消えた探偵と呪われた村

ユキワラシ

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第一章 封じられた村

第1話 消えた探偵

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「見つけてしまった。」

 それが、探偵・神楽坂蓮から届いた最後のメッセージだった。言葉は短く、意味深に響いた。その一行のメッセージからは、何か重大な発見があったことは明らかだったが、その後、蓮と連絡が途絶えた。電話をかけても、メールを送っても、反応はなかった。蓮が向かった先は、山奥にひっそりと存在する「烏ノ杜村」だった。

 桐生響は蓮の助手として、長年共に事件を解決してきた。彼にとって蓮はただの上司ではなく、信頼する相手であり、友人でもあった。しかし、この「烏ノ杜村」という名前を聞いた時、何かが胸にひっかかるような気がしてならなかった。これまでも奇妙な事件に数多く対処してきた桐生だったが、この村に関する情報は、どれも不気味で、曖昧なものでしかなかった。

 村に関する資料を集めるうちに、桐生の中で疑念が次第に膨らんでいった。烏ノ杜村は、五十年前に突如として住民が消えたという不思議な事件の舞台となった場所だった。そして、その事件の真相を探る者は、口を揃えてこう言っていた。

 「生きて帰るな。」

 誰もが口にしなかったその言葉が、桐生の脳裏に焼き付いて離れなかった。村で何が起きたのか、そして、蓮は何を発見してしまったのか。桐生は無力感を感じながらも、彼を救うために、真相を解き明かす決意を固めた。自分が行かねば、蓮が戻ってこないことは分かっていた。

 桐生は準備を整え、翌日の朝早くに、車で山道を進んだ。長い時間をかけて山道を走り抜け、次第に視界が悪くなり、霧が立ち込めてきた。普段なら、霧の中を走るのはどこか幻想的で美しいと感じることもあったが、ここでは違った。霧は何か不穏なものを包み込んでいるようで、桐生の心はどんどん重くなっていった。

 ラジオの音がノイズに変わり、次第に消えた。携帯の電波も圏外になり、桐生は一人、未知の場所へと進んでいく不安を感じた。周囲にはただひたすらに木々が並び、道を覆う霧が深くなるばかりだった。途中で、桐生の足は何度か躓き、冷たい汗が背中を伝う感覚があった。だが、それでも車を進めなければならなかった。

 やがて、視界にぼんやりと何かが浮かび上がってきた。車のヘッドライトが照らし出したその先には、木製の看板があった。「烏ノ杜村」と書かれているが、文字はほとんど消えかけていた。まるで長年の風雨にさらされ、村の存在が少しずつこの世から消えていこうとしているかのように見えた。

 桐生は車を降り、重い足取りでその先へと進んだ。霧の中に足を踏み入れると、まるで時間が止まったような静寂に包まれた。風の音さえもなく、ただ自分の呼吸音と足音だけが響く。だが、その静けさが逆に不気味に感じられた。桐生はふと振り返り、背後を確認したが、何もない。ただ、霧が漂っているだけだった。

 「……誰かいるのか?」

 桐生は声を出してみたが、反応はなかった。息を呑んで前を見ると、村の入口に続く道が霧に包まれて消えていた。村の道はどこか朽ちかけており、石畳の隙間からは苔が生えている。まるで、ここが長い間、誰も踏み入れなかった場所のように感じられた。桐生は思わず自分の足を止めたが、意を決してさらに進むことにした。

 村の中心に向かう途中、いくつかの家屋が目に入った。窓が割れ、扉は歪み、建物全体が腐食している。人々の生活がそこにあったことが信じられないほど、全てが荒れ果てていた。しかし、その中に微かな生命の気配を感じ取った桐生は、一瞬、胸騒ぎを覚える。

 村の中央に差し掛かると、古びた神社が姿を現した。鳥居には、何かが手で押し付けられたような形跡があり、無数の手形が残されていた。桐生はそれらを見て、ぞっとした。これが普通の手形でないことはすぐに分かった。まるで、何者かが必死でこの神社にしがみつこうとした痕跡のようだった。

 足音を立てずに神社へと歩み寄る桐生。だが、その瞬間、何かが目の前に落ちてきた。それは、薄汚れたノートのようだった。桐生はノートを拾い上げ、震える手で表紙を開いた。中には、神楽坂蓮が書き残した手記が綴られていた。最初のページには、こう書かれていた。
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