千里眼の魔術師は赤銅の色を知らない

くろいひつじ

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 自分で保存食を用意しているのは、スレクツの実益を兼ねた趣味だ。
 引きこもるため、ではない。

 糧食管理部門が用意してくれる長期保存可能糧食に、極端な外れが混ざることがある、のは有名だ。
 兵士としての在籍が長くなればなるほど、お気に入り保存食を個人で用意する兵士が増えていく。

 配給される糧食は安価なので、金銭的な理由を抱える者は使うし、知らない新兵もひっかかる。
 新兵が、毎年外れ入りの詰め合わせを引き当て「不味すぎて食いたくない、でも食わないと動けない」と追い詰められるまでがお約束だ。


 スレクツの魔術による視点では、何もかもが白黒だ。
 動くものは目につくけれど、動かないものは識別しにくい。
 柔らかいものに至っては、凹凸くらいしか見分けられない。

 つまり、視点で皿の上の料理を見ても、それが何か分からない。
 肉か野菜なのかすら分からないので、視覚で食事を楽しむことはできない。

 栄養があって味さえ良ければ、何を食べても一緒だとスレクツは思っている。

 アレス団長は、見栄え良く盛られた出来立ての料理は、良い香りがして味も際立つ上に、舌触り、歯ごたえが違う、と貴族らしい食生活をスレクツにさせた。

 貴族の前でも見劣りしない振る舞いを教えてくれた。
 養い子として、十分すぎる環境を与えてくれた。

 けれど、缶詰だって温めれば良い匂いで、具材に味が染み込んでいて美味しい。
 燻製肉の歯が折れそうな硬さや香辛料の香りは、必死で噛む間、落ち込む気分を紛らわせてくれる。
 乾パンのザクザクの歯ごたえや、パサついた舌触りは、とても刺激的だ。

 言い訳だけれど、スレクツは貴族らしい食事が苦手だ。
 マナー云々ではなく、視点では食べられないものを見分けられないから。

 大きなお皿の中央に小さく綺麗に盛り付けられている料理の、どこまでが可食部で、どれが飾りの葉っぱや花びら、アクセントのソースなのか、口に入れるまで分からない。

 食べられない花をナイフで切ろうとする姿を、困ったように見られるのは恥ずかしい。
 香り付の苦い葉っぱを口に入れてしまった時なんて、吐き出して良いか分からなくて、本当に困る。

 アレス団長とその伴侶は、二人とも出自が貴族なので、マナーや食べ物に関してこだわりを持っている。
 視点越しでも所作が美しい。

 スレクツもその恩恵で、平民が食べるものよりも豪勢な美味しい食事を、綺麗に食べる所作を身につけた。
 けれど、自分で食事内容が選べるようになってみれば、寮の食堂で出てくる、一皿に色々乗ったおすすめが一番だと思うのだ。

 
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