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だから揉め事は嫌いなんだ
夢の具現化
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フォルセ帝国。
西洋帝国の端くれだったこの国は、ここ十数年で途端に発展し栄光を極めた。革新的なエネルギー資源が生まれたわけでもなく、何か新しいランドマークが出来たわけでもないのに、なぜ貧窮していたフォルセ帝国が爆発的に栄えたのか。理由は一つだった。
「フォルセといえば、やっぱり夢の具現化だよね!」
「隣国でも有名だったな」
夢の具現化なんて所詮馬鹿馬鹿しい夢物語だと思われていたことを、フォルセ帝国は成し遂げたのだった。夢の映像化に成功したことを皮切りに、トントン拍子にことが進み、いつの間にか映像化された夢を売買する市場「夢売買」から、その夢を「具現化」することにも成功した。おかげでこの国は貧窮国から一転、先進国の仲間入りを果たした。
…と、余所者の僕でさえこれくらいの情報を得られるくらいには有名だ。
しばらく歩き続けると、ドリーがたくさんの人が行き交う大通りで止まった。
「まあ誰でも自由に具現化ができるわけじゃないんだけど。…はい!到着!ここがフォルセの中枢です!」
「え、何だこれ!?」
見渡す限り人。
人。
………人。
「ちょ、人多すぎない?」
「何てったってフォルセの中でも一番栄えてる場所だからね!ほら、あそこ」
細い指が示す先には、真っ白な外壁に鮮やかなステンドグラスが眩しいまるで聖堂のような建物があった。修道院?病院?もしやちょっとした富豪の別荘か?
「うーん、聞いたことあるかな?これが夢現士協会だよ!」
「むげ…ごめん、何だって?」
「む、げ、ん、し、きょ、う、か、い!実際に夢を具現化するのは夢を見た本人じゃなくて、夢現士っていう職業の人がするの。だから、具現化してほしいときはみんな映像化した夢を持ってこの協会に来るんだ」
「なるほど」
何だか言葉の羅列で頭がこんがらがりそうだが、要は夢現士という職業の人間しか具現化が出来ないってことか。それは初耳だ。
「随分煌びやかなんだね」
「うん、たまに眩しい」
「ああ…納得」
なんでも国が夢売買の市場拡大に先駆けて建て直しをしたらこの見た目になったんだとか。それもドリーが生まれた頃にはすでにこの見てくれだったらしいので、それなりに昔のことなのだろう。
「そして、夢現士協会へ繋がるこの大通り。すべてが夢売買の露店なのです!」
「全部!?」
「そうだよ!どうだ、驚いたか」
「うん…驚いた…」
優に百は超えそうなほどの露店が立ち並んでいるが、これ全てが夢を売っているのか。栄えているとは聞いていたが、まさかここまでとは。
「夢って袋に入れられて売られてるんだね」
「でも実際中に入ってるのはカセットテープみたいなもの。それに夢を映像化したのが刷り込まれてるの」
「ああ、それで」
それなら、今ここで誰かの見た夢が誰かに買われてるということになる。
「何のために人の夢なんか買うんだい?」
「そりゃ、具現化するためよ」
そう言われてようやく納得する。自分が実現したいことを夢を通じて買うわけだ。よく言えば合理的な、悪く言えば私利私欲にまみれた市場だ。
「うーん、次はどこが良いかな」
「あの、さっきから気になってたんだけど、あそこの大きな建物は何?」
「あれね!うん!次はそこに」
「おいそこの若造!」
通りの中央から怒声が上がり、反射で肩が跳ねる。
「ねえ、思ったんだけどさ。」
「な、何?」
「リアムってビビリ?」
「おい!そこのお前だ!聞いてんのか!?」
「はいいい!?そうですビビリですもうそれで良いです!」
「お前だよ!」
「は!?」
太く骨張った指が肩に食い込んだ。
え、ちょっと待って、何これ。もしかして怒声の矛先、僕?
