡人種最強格の近衛兵士団団長の姿があった。

 凡人種の貴族出身者しかなれない近衛兵に、必要以上の強さは求められていないが、団長は体を動かすことが好きなので、鍛錬を欠かしたことはない。

「あー、ボレイゲから聞いたか? 困った時は言えよ。
 ああ、クッソ可愛いなぁ、あいつさえいなけりゃブチ犯しちまうのに」

 貴族出身という話が嘘のような口調でつぶやき、気のせいでなく舌なめずりでもしそうな下品な表情を浮かべるケニス団長の姿に、ウェルケンとグルックは二人して泣きたくなった。


 〝体を動かすのが大好き〟なケニス団長は色狂いでもあり、領地の本妻の他に、男女問わずの愛人が複数いる、なんて噂を聞いたことがあった。

 壮年の男盛り。
 黄金色の軽量鎧と、白金色の兵服がこれ以上似合う男はいない、見事な逆三角形の肉体。
 兵服や軽量鎧と揃えたような黄金色の髪は、耳にかかるほどの長さで豊かにうねり、男らしいがっしりとした顎とたくましい太い首、真っ白な歯が多くの女性、男性を虜にしている。

 それを誰よりも理解して、利用しているのは、本人だ。


 規範として、お堅いはずのガネ近衛兵士団が、実はゆるゆるなんじゃないか?

 一度疑問を持つと、なにもかもが疑わしく見えてくる。
 それと同時に、自分たちが思っていたほど、世界は深刻で不幸ばかりではないのかもしれない、と。

 ほんの少しだけ、救われた気がする二人だった。



   ▼



   ▼



 スレクツは、五日間の休暇を取るようにアレス団長に言われ、自室に引きこもり続けていた。

 普段の生活で、スレクツは隠蔽魔術を使っている。
 日常生活で他人と話す必要性を感じていない上に、寮の外に出る用事も保存食を買うくらい。
 結果として引きこもりになっていた。

 元々、性別年齢関係なく他人と接することが苦手で、新たに男性恐怖症を発症した、なんてこともなく。
 第四王子に襲われた結果、人嫌いがさらに強化されただけだった。

 缶詰を魔術で温めれば、食堂に行かなくても十分。
 前線への派遣期間中に呼び戻されたことで、食べなかった燻製肉や缶詰のスープ各種、乾パンを食べていた。

 
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