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8話
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誰も居なくなったスタッフルームの壁に追い詰められ、逃げ場を無くしてしまった。
敏之は、目の前で嬉しそうに笑いながら迫り来る憧れの人を怯えた様に見上げながら、何故こんな状況になってしまったのだろうかと必死に考える。
もう嬉しいのか怖いのか、それさえもわからない。
ただ、嫌じゃない。もっと触れていたい。
それだけは確かで、そしてそれが全てであるような気もしていた。
「あの、ちょっと待って下さ……」
「だぁめ、待たない」
「……っん、ぅ」
唇に柔らかい感覚が触れると同時に、混乱し続けている頭の中がしびれる。
忍び込んでくる舌の熱さに、それ以上思考を巡らせる余裕はなくなってしまった。
ぎゅっと瞳を閉じてしまった敏之に気をよくしたのか、そのまま腰に回された手にぐっと引き寄せられ、身体を包み込まれる。
どこもかしこも密着した身体は、火を噴いてしまいそうな程熱くて、何よりも目の前のこの人に求められている事実が嬉しくて、敏之はもうこれ以上逃げる事は不可能だと知った。
十分に熱を絡ませ合った後、離れる瞬間に唇から糸を引く繋がった証が、やけに艶めかしくて恥ずかしい。
満足に呼吸が出来なくなっていた敏之は、荒く呼吸を整えながら、解放された安堵感よりもまたすぐに触れて欲しくなっている、飢餓感に驚く。
同意なんてしていないはずだったのに、許可を取ってくれた様でいて、ほぼ無理矢理だったと言っても過言ではないはずなのに、二度キスをされただけで、離れたくないという気持ちにさせられている。
憧れは、簡単に「好き」に変換されてしまうから、厄介だ。
ほんの数分前までは、そんな対象ではなかった。
考えられるはずもない相手だったはずなのに、もうその優しい笑顔が自分だけのものいなる事を、望んでしまっている。
「敏之くん? ごめんね、苦しかった?」
「大丈夫、です」
「僕の事、嫌いになっちゃったかな」
「違います」
「じゃあどうして、そんな苦い顔してるの?」
「自分の単純さに、呆れてるというか……チョロすぎじゃないかっていうか……。俺の問題であって、隆宏さんのせいじゃないです」
「それってもしかして、期待して良いって事かな?」
俯いてしまう前に、両頬が捕らえられる。
真っ直ぐに向けられる笑顔は、きっと敏之だけのものじゃないと、頭の何処かではわかっているのに、冷静になりきれない。
このまま、悪い大人に引っかかってしまってはいけないと、大きな警鐘が鳴っているのにも気付いているのに、止まらない。
今この時、自分だけに向けられている笑顔を、手放したくない。
(あぁ本当に。人を好きになるのは一瞬で、どうしようもないんだな)
士朗と雪哉の二人に、負けず劣らずの急展開だ。
むしろ、相手が一筋縄ではないと理解しているにも関わらず、気持ちを止められない敏之の方が、重症かもしれない。
「…………はい」
もう、どうしていいかわからない。
降参するように、自分から隆宏の肩に顔を埋めるようにくっつくと、鼓膜を揺るがすチュッというリップ音が耳に触れた。
「ふふ。溺れる位、愛してあげる」
「お手柔らかに、お願いします……」
びくりと震えた敏之の身体をぎゅっと抱き込んで、内緒話をする様に告げられた、この後を伺う甘くて妖艶な言葉に、敏之の身体は更に跳ねた。
それでも、逆らえない気持ちに背中を押されるようにしてゆっくりと頷くと、苦しい位に隆宏の腕が敏之を抱きしめる。
それはまるで、狡猾な鷹に狙われた哀れな小鳥が、捕われた瞬間の様だった。
END
敏之は、目の前で嬉しそうに笑いながら迫り来る憧れの人を怯えた様に見上げながら、何故こんな状況になってしまったのだろうかと必死に考える。
もう嬉しいのか怖いのか、それさえもわからない。
ただ、嫌じゃない。もっと触れていたい。
それだけは確かで、そしてそれが全てであるような気もしていた。
「あの、ちょっと待って下さ……」
「だぁめ、待たない」
「……っん、ぅ」
唇に柔らかい感覚が触れると同時に、混乱し続けている頭の中がしびれる。
忍び込んでくる舌の熱さに、それ以上思考を巡らせる余裕はなくなってしまった。
ぎゅっと瞳を閉じてしまった敏之に気をよくしたのか、そのまま腰に回された手にぐっと引き寄せられ、身体を包み込まれる。
どこもかしこも密着した身体は、火を噴いてしまいそうな程熱くて、何よりも目の前のこの人に求められている事実が嬉しくて、敏之はもうこれ以上逃げる事は不可能だと知った。
十分に熱を絡ませ合った後、離れる瞬間に唇から糸を引く繋がった証が、やけに艶めかしくて恥ずかしい。
満足に呼吸が出来なくなっていた敏之は、荒く呼吸を整えながら、解放された安堵感よりもまたすぐに触れて欲しくなっている、飢餓感に驚く。
同意なんてしていないはずだったのに、許可を取ってくれた様でいて、ほぼ無理矢理だったと言っても過言ではないはずなのに、二度キスをされただけで、離れたくないという気持ちにさせられている。
憧れは、簡単に「好き」に変換されてしまうから、厄介だ。
ほんの数分前までは、そんな対象ではなかった。
考えられるはずもない相手だったはずなのに、もうその優しい笑顔が自分だけのものいなる事を、望んでしまっている。
「敏之くん? ごめんね、苦しかった?」
「大丈夫、です」
「僕の事、嫌いになっちゃったかな」
「違います」
「じゃあどうして、そんな苦い顔してるの?」
「自分の単純さに、呆れてるというか……チョロすぎじゃないかっていうか……。俺の問題であって、隆宏さんのせいじゃないです」
「それってもしかして、期待して良いって事かな?」
俯いてしまう前に、両頬が捕らえられる。
真っ直ぐに向けられる笑顔は、きっと敏之だけのものじゃないと、頭の何処かではわかっているのに、冷静になりきれない。
このまま、悪い大人に引っかかってしまってはいけないと、大きな警鐘が鳴っているのにも気付いているのに、止まらない。
今この時、自分だけに向けられている笑顔を、手放したくない。
(あぁ本当に。人を好きになるのは一瞬で、どうしようもないんだな)
士朗と雪哉の二人に、負けず劣らずの急展開だ。
むしろ、相手が一筋縄ではないと理解しているにも関わらず、気持ちを止められない敏之の方が、重症かもしれない。
「…………はい」
もう、どうしていいかわからない。
降参するように、自分から隆宏の肩に顔を埋めるようにくっつくと、鼓膜を揺るがすチュッというリップ音が耳に触れた。
「ふふ。溺れる位、愛してあげる」
「お手柔らかに、お願いします……」
びくりと震えた敏之の身体をぎゅっと抱き込んで、内緒話をする様に告げられた、この後を伺う甘くて妖艶な言葉に、敏之の身体は更に跳ねた。
それでも、逆らえない気持ちに背中を押されるようにしてゆっくりと頷くと、苦しい位に隆宏の腕が敏之を抱きしめる。
それはまるで、狡猾な鷹に狙われた哀れな小鳥が、捕われた瞬間の様だった。
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