「その背格好…その佇まい…忘れもしねえ!お前鉾使いの死神だな!」
「またかよ!?」
「ああ!?」
「はい、すいません」
本日2度目の鉾使いの死神即行ジャッジ事件に見舞われる。嘘だ、何でだ、最悪だ。
「リアム、やっぱり鉾使いの…」
「だから違うって!」
「嘘つけ、お前は死神だ!」
「違う!違う!」
ドリーの目が輝きを増すのを見るに、どうやら助けてくれる見込みがないどころか鉾で撃退してくれるのを期待されているようだ。無理、無理無理。そんなことできない。
そんなに似て見えるのだろうか、と思案する。この国にはどれだけ鉾使いの死神の被害者がいるんだ。この調子だと軽く冤罪をふっかけられているようなものだ。
「そ、そもそも!目の色が」
「お前だけは絶対に許さねえ…その首真っ二つにしてやる!」
「え!?あ、え!?ちょ、ストップ!本当に、待ってください!」
「リアム頑張れ」
「ドリー!?」
大層ご立腹らしい大男は懐からジャックナイフを取り出し、ゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。いや、歩み寄ってくるなんて可愛いものじゃない。
…これは突進だ。
「おらああああああ!」
「あ、えっと…」
もうどうしようもないか、とひとまず猪突の如き体当たりを避けた。だが、それによって一層男の怒りを買ってしまったようで、次の瞬間には目が血走った男がこちらにガンを飛ばしてきた。
「ああ、やっちゃった…」
「調子乗ってんなよガキいいいいいい!」
煽ってしまったことを理解しつつも避けなければ死んでしまうのは目に見えているのですんででかわす。男の猛攻は続くが、しばらくすると力尽きて崩れ落ちた。
「おま……え、なんで…息ひとつ…乱れて…な、いんだ…?」
「それは、僕避けてるだけですし…」
「にしても…俺は、おまえ、に……何度も…仕掛け、たんだ…息切れくら、い…しても、いいはず…だろ」
「少しかわしただけですから…」
樽に囲まれてへばる男を前に高をくくっていたが、ここではたと気付く。
あれ。今、チャンスなんじゃないか。
「ドリー逃げよう!」
「え!?何で、あと少しで倒せるじゃない!」
「いいから!」
一目散に駆け出した僕らの背後で、男があいつは死神だ、と宣うのがわずかに聞こえた。
「だから揉め事は嫌いなんだ…」
西洋帝国の端くれだったこの国は、ここ十数年で途端に発展し栄光を極めた。革新的なエネルギー資源が生まれたわけでもなく、何か新しいランドマークが出来たわけでもないのに、なぜ貧窮していたフォルセ帝国が爆発的に栄えたのか。理由は一つだった。
「フォルセといえば、やっぱり夢の具現化だよね!」
「隣国でも有名だったな」
夢の具現化なんて所詮馬鹿馬鹿しい夢物語だと思われていたことを、フォルセ帝国は成し遂げたのだった。夢の映像化に成功したことを皮切りに、トントン拍子にことが進み、いつの間にか映像化された夢を売買する市場「夢売買」から、その夢を「具現化」することにも成功した。おかげでこの国は貧窮国から一転、先進国の仲間入りを果たした。
…と、余所者の僕でさえこれくらいの情報を得られるくらいには有名だ。
しばらく歩き続けると、ドリーがたくさんの人が行き交う大通りで止まった。
「まあ誰でも自由に具現化ができるわけじゃないんだけど。…はい!到着!ここがフォルセの中枢です!」
「え、何だこれ!?」
見渡す限り人。
人。
………人。
「ちょ、人多すぎない?」
「何てったってフォルセの中でも一番栄えてる場所だからね!ほら、あそこ」
細い指が示す先には、真っ白な外壁に鮮やかなステンドグラスが眩しいまるで聖堂のような建物があった。修道院?病院?もしやちょっとした富豪の別荘か?
