消えた探偵と呪われた村

ユキワラシ

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第一章 封じられた村

第2話 山道の霧

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桐生響は山道を車で進む中、次第に不安が胸を占めるのを感じていた。普段なら、霧に包まれた道を走るのはどこか幻想的で美しいと感じることもあった。しかし、ここではその霧がどこか不気味で、桐生の心をさらに重くさせていた。周囲は一面の白濁した霧で覆われ、視界はほとんどゼロになった。車のヘッドライトが霧を切り裂くように進んでいるが、その先に何が待ち受けているのか、桐生にはわからなかった。

ラジオの音が次第に雑音に変わり、やがて完全に静寂が広がった。携帯の電波も圏外になり、外界とのつながりが完全に断たれたことを感じ取った桐生は、心の中で小さく呟いた。「何もかもがおかしい…」と。長い時間が経ち、車のタイヤが苔むした石畳の道を踏む音が静かな村の中に響いていた。遠くの木々がまるで眠っているかのように、何の動きもなく立ち尽くしていた。

「桐生、君が来るのは予想していたが…」

思わず後ろを振り返り、心臓が跳ね上がる。後ろには何も見えなかった。すぐに気を取り直し、また前を見た。しかし、なぜか背中に冷たい汗が流れる感覚が拭いきれなかった。桐生は、車を止めることなく村に向かって進み続けた。周囲の景色はほとんど見えず、ただ霧の中に迷い込んだような感覚だけが強まった。

「きっと、蓮もこんな気分だったんだろうか…」

桐生はその思いを胸の中で噛みしめる。探偵・神楽坂蓮はどんな気持ちでこの道を歩いたのか。それを知るためには、まずは村に足を踏み入れるしかない。そして、あの最後のメッセージが示唆していた通り、何かが起こっているのは間違いなかった。蓮がこの村で発見してしまったもの、それが桐生の心を深く引き寄せていた。

道を進むうちに、桐生の視界の端に木製の看板が現れた。「烏ノ杜村」という文字が不明瞭に浮かび上がる。そこにはかつての輝きが失われ、風化した文字がただ残っているだけだった。桐生は車を停め、ヘッドライトを消して外に出た。

足元の苔が、湿った音を立てて靴に絡む。霧はますます濃くなり、周囲の景色はほとんど溶けて見えなかった。桐生は深呼吸をしてから、手探りで看板を確認した。その瞬間、何かが目の前を横切る気配がした。桐生は驚いて振り返ったが、霧の中には何も見えない。ひときわ静かな村の夜の空気がさらに不安をかき立てる。

「誰かいるのか?」

桐生は呟くように声を出してみた。しかし、返事はなかった。静寂だけが重く、広がっている。その空気に、桐生は言いようのない不安を覚え、再び車に戻ることなく村の奥へと足を踏み出した。

道を進むにつれて、周囲の景色はますます奇妙になっていった。家々は廃墟のように荒れ果て、どこか懐かしさと不気味さが入り混じった雰囲気を醸し出していた。窓ガラスは割れ、扉は開きっぱなしで風に揺れている。そのどれもが、まるで人々の生活がここから消え去ってしまったことを示しているようだった。桐生は少し足を速め、村の中心を目指して歩みを進めた。

途中で、ふと足を止めた。道の脇に、かつて村の人々が使っていたと思われる古びた道具や家具が放置されているのが見えた。それらはすべて埃をかぶり、朽ち果てていた。やはり、この村は何十年も誰も訪れていなかったのだろうか。

桐生が進んでいくと、村の中心に古びた神社が見えてきた。神社の鳥居には、異様な手形が無数に残されていた。手形は大きさも形もバラバラで、まるで何かがしがみつこうとしたように、鳥居の柱にべったりとこびりついていた。桐生はそれをじっと見つめると、不思議な寒気を感じ、思わずその場を離れたくなる気持ちを抑えた。

鳥居の前に立ち、そこに描かれた手形に手を伸ばしそうになった桐生は、ふと気づく。手形はただのものではない。乾いていないのだ。まるで、血のような色をした手形が濡れているように見え、桐生はその恐怖を感じ取った。何かが、この村で起こっていたのだ。

桐生はその場を離れ、神社の境内に足を踏み入れた。だが、彼が歩みを進めるたびに、背後から足音が聞こえた。振り向くが、誰もいない。すぐに再び足を進めたが、足音はそのままついてくる。彼はもう一度振り返り、静かにその足音が途切れたことを確認したが、胸の中で高鳴る恐怖を抑えることはできなかった。

神社の中に足を踏み入れると、無造作に置かれた古びたノートが目に入った。それは、神楽坂蓮のものだった。桐生はそれを拾い上げ、震える手でページをめくる。そこには、蓮が最後に記したメッセージがあった。

「私を見ている。……やつが来る……目を合わせるな……」

桐生は息を呑み、その言葉が何を意味するのかを考えたが、すぐに背後で異音がした。振り向くと、そこには何もない。ただ、ただ暗闇と霧が広がるばかりだった。だが、その静寂の中で、何かが確かに感じられた。人の気配ではない、もっと恐ろしいものが。
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