『Pâtisserie Hina 〜夢と絆のスイーツ物語〜』

第7章 フードアカデミーニューヨーク校開校！

第144話 - リンの知らない決断

アレックスとリンの結婚式が終わり、幸せな日々が続いていた。しかし、アレックスは心の中で、次なる大きな決断を下さなければならないというプレッシャーを感じていた。彼はフードアカデミーで学び、料理の世界で成功を収めることに情熱を注いでいたが、今後の未来を考えたとき、どうしてもフードアカデミーを続けることができないという思いが強くなってきた。

ある晩、アレックスは静かな部屋の中で一人悩んでいた。リンと一緒に過ごしている日々は素晴らしいものだったが、彼はフードアカデミーで新たな挑戦をすることに限界を感じていた。

「このままリンと一緒に過ごしながら、料理の道を歩み続けるのは…無理かもしれない。」アレックスは自分に言い聞かせるように呟いた。

彼が悩んでいたのは、フードアカデミーを辞めて、別の道を歩むことだった。アカデミーでは学んだことが多かったが、次に進むためには、今の環境から一歩踏み出す必要があると感じていた。彼は密かに、次なるビジネスの可能性や、別のレストランでの仕事を探し始めていた。しかし、リンにはそのことを一切話さずにいた。

翌朝、アレックスは朝食の時間にリンに向かって言った。「リン、ちょっと話があるんだ。」

リンは不安そうにアレックスを見つめた。「どうしたの、アレックス？ 何かあった？」

アレックスは心の中で何度も言葉を選び直したが、結局、彼は決断を伝えるべきだと感じた。だが、彼の心はまだ揺れていた。

「実は…フードアカデミーを辞めようと思ってる。」

リンは驚きの表情を浮かべて、思わず声を上げた。「えっ、どうして？ 何か問題があったの？」

アレックスは少し目を伏せ、胸の中で抱えていた重い思いを言葉にする。「フードアカデミーの環境は素晴らしいけど、俺にはもっと別の挑戦が必要だと思うんだ。これ以上ここにいても、俺は次のステップに進めない気がして…。リン、今の俺には新しいことに挑戦する時間が必要なんだ。」

リンは言葉を失い、しばらく黙ったままだった。アレックスの言葉は予想していなかったもので、彼女はショックを受けていた。「でも…アレックス、私たち、結婚したばかりじゃない。それに、私たちが一緒に過ごしてきた時間、全てが大切だと思っていたのに…どうしてそんな決断をするの？」

アレックスはリンの目を見て、少し後悔しながらも答えた。「俺が新たに始めたいと思っていることは、フードアカデミーの枠を超えることだよ。今の仕事も悪くはないけど、俺はもっと広い世界で挑戦したい。君と一緒にいることも大切だけど、それと同じくらい、俺には成長するための時間が必要なんだ。」

リンの胸は痛み、言葉が出なかった。しかし、彼女はアレックスを理解しようと努力していた。彼の気持ちを尊重し、最終的には彼がどんな決断をしても支えようと思っていた。しかし、同時に彼女の心には、強い寂しさが広がっていった。

「私はアレックスがどんな決断をしても支えたい。だけど…こんな形で、何も言わずに辞めるのは少し悲しい。」リンは静かに言った。

アレックスはしばらく黙っていたが、リンの気持ちに応えるように、ゆっくりと話し始めた。「俺も本当は君にもっと早く伝えるべきだった。でも、俺が辞める理由をちゃんと伝えたかったんだ。それでも、君を悲しませる結果になってしまったことは、すごく申し訳ないと思っている。」

リンはしばらく沈黙し、深い呼吸をした後、しっかりとアレックスを見つめた。「アレックス、あなたの夢を追いかけることが大切だと思う。でも、私たちが一緒にいる未来も、私にとって大切だよ。もしあなたが決断した道を進むなら、私もそれを応援する。でも、これからのことをもう少し一緒に話し合いたい。」

アレックスはその言葉を聞いて、少しホッとしたような表情を浮かべた。「ありがとう、リン。君の理解があるからこそ、俺は前に進む勇気が持てる。だけど、君にはこれからもずっと支え合っていきたいと思ってる。」

二人はその後、何時間も話し合い、アレックスの決断がリンにとっても受け入れられる形で進めていくことを決めた。しかし、アレックスがフードアカデミーを辞めるという決断がどんな影響を与えるのかは、まだ誰にも分からなかった。