「うーん、聞いたことあるかな?これが夢現士協会だよ!」
「むげ…ごめん、何だって?」
「む、げ、ん、し、きょ、う、か、い!実際に夢を具現化するのは夢を見た本人じゃなくて、夢現士っていう職業の人がするの。だから、具現化してほしいときはみんな映像化した夢を持ってこの協会に来るんだ」
「なるほど」
何だか言葉の羅列で頭がこんがらがりそうだが、要は夢現士という職業の人間しか具現化が出来ないってことか。それは初耳だ。
「随分煌びやかなんだね」
「うん、たまに眩しい」
「ああ…納得」
なんでも国が夢売買の市場拡大に先駆けて建て直しをしたらこの見た目になったんだとか。それもドリーが生まれた頃にはすでにこの見てくれだったらしいので、それなりに昔のことなのだろう。
「そして、夢現士協会へ繋がるこの大通り。すべてが夢売買の露店なのです!」
「全部!?」
「そうだよ!どうだ、驚いたか」
「うん…驚いた…」
優に百は超えそうなほどの露店が立ち並んでいるが、これ全てが夢を売っているのか。栄えているとは聞いていたが、まさかここまでとは。
「夢って袋に入れられて売られてるんだね」
「でも実際中に入ってるのはカセットテープみたいなもの。それに夢を映像化したのが刷り込まれてるの」
「ああ、それで」
それなら、今ここで誰かの見た夢が誰かに買われてるということになる。
「何のために人の夢なんか買うんだい?」
「そりゃ、具現化するためよ」
そう言われてようやく納得する。自分が実現したいことを夢を通じて買うわけだ。よく言えば合理的な、悪く言えば私利私欲にまみれた市場だ。
「うーん、次はどこが良いかな」
「あの、さっきから気になってたんだけど、あそこの大きな建物は何?」
「あれね!うん!次はそこに」
「おいそこの若造!」
通りの中央から怒声が上がり、反射で肩が跳ねる。
「ねえ、思ったんだけどさ。」
「な、何?」
「リアムってビビリ?」
「おい!そこのお前だ!聞いてんのか!?」
「はいいい!?そうですビビリですもうそれで良いです!」
「お前だよ!」
「は!?」
太く骨張った指が肩に食い込んだ。
え、ちょっと待って、何これ。もしかして怒声の矛先、僕?
「その背格好…その佇まい…忘れもしねえ!お前鉾使いの死神だな!」
「またかよ!?」
「ああ!?」
「はい、すいません」
本日2度目の鉾使いの死神即行ジャッジ事件に見舞われる。嘘だ、何でだ、最悪だ。
「リアム、やっぱり鉾使いの…」
「だから違うって!」
「嘘つけ、お前は死神だ!」
「違う!違う!」
ドリーの目が輝きを増すのを見るに、どうやら助けてくれる見込みがないどころか鉾で撃退してくれるのを期待されているようだ。無理、無理無理。そんなことできない。
そんなに似て見えるのだろうか、と思案する。この国にはどれだけ鉾使いの死神の被害者がいるんだ。この調子だと軽く冤罪をふっかけられているようなものだ。
「そ、そもそも!目の色が」
「お前だけは絶対に許さねえ…その首真っ二つにしてやる!」
「え!?あ、え!?ちょ、ストップ!本当に、待ってください!」
「リアム頑張れ」
「ドリー!?」
大層ご立腹らしい大男は懐からジャックナイフを取り出し、ゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。いや、歩み寄ってくるなんて可愛いものじゃない。
…これは突進だ。
「おらああああああ!」
「あ、えっと…」
もうどうしようもないか、とひとまず猪突の如き体当たりを避けた。だが、それによって一層男の怒りを買ってしまったようで、次の瞬間には目が血走った男がこちらにガンを飛ばしてきた。
「ああ、やっちゃった…」
「調子乗ってんなよガキいいいいいい!」
煽ってしまったことを理解しつつも避けなければ死んでしまうのは目に見えているのですんででかわす。男の猛攻は続くが、しばらくすると力尽きて崩れ落ちた。
「おま……え、なんで…息ひとつ…乱れて…な、いんだ…?」
「それは、僕避けてるだけですし…」
「にしても…俺は、おまえ、に……何度も…仕掛け、たんだ…息切れくら、い…しても、いいはず…だろ」
「少しかわしただけですから…」
樽に囲まれてへばる男を前に高をくくっていたが、ここではたと気付く。
あれ。今、チャンスなんじゃないか。
「ドリー逃げよう!」
「え!?何で、あと少しで倒せるじゃない!」
「いいから!」
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