2 / 32
第一章 封じられた村
第2話 山道の霧
しおりを挟む
桐生響は山道を車で進む中、次第に不安が胸を占めるのを感じていた。普段なら、霧に包まれた道を走るのはどこか幻想的で美しいと感じることもあった。しかし、ここではその霧がどこか不気味で、桐生の心をさらに重くさせていた。周囲は一面の白濁した霧で覆われ、視界はほとんどゼロになった。車のヘッドライトが霧を切り裂くように進んでいるが、その先に何が待ち受けているのか、桐生にはわからなかった。
ラジオの音が次第に雑音に変わり、やがて完全に静寂が広がった。携帯の電波も圏外になり、外界とのつながりが完全に断たれたことを感じ取った桐生は、心の中で小さく呟いた。「何もかもがおかしい…」と。長い時間が経ち、車のタイヤが苔むした石畳の道を踏む音が静かな村の中に響いていた。遠くの木々がまるで眠っているかのように、何の動きもなく立ち尽くしていた。
「桐生、君が来るのは予想していたが…」
思わず後ろを振り返り、心臓が跳ね上がる。後ろには何も見えなかった。すぐに気を取り直し、また前を見た。しかし、なぜか背中に冷たい汗が流れる感覚が拭いきれなかった。桐生は、車を止めることなく村に向かって進み続けた。周囲の景色はほとんど見えず、ただ霧の中に迷い込んだような感覚だけが強まった。
「きっと、蓮もこんな気分だったんだろうか…」
桐生はその思いを胸の中で噛みしめる。探偵・神楽坂蓮はどんな気持ちでこの道を歩いたのか。それを知るためには、まずは村に足を踏み入れるしかない。そして、あの最後のメッセージが示唆していた通り、何かが起こっているのは間違いなかった。蓮がこの村で発見してしまったもの、それが桐生の心を深く引き寄せていた。
道を進むうちに、桐生の視界の端に木製の看板が現れた。「烏ノ杜村」という文字が不明瞭に浮かび上がる。そこにはかつての輝きが失われ、風化した文字がただ残っているだけだった。桐生は車を停め、ヘッドライトを消して外に出た。
足元の苔が、湿った音を立てて靴に絡む。霧はますます濃くなり、周囲の景色はほとんど溶けて見えなかった。桐生は深呼吸をしてから、手探りで看板を確認した。その瞬間、何かが目の前を横切る気配がした。桐生は驚いて振り返ったが、霧の中には何も見えない。ひときわ静かな村の夜の空気がさらに不安をかき立てる。
「誰かいるのか?」
桐生は呟くように声を出してみた。しかし、返事はなかった。静寂だけが重く、広がっている。その空気に、桐生は言いようのない不安を覚え、再び車に戻ることなく村の奥へと足を踏み出した。
道を進むにつれて、周囲の景色はますます奇妙になっていった。家々は廃墟のように荒れ果て、どこか懐かしさと不気味さが入り混じった雰囲気を醸し出していた。窓ガラスは割れ、扉は開きっぱなしで風に揺れている。そのどれもが、まるで人々の生活がここから消え去ってしまったことを示しているようだった。桐生は少し足を速め、村の中心を目指して歩みを進めた。
途中で、ふと足を止めた。道の脇に、かつて村の人々が使っていたと思われる古びた道具や家具が放置されているのが見えた。それらはすべて埃をかぶり、朽ち果てていた。やはり、この村は何十年も誰も訪れていなかったのだろうか。
桐生が進んでいくと、村の中心に古びた神社が見えてきた。神社の鳥居には、異様な手形が無数に残されていた。手形は大きさも形もバラバラで、まるで何かがしがみつこうとしたように、鳥居の柱にべったりとこびりついていた。桐生はそれをじっと見つめると、不思議な寒気を感じ、思わずその場を離れたくなる気持ちを抑えた。
鳥居の前に立ち、そこに描かれた手形に手を伸ばしそうになった桐生は、ふと気づく。手形はただのものではない。乾いていないのだ。まるで、血のような色をした手形が濡れているように見え、桐生はその恐怖を感じ取った。何かが、この村で起こっていたのだ。
桐生はその場を離れ、神社の境内に足を踏み入れた。だが、彼が歩みを進めるたびに、背後から足音が聞こえた。振り向くが、誰もいない。すぐに再び足を進めたが、足音はそのままついてくる。彼はもう一度振り返り、静かにその足音が途切れたことを確認したが、胸の中で高鳴る恐怖を抑えることはできなかった。
神社の中に足を踏み入れると、無造作に置かれた古びたノートが目に入った。それは、神楽坂蓮のものだった。桐生はそれを拾い上げ、震える手でページをめくる。そこには、蓮が最後に記したメッセージがあった。
「私を見ている。……やつが来る……目を合わせるな……」
桐生は息を呑み、その言葉が何を意味するのかを考えたが、すぐに背後で異音がした。振り向くと、そこには何もない。ただ、ただ暗闇と霧が広がるばかりだった。だが、その静寂の中で、何かが確かに感じられた。人の気配ではない、もっと恐ろしいものが。
ラジオの音が次第に雑音に変わり、やがて完全に静寂が広がった。携帯の電波も圏外になり、外界とのつながりが完全に断たれたことを感じ取った桐生は、心の中で小さく呟いた。「何もかもがおかしい…」と。長い時間が経ち、車のタイヤが苔むした石畳の道を踏む音が静かな村の中に響いていた。遠くの木々がまるで眠っているかのように、何の動きもなく立ち尽くしていた。
「桐生、君が来るのは予想していたが…」
思わず後ろを振り返り、心臓が跳ね上がる。後ろには何も見えなかった。すぐに気を取り直し、また前を見た。しかし、なぜか背中に冷たい汗が流れる感覚が拭いきれなかった。桐生は、車を止めることなく村に向かって進み続けた。周囲の景色はほとんど見えず、ただ霧の中に迷い込んだような感覚だけが強まった。
「きっと、蓮もこんな気分だったんだろうか…」
桐生はその思いを胸の中で噛みしめる。探偵・神楽坂蓮はどんな気持ちでこの道を歩いたのか。それを知るためには、まずは村に足を踏み入れるしかない。そして、あの最後のメッセージが示唆していた通り、何かが起こっているのは間違いなかった。蓮がこの村で発見してしまったもの、それが桐生の心を深く引き寄せていた。
道を進むうちに、桐生の視界の端に木製の看板が現れた。「烏ノ杜村」という文字が不明瞭に浮かび上がる。そこにはかつての輝きが失われ、風化した文字がただ残っているだけだった。桐生は車を停め、ヘッドライトを消して外に出た。
足元の苔が、湿った音を立てて靴に絡む。霧はますます濃くなり、周囲の景色はほとんど溶けて見えなかった。桐生は深呼吸をしてから、手探りで看板を確認した。その瞬間、何かが目の前を横切る気配がした。桐生は驚いて振り返ったが、霧の中には何も見えない。ひときわ静かな村の夜の空気がさらに不安をかき立てる。
「誰かいるのか?」
桐生は呟くように声を出してみた。しかし、返事はなかった。静寂だけが重く、広がっている。その空気に、桐生は言いようのない不安を覚え、再び車に戻ることなく村の奥へと足を踏み出した。
道を進むにつれて、周囲の景色はますます奇妙になっていった。家々は廃墟のように荒れ果て、どこか懐かしさと不気味さが入り混じった雰囲気を醸し出していた。窓ガラスは割れ、扉は開きっぱなしで風に揺れている。そのどれもが、まるで人々の生活がここから消え去ってしまったことを示しているようだった。桐生は少し足を速め、村の中心を目指して歩みを進めた。
途中で、ふと足を止めた。道の脇に、かつて村の人々が使っていたと思われる古びた道具や家具が放置されているのが見えた。それらはすべて埃をかぶり、朽ち果てていた。やはり、この村は何十年も誰も訪れていなかったのだろうか。
桐生が進んでいくと、村の中心に古びた神社が見えてきた。神社の鳥居には、異様な手形が無数に残されていた。手形は大きさも形もバラバラで、まるで何かがしがみつこうとしたように、鳥居の柱にべったりとこびりついていた。桐生はそれをじっと見つめると、不思議な寒気を感じ、思わずその場を離れたくなる気持ちを抑えた。
鳥居の前に立ち、そこに描かれた手形に手を伸ばしそうになった桐生は、ふと気づく。手形はただのものではない。乾いていないのだ。まるで、血のような色をした手形が濡れているように見え、桐生はその恐怖を感じ取った。何かが、この村で起こっていたのだ。
桐生はその場を離れ、神社の境内に足を踏み入れた。だが、彼が歩みを進めるたびに、背後から足音が聞こえた。振り向くが、誰もいない。すぐに再び足を進めたが、足音はそのままついてくる。彼はもう一度振り返り、静かにその足音が途切れたことを確認したが、胸の中で高鳴る恐怖を抑えることはできなかった。
神社の中に足を踏み入れると、無造作に置かれた古びたノートが目に入った。それは、神楽坂蓮のものだった。桐生はそれを拾い上げ、震える手でページをめくる。そこには、蓮が最後に記したメッセージがあった。
「私を見ている。……やつが来る……目を合わせるな……」
桐生は息を呑み、その言葉が何を意味するのかを考えたが、すぐに背後で異音がした。振り向くと、そこには何もない。ただ、ただ暗闇と霧が広がるばかりだった。だが、その静寂の中で、何かが確かに感じられた。人の気配ではない、もっと恐ろしいものが。
0
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる