消えた探偵と呪われた村

第一章 封じられた村

第14話 復活の儀式

桐生と玲子は、必死に手を振り払おうとしたが、伸びてくる黒い腕の力は予想を遥かに超えていた。腕は無慈悲に二人を捕らえ、強く引き寄せていく。その感触は冷たく、骨を押しつぶすような圧力が加わる。桐生は叫びながら、玲子を守ろうと必死になったが、闇の力は全く抗うことができなかった。

「だめだ…こんなの…！」桐生は必死に叫んだ。しかし、その声は闇に呑み込まれ、何の反応も返ってこなかった。

周囲の霧がさらに濃くなり、二人は完全に視界を失いそうになった。どこかから冷たい風が吹き、霧の中に浮かぶような奇怪な影が見え隠れしている。桐生は体がひきつけられるように感じ、足元が崩れたようにぐらついた。

その時、遠くから重々しい音が響いてきた。それは、何か巨大なものが動き始める音のようだった。地面が揺れ、空気が歪んでいく。桐生はその音を耳を澄まして聞いた。

「…あれは…？」玲子の震える声が桐生の耳に届く。

「分からない…！」桐生は叫んだ。「でも、何かが…何かが動き出した！」

その時、目の前の闇が急激に裂け、目の前に巨大な扉が現れた。その扉は、暗闇の中からまるで生きているかのようにゆっくりと開かれていく。扉の中には無限の闇が広がり、その先に何か恐ろしいものが潜んでいるように感じられた。

「これは…」桐生は目を見開き、息を呑んだ。「何だ？これは一体…」

玲子もその光景を見つめ、恐怖と好奇心が入り混じった表情を浮かべていた。「あれは…どこかで見たことがあるような…」

桐生は、過去に草野が語っていた言葉を思い出した。「封印された神々が目を覚ます時、この扉が開かれる。そして、すべてが始まる…。」

その言葉が脳裏をよぎると、桐生は背筋が凍るような感覚を覚えた。この扉こそが、草野が言っていた「終わりの始まり」の場所だと確信した。恐ろしい存在がこの扉の向こうに眠っている。それを解放すれば、村はおろか、この世界すらも破壊されてしまうかもしれない。

「早く、ここから出よう！」桐生は再び玲子を引っ張り、必死に後ろへと歩き始めた。しかし、その動きが早すぎたのか、突然、背後からあの冷たい腕が再び伸びてきた。二人は再びその力に引き寄せられ、足を踏み外して倒れ込んだ。

「動けない！」玲子は苦しそうに叫びながら、桐生の腕を掴んだ。「もう…無理だ、桐生さん！」

その時、背後の暗闇から、恐ろしい声が響いた。声はあまりにも低く、耳を貫くような響きがあった。

「選ばれし者たちよ。君たちは今、この地に足を踏み入れたことを後悔することになるだろう。」

桐生はその声に耳を傾け、振り返ろうとしたが、身体が硬直し、目の前の光景が歪んでいった。目の前の扉がさらに広がり、その向こうにある闇の中から、無数の目が光り始めた。

「これが…始まりだ。」その声は、まるで何千年もの間、眠り続けていたかのような響きを持っていた。「終わりを迎える時、君たちもその一部となる。」

桐生は恐怖に震え、必死に玲子を守ろうとしたが、その力は次第に弱まっていった。闇が彼を包み込むようにして、桐生の体はどんどんとその中に引き込まれていく。

その瞬間、桐生の脳裏に一筋の閃きが走った。草野の言葉が再び浮かんできた。「呪いを解放することは、すべてを終わらせることではなく、すべてを始めることだ。」その言葉が意味するものは、今ここで目の前に広がる恐怖そのものであった。

「僕たちは…もう戻れないのか…？」

その問いは、桐生自身に対するものだった。すべてが崩壊し、終わりの始まりが目の前に迫っている。桐生の胸の中で、強烈な恐怖と共に、何かが崩れ落ちていく感覚があった。

「もう…何もかもが遅いのか…？」

その瞬間、足元の地面が揺れ、暗闇の中から力強い声が響いた。

「君たちは、もう引き返すことはできない。運命はすでに決まっている。」その声は、まるで神々の力そのもののように強大で冷徹だった。

桐生と玲子はその声に導かれるようにして、再び動けなくなった。彼らは今、この恐怖の世界に完全に呑み込まれてしまったのだ。