消えた探偵と呪われた村

ユキワラシ

文字の大きさ
17 / 32
第一章 封じられた村

第17話 闇の支配者

しおりを挟む
桐生と玲子が一筋の光を目指して走り続ける中、背後で不気味な声が響いた。「逃げられない。」その声は、先ほどの影の声と同じように、空間そのものから発せられているかのようだった。まるで空気が震え、周囲の空間そのものが桐生たちを閉じ込めようとしているかのように感じられた。

「桐生さん、急いで!」玲子が桐生の手を強く握りしめ、必死に駆ける。しかし、足元の地面が不安定になり、進む速度が次第に遅くなっていった。桐生は何度も足を取られ、彼らを追い詰める闇の影を振り払うことができなかった。

目の前の光がますます遠ざかり、闇の力が彼らを引き寄せるようにして強く迫ってくる。桐生は振り返ることなく、前に進み続けた。だが、光はあまりにも弱く、次第にその輝きを失っていった。絶望的な気持ちが桐生の胸を押しつぶすように広がっていった。

「桐生さん…」玲子の声がかすかに聞こえた。「私たち、どうして…どうしてこんなことになってしまったの…?」

桐生は心の中でその問いに答えられなかった。すべてが手遅れだったのかもしれない。草野の警告通り、彼らはこの村に足を踏み入れたことで呪いを呼び覚まし、今やその呪いの力に支配されてしまっていたのだ。

突然、桐生は強烈な引力を感じて足元が崩れそうになった。その感覚は、何か巨大な力が自分を引き寄せているようで、必死に抵抗しても無駄に感じられた。彼の体が完全に浮かび上がり、足元が地面から離れていった。

「桐生さん!」玲子は必死に桐生を引き止めようと手を伸ばしたが、彼女の手もまた、闇の力に引き寄せられるように消えていった。

その時、桐生は目を見開いた。目の前の闇が再び形を変え、目の前に現れた影が確固たる姿を持ち始めていた。それは、今までの影とは全く異なる。人の形をしていたその存在は、冷徹で無慈悲な力を放っていた。その瞳は、まるで世界を見下ろすかのように高貴で、同時に深淵を覗くような恐ろしい力を感じさせた。

「お前たちは、最後の扉を開けた。」その声は、何千年もの時を経て放たれたような重みを持っていた。「もはや後戻りはできぬ。」

桐生は、恐ろしいその存在の目を見つめ、心の中で必死に何かを思い出そうとした。草野の言葉、村に隠された謎、それらを繋げていくうちに、ひとつの真実が浮かび上がるのを感じた。

「お前は、何者だ?」桐生は、その恐怖を押し込めようと、かすかな声で問いかけた。

影は静かに微笑んだ。「私は、この村の守護者。そして、ここに封印された者の一部。」その言葉に桐生は背筋を冷たく感じた。守護者?それは、村を守る者ではなく、呪いを解き放つ者としての存在だった。

「守護者…お前が、村の呪いの元凶だというのか?」桐生は恐る恐る声を上げた。

その問いに、影はゆっくりと頷いた。「そうだ。この村は、封じられた力を持つ者たちによって守られてきた。しかし、今、この力は解放されることとなった。それが、お前たちの手によって。」

桐生はその言葉に驚愕した。自分たちが解放したという事実に、胸の奥で重い衝撃が広がった。この村に眠っていたもの、そしてその力が目覚めたのは、桐生と玲子が村に足を踏み入れたことが原因だったのだ。

「では、私たちはどうすれば良い?」桐生は問いかけた。「呪いを解く方法はないのか?」

影は冷たく笑った。その笑いは、まるで死者のように響き渡り、桐生の耳に痛みを感じさせた。「解く?解放されたものに戻すことなどできるわけがない。」その声には、絶望的な響きがあった。

「それでも、私たちは諦めない。」桐生は決意を固めた。「もし、この呪いを止められなければ、全てを破壊されることを覚悟している。」

影はその言葉を聞いて、微笑みを浮かべた。「ならば、最後の試練が待っている。お前たちがそれを乗り越えられなければ、全てが消え去るだろう。」その言葉が響くと同時に、桐生の足元の地面が崩れ、再び強烈な引力が彼を引き寄せていった。

「桐生さん!」玲子の声が遠くで聞こえ、桐生は必死に彼女を呼び戻そうとした。しかし、その声が次第に消えていき、目の前の闇が再び深く広がっていